151話 カレーの宴
「おや? これはまた、ずいぶんと美味しそうな匂いですね!」
それから三十分ほどたってから、メーナたちをターラージャ帝国に送っていったマスターがようやく戻って来た時、店内には食欲を掻き立てるカレーの香りが充満していた。
「あ、マスター、お帰りなさい! 結構時間がかかってたけど、向こうで何かあったの?」
「いえ、大丈夫ですよ。愚かな皇后とその一派に釘を刺していたせいで、少しばかり遅くなっただけです」
帝国に到着したのと同時に、周囲の者に命じてメーナと皇后を容赦なく牢に放り込んだマスターは、なおも騒ぎ立てる皇后とその取り巻きの貴族たちを、〈金運と財運の神〉のタピネの威光で黙らせてきたらしい。
「ぼくとゼーヴァ、二柱の神から直々に断罪されたのですから、今度ばかりは皇后の母国も横槍を入れられないはずです」
「じゃあ、これで虎さんやシェイラさんは安心して帝国に戻れるんだね! マスター、ありがとう!」
「しずくさんにそんなに喜んでもらえるのなら、たとえ面倒でもやった甲斐がありました。ところで、またカレーを作っているんですか?」
コンロに載せた二つの大鍋を、お玉でかき回すことに余念がないしずくを見て、マスターが翡翠色の目をぱちくりさせた。
「うん。ここにいる全員で食べるとなると、今残っている分だけでは全然足りなくて。だから、急いで作り足すことにしたの」
「そういうことでしたか──でも、この様子だと、新しく作ったカレーもすぐに足りなくなりそうですね……」
マスターの視線の先では、三匹のシュクレドラゴンとヴィリオーサ、十二体の光る毛玉たちと黒い毛玉、ターラージャ帝国の面々とゼーヴァ、そして〈白い死神〉とが、それぞれのテーブルに陣取って、夢中になってカレーライスをむさぼっている。
彼らの周りでは、お手伝いゴーレムのごーちゃんたちがテキパキと給仕をしているが、数分おきにおかわりの声がかかるせいで、水や飲み物を注ぐだけでなく、食べ終わった皿を下げたり新しいカレーライスを持ってきたりと、とても忙しそうだ。
「ふふっ。みんながこれ程までにカレーを気に入ってくれるだなんて思ってもみなかったよ」
「まさか、甘党の彼らまでカレーに夢中とは──」
マスターのつぶらな瞳は、窓際の二つのテーブルに釘付けになっている。
「あはは、びっくりしたでしょ? ふわふわさんや小鳥さんもカレーが気になるみたいだったから、試しに、死神はちみつと生クリームで甘口にしたものを出してあげたら、どハマりしちゃったみたいなの」
甘党の神々をも魅了するカレーの中毒性、まさに恐るべしである。
〈白い死神〉や光る毛玉は、甘口のカレーがよほどお気に召したらしく、甘い物を食べる時とほぼ同じペースで平らげている。
話しているうちにも、ごーちゃんたちがおかわりの注文を持って来た。
「お、黒ふわさんはこれで三杯目のおかわりだね。でも、今まで食べた分は、あの小さな体のどこに入っているのかなあ?」
「それは、ぼくにもわかりません。世界中のどこにでも現れる彼らは、とにかく謎が多い神なのです。いまだにどんな権能を持つのかもわからないのですが、それでも、味方にすればとても頼もしい神なのですよ」
「ふふ。それはもう知ってるよ。マスターが留守の間、ふわふわさんや黒ふわさんたちには、何度も危ない所を助けてもらったからね」
黒い毛玉のためのカレーライスをよそっていると、今度は皇帝アンワル自らが空になった皿を持ってやってきた。
「小さな給仕係が忙しそうだったので──」
そう言って、優しい目をして笑う皇帝は、早くも五杯目のおかわりである。ようやく長年のストレスから解放されたおかげで、精神だけでなく胃も元気になったようだ。




