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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第三章 腹ペコの虎と起死回生のカレーライス

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151話 カレーの宴


「おや? これはまた、ずいぶんと美味(おい)しそうな匂いですね!」



 それから三十分ほどたってから、メーナたちをターラージャ帝国に送っていったマスターがようやく戻って来た時、店内には食欲を掻き立てるカレーの香りが充満していた。


「あ、マスター、お帰りなさい! 結構時間がかかってたけど、向こうで何かあったの?」

「いえ、大丈夫ですよ。愚かな皇后とその一派に(くぎ)を刺していたせいで、少しばかり遅くなっただけです」


 帝国に到着したのと同時に、周囲の者に命じてメーナと皇后を容赦なく牢に放り込んだマスターは、なおも騒ぎ立てる皇后とその取り巻きの貴族たちを、〈金運と財運の神〉のタピネの威光(いこう)で黙らせてきたらしい。


「ぼくとゼーヴァ、二柱(ふたはしら)の神から直々に断罪されたのですから、今度ばかりは皇后の母国も横槍を入れられないはずです」

「じゃあ、これで虎さんやシェイラさんは安心して帝国に戻れるんだね! マスター、ありがとう!」

「しずくさんにそんなに喜んでもらえるのなら、たとえ面倒でもやった甲斐(かい)がありました。ところで、またカレーを作っているんですか?」


 コンロに載せた二つの大鍋を、お玉でかき回すことに余念がないしずくを見て、マスターが翡翠(ひすい)色の目をぱちくりさせた。


「うん。ここにいる全員で食べるとなると、今残っている分だけでは全然足りなくて。だから、急いで作り足すことにしたの」

「そういうことでしたか──でも、この様子だと、新しく作ったカレーもすぐに足りなくなりそうですね……」


 マスターの視線の先では、三匹のシュクレドラゴンとヴィリオーサ、十二体の光る毛玉たちと黒い毛玉、ターラージャ帝国の面々とゼーヴァ、そして〈白い死神〉とが、それぞれのテーブルに陣取って、夢中になってカレーライスをむさぼっている。


 彼らの周りでは、お手伝いゴーレムのごーちゃんたちがテキパキと給仕をしているが、数分おきにおかわりの声がかかるせいで、水や飲み物を注ぐだけでなく、食べ終わった皿を下げたり新しいカレーライスを持ってきたりと、とても忙しそうだ。


「ふふっ。みんながこれ程までにカレーを気に入ってくれるだなんて思ってもみなかったよ」

「まさか、甘党の彼らまでカレーに夢中とは──」


 マスターのつぶらな瞳は、窓際の二つのテーブルに釘付けになっている。


「あはは、びっくりしたでしょ? ふわふわさんや小鳥さんもカレーが気になるみたいだったから、試しに、死神はちみつと生クリームで甘口にしたものを出してあげたら、どハマりしちゃったみたいなの」



 甘党の神々をも魅了するカレーの中毒性、まさに恐るべしである。



 〈白い死神〉や光る毛玉は、甘口のカレーがよほどお気に召したらしく、甘い物を食べる時とほぼ同じペースで平らげている。


 話しているうちにも、ごーちゃんたちがおかわりの注文を持って来た。


「お、黒ふわさんはこれで三杯目のおかわりだね。でも、今まで食べた分は、あの小さな体のどこに入っているのかなあ?」

「それは、ぼくにもわかりません。世界中のどこにでも現れる彼らは、とにかく謎が多い神なのです。いまだにどんな権能を持つのかもわからないのですが、それでも、味方にすればとても頼もしい神なのですよ」

「ふふ。それはもう知ってるよ。マスターが留守の間、ふわふわさんや黒ふわさんたちには、何度も危ない所を助けてもらったからね」


 黒い毛玉のためのカレーライスをよそっていると、今度は皇帝アンワル自らが空になった皿を持ってやってきた。


「小さな給仕係が忙しそうだったので──」


 そう言って、優しい目をして笑う皇帝は、早くも五杯目のおかわりである。ようやく長年のストレスから解放されたおかげで、精神だけでなく胃も元気になったようだ。



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