152話 新しい常連客をゲット!
「お貸りした宝具のおかげで、ご飯を炊くのもカレーを煮込むのも、かなり時間を短縮できました。どうもありがとうございます!」
「ははは。〈刻知らずの宝具〉を使うように勧めたのはこちらなのだから、礼は不要です。それよりも、こんなにも美味い料理を口にするのは、生まれて初めてですよ。ほら、見て下さい、あまりにも美味いので、普段は小食のターファズまでもが、あんなに夢中になって食べています」
アンワルの視線の先にいた白いひげの老いた虎人族は、食いしん坊のポピーに劣らない勢いで、かつかつとカレーを平らげている。
「あの老人──確かにぼくが帝国まで送ったはずなのに、この店に戻った時には、既にああやってカレーを食べていたんだよね……」
マスターが不思議そうな顔をして首を傾げている。
「そういえば神殿長さんって、いつの間に戻って来たんだろうね?」
「ターファズは、どうしても料理長殿のカレーが食べたかったようでして。面倒な後処理を部下に押し付けて、自分はすぐに転移魔法で戻って来たようです」
「ええ……」
しずくが半目になってドン引きしている。
「へえ。獣人はわりと魔法が不得意なのに、転移魔法が使えるのは凄い事だね」
「ええ。ですが、何度も使うと、魔力を一気に失った反動で、翌日は全身が痛んで寝込む羽目になるそうです。だから、滅多な事では使おうとしなかったのですが──」
「だけど、カレーが食べたくて使ってしまったんだね……」
「ええ。どうやら、痛みよりも食い気が勝ったようです……」
マスターとアンワルは半笑いしながら語り合った後で、ほぼ同時に遠い目をした。
「でも、大丈夫かな? カレーのせいで寝込ませちゃうのは、なんだか心苦しいような……」
「ははは。ターファズが自分の判断で行ったことなのですから、料理長殿が気にすることはありません。あやつは、カレーを作る手伝いの時も前のめりでしたしな」
言われてみれば、調理の手伝いに加わったゼーヴァが、風魔法で玉ねぎをスライスしている隣で、ターファズ神殿長も嬉々として火魔法を駆使しながら、絶妙な焼き加減で肉を調理してくれていた。
「あやつは、年を取ってすっかり食が細くなった自分に、久々に食欲が戻ってきたことが嬉しいのでしょう。たとえ明日一日寝込むことになっても、後悔することはないはずです」
皇帝が笑いながら言っていた通り、その後ターファズ神殿長は三杯ものカレーライスをペロリと平らげると、上機嫌な顔のままでアンワルと共に転移魔法で帰って行った。
「神殿長さん、『また来ます』って言っていたけど、まさか転移魔法で来るつもりかな?」
「あの様子だと、やりかねませんね」
しずくとマスターが苦笑いしていると、食休みだと言って、白虎の姿に戻ってゴロ寝していたゼーヴァが起き上がった。
『心配するな、料理長。今度あいつがカレーを食べたいと言い出したら、俺が背に乗せて連れて来てやろう!』
「その時は、ターファズ様が食べ過ぎないよう、私がそばで見張るようにします」
ヒゲに寝ぐせを付けて、得意げに胸を張るゼーヴァを見ながら、シェイラがくすくすと笑って付け加える。
「どうやら、また新しい常連客を得られたようですね」
「やっぱり、〈喫茶シルエ〉の新メニューはカレーライスで決まりかな?」
すると、たちまち店にいた全員から、異口同音に賛成の声が上がった。
しずくは、すっかり空になった二つの大鍋を見ながら嬉しそうに笑うと、メニューに加えるのはどんなカレーにしようかと、あれこれと思案し始めたのだった。




