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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第三章 腹ペコの虎と起死回生のカレーライス

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154/165

154話 今のままでいいよ

第三章の最終話です。


「あの皇女がぼくの名前を呼んでいたと言うことは、しずくさんはおそらく、僕の権能を知ってしまったんですよね?」

「ああ、うん。マスターは知られたくなかったみたいだけど、あの時は不可抗力(ふかこうりょく)で──その、なんかごめんね?」

「いえ、それはいいんです。別にしずくさんのせいではありませんしね。ただ、ぼくの正体が〈金運と財運の神〉だと知って、しずくさんがどう思っているのかが気になってしまって」

「? それってどういう意味?」

「だってほら、〈金運と財運〉だなんて、なんだか俗っぽい権能ですし──だから、がっかりされてしまったのではないかと思って……」

「ええっ? そんなこと、全然思ってないよ?!」


 意外な悩みを打ち明けられたしずくが困惑する。


「ですが、〈金運と財運〉より、〈風雷〉という言葉の響きのほうが格好良くありませんか? それに本当は、こんなポテっとした丸っこい蛇なんかより、ゼーヴァみたいにシュッとした美青年のほうがいいのでは?」

「やだ、マスターってば、そんなことを気にしてたの?!」


 しずくは(こら)えきれずに吹き出した。マスターは少しだけ傷ついた顔をして、恨みがましそうに彼女を見た。




「ねえ、マスター」


 しずくはようやく笑いを収めると、まるでいじけた子供を諭すような、穏やかな口調で話しかけた。


「人に変化した時の虎さんのように、もしマスターがカッコいい海外モデルみたいな姿だったら、顔を合わせるたびに気おくれしそうで嫌だよ。私は、かわいらしくて見ているだけで癒される、今のままのマスターがいいよ」

「……本当に?」

「うん。本当だよ」


 しずくの言葉がよほど嬉しかったのか、マスターの尻尾の先がぴろぴろと高速で揺れている。



(確かに見た目は素敵だけど、食っちゃ寝好きで肝心な所が抜けている虎さんより、少しうっかりさんでも基本的に真面目で、いざという時は頼りになるマスターの方がずっといい──なんて正直に話したら、きっと嬉しくて舞い上がっちゃうんだろうなあ……)


 あのかわいらしい羽で、文字通りどこまでも高く飛んでいってしまいそうだ。




(……もしそうなったら連れ戻すのが大変そうだから、ここ数日、マスターの事をよく夢で見ていたことも黙っておこう──)




 ──これは決して恥ずかしいとか、照れくさいからではない。舞い上がったマスターが、うっかりどこか遠くへ行ってしまわないように、秘密にしているだけなのだ。





「しずくさん? 急に黙り込んでどうしました?」

「ううん。なんでもない。涼しくなってきたから、そろそろ店に入ろっか!」


 しずくはそう言って、ぱたぱたと飛んで顔をのぞき込んできたマスターを腕に抱えると、三匹のシュクレドラゴンと一緒に温かな店内に戻っていった。




 ヴィリオーサと〈白い死神〉はまだぐっすり眠っているようだ。見ると、毛玉たちもソファの上でひとかたまりになって、うたた寝しはじめている。


 彼らを起こさないように、しずくはそっとカウンターの上にマスターを下ろすと、いつものカップにコーヒーを淹れ始めた。


「ああ、やっぱりしずくさんの淹れてくれるコーヒーは、各段にいい香りがします……」

「留守中にあったことを全部報告するには、かなり時間がかかりそうだから、眠気覚ましにね」

「なるほど、そういうことでしたか」


 いたずらっぽく笑うしずくを、マスターが嬉しそうに見つめている。


「あるじ様たち、楽しそうきゅる! ぽぴーたちも、しずくちゃんのお茶を飲みながら、マスターとたくさんお話するきゅる!」

「ねりねは、とらさんがやって来た時、ふわふわさん達が助けてくれたことを話したいきゅる!」

「ももは、頑張ってケーキを作ったのを、あるじ様にほめてほしいきゅる!」

「ふふ。そうですか。では、順番に聞かせてもらうことにしましょうか」


 しばらくすると、しずくたちの話し声でヴィリオーサや〈白い死神〉や毛玉たちが目を覚まし、自分たちも話に混ざろうと寄って来た。

 気付いたしずくが全員分のお茶とケーキを用意すると歓声が上がり、たちまち店内がにぎやかになった。

 みんなの眠気は、いつの間にかどこかに出かけてしまったようだった。





 そしてこの日、〈喫茶シルエ〉の明かりは、すっかり夜が更けてからも消える事がなく、店内からはいつまでも楽しそうな声が響いていた。

これで第三章は終了です。

一話だけ間章をはさんでから、第四章に続きます(*^-^*)

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