15話 ついに開店です
店内の壁時計(こちらの世界でも一日は二十四時間であるらしい)の針が午前十時を指すのと同時に、カウンターの角に置いた薄いクッションの上に鎮座するマスターが、かわいらしい声を張り上げた。
「ぼくの喫茶店、開店です!」
その嬉しそうな様子を見てほっこりするのと同時に、そういえば肝心の店名を決めていなかった! としずくが自分のうかつさを反省していると、早速ドアベルが軽やかな音を立てた。
「ぼくのお店にようこそ!」
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませきゅる!」
「いらっしゃいませきゅる!」
「いらっしゃいませきゅる!」
マスター、しずく、シュクレドラゴンが、それぞれに元気な声で客を出迎える。
ゆっくりと開いたドアから入って来た最初の客は、ふよふよと宙に浮かぶ、光る毛玉たちだった。
謎生物であるマスターと普段から親しくしているという彼らも、やはり人外だった。
「お好きな席にどうぞきゅる!」
シュクレドラゴンのモモが案内すると、直径十センチくらいの毛玉たちは、ふよふよと窓際のテーブル席に向かって行った。
あの大きさでは、椅子に座ってもテーブルに届かないのでは? としずくが若干ハラハラしながら見ていると、十二体の毛玉は、テーブルをぐるりと取り囲むようにして、宙に浮かんだままでいる。どうやら、彼らにとって椅子は不要であるらしい。
あの状態でどうやって食事するんだろう、と不思議に思っていると、トレイを持ったネリネが話しかけて来た。
「しずくちゃん、小さめのコップに砂糖水をお願いするきゅる。お客様にお出しするきゅる」
「砂糖水? 普通のお水じゃなくていいの?」
店の方針で、客には無料で水を振る舞うことになっているが、ネリネは砂糖水で代用したいらしい。
「あのお客様は、甘い物が好物きゅる。だから、きっと甘くない水は喜ばないきゅる」
「そうなんだ! ちょっと待ってね、今すぐ用意するから」
無意識に自分のいた世界の尺度で対応しようとしていたしずくは、この世界の住人に詳しいシュクレドラゴンを助っ人に呼んでくれて本当によかった、と心の中でマスターに感謝した。
マスターが別発注していた小さなコップは、彼らのような客のために使う物だったんだ、と納得しながら砂糖水を用意すると、すぐにネリネがトレイに乗せて運んで行った。
(あの毛玉さんたちには、口が見当たらないけど、どうやって飲むんだろう?)
疑問に思いながら窓際のテーブルを凝視していると、毛玉たちに出されたコップの中身が一気に減っていくのが見えた。
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