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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第四章 世界に背を向けたエイと思い出のつみれ汁

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157話 荒野の喫茶店

「うーん。どこを見ても、なんにもない淋しい場所だね……」


 マスターが張った結界の中で、そうつぶやいたしずくの周りには、見渡す限りの荒野が広がっている。

 ときおり砂埃(すなぼこり)が舞い上がる枯れた大地に、生き物の気配は全く感じられない。

 あるのは乾いた砂と石ころだけである。

 

 最近になって、ようやく瘴気(しょうき)が取り払われつつあるこの場所は、長年に渡り、魔物ですら生きていけないほどの、高密度の瘴気で覆われている危険な地として有名で、人々からは〈死の大地〉と呼ばれて恐れられているらしい。



 今、しずくがいるのは、シグベルム共和国があったムストルガ大陸(南大陸)の北西に位置する、カリエンテス大陸──通称〈西大陸〉と呼ばれている場所で、南には世界最大の活火山であるイシュカヌル山が(そび)えており、北には世界最大の湖として名高いグラキリス湖が、この大陸の東西をへだてるように横たわっている。


 かつて西大陸には多くの国々が存在し、それぞれが独自に繁栄していたが、やがて、大陸の西側で起こった大きな戦で多くの者の血が流されるようになると、戦場で蓄積された負の思念と魔力とが結びついて瘴気が生まれ、徐々に大地を覆っていった。


 その結果、この大量の瘴気と、そこから生まれた魔物の群れに蹂躙(じゅうりん)された大陸の西側は、生き物の住めない死の荒野に変貌を遂げたと言われている。

 以降、現在に至るまで、西大陸における人々の生存圏は、〈死の大地〉の北西にあるごく一部の地域と、グラキリス湖の東側、そしてイシュカヌル山周辺に限られているらしい。


 だが、この悲惨な状況は、〈大地の神〉ヴィリオーサを中心とする神々が、瘴気に汚染された土地の浄化と再生に着手し始めたことにより、つい数日前からようやく改善されつつあった。

 そして、しずくたち〈喫茶シルエ〉の面々は、日々浄化作業に取り組んでいるヴィリオーサたちから強く請われ、作業する間の食事や休憩をとるための憩いの場を提供するべく、彼らと共にこの地へと移転して来たのであった。




「ただいまー! プランターの水やりは終わったよー」

「おかえりなさい、ご苦労様でした」


 しずくが店内に戻ると、ちょうどマスターが来店客の会計を終えたところだった。

 カウンター内では、外にいたしずくに代わって、お手伝いゴーレムのごーちゃんたちが飲み物を作っている。


「注文のほうは大丈夫?」

「ええ。今は落ち着いていますよ」


 開店したばかりにもかかわらず、テーブルの八割方は既に客で埋まっている。

 彼らはいずれも瘴気に侵された土地を再生している神々で、作業前の腹ごしらえのために店を訪れているのだ。


「しずくちゃん、カレーがもう半分しか残ってないきゅる」

「具材は今ごーちゃんが炒めてくれてるきゅる」

「でもスパイスが足りないみたいきゅる」

「うわ、それは大変! 今すぐ調合に取りかかるね!」


 店内には香ばしいコーヒーの香りと共に、刺激的なカレーの匂いが漂っている。

 

 ターラージャ帝国の守護神である〈風雷の神〉ゼーヴァが、巫女のシェイラと共に帝国に戻った後、安価な材料で試作を重ねたしずくが、満を持してカレーライスを店のメニューに加えたところ、その複雑な辛味に病みつきになる者が続出し、〈喫茶シルエ〉を中心にしてカレーの一大ブームが起こってしまったのだ。


辛党の神様たちがこぞって大歓喜した模様(*^-^*)

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