14話 新たな店員
「ここはどこきゅる?」
「いい匂いがするきゅる」
「急にあるじ様に呼ばれたきゅる」
それは、三匹の小柄な白いドラゴンだった。
まだ子供なのか、かわいらしくあどけない顔立ちをしており、背丈はせいぜい百二十センチ程度しかない。頭の上にはそれぞれ花のような模様があって、琥珀色のぱっちりとした目で、興味深そうにきょろきょろと辺りを見回している。
「まさか、助っ人ってこの子たちのこと? か、かわいい!」
「シュクレドラゴンといいます。見た目は小さいけれど、これでも成体です」
「ふわー! ドラゴンなんて初めて見た!」
「彼らは作物を育てたり、美味しいものを食べるのが大好きで、そこそこ賢くて手先も器用です。だから、店員としても十分にやっていけると思います」
「へー。かわいらしいのに優秀なんだねえ」
しずくはドラゴンたちの目の前にかがみこむと、にっこりと笑って自己紹介をした。
「初めまして。私は、調理担当で雇われた水瀬しずくです。異世界から来たばかりなので、まだこちらのことには不慣れだけれど、どうか仲良くしてね」
異世界から来たと聞いて驚いたのか、白くて小さなドラゴンたちは目をぱちくりさせている。
「ところで、みんなの名前はなんていうのかな?」
「きゅる?」
「きゅる?」
「きゅるる?」
名前を尋ねられた三匹のシュクレドラゴンたちは、そろって首を傾げている。
「そういえば、特に名前はつけていませんでした」
「そうなの? でも名前がないと呼ぶのに不便だと思うよ? いい機会だから、名前をつけてあげようよ」
「名前がもらえるきゅるか?」
「名前を付けてもらえるなんて、初めてきゅる!」
「とっても嬉しいきゅる! ここに来てよかったきゅる!」
期待して目をキラキラさせている三体のドラゴンを前に、しずくは必死に知恵を絞る。
しばらく悩んだ末に、それぞれの頭にある花の模様にちなんだ名前をつける事にした。
「じゃあ、左にいる君から順番に、ポピー、ネリネ、モモ、っていう名前はどうかな?」
「ぽぴー!」
「ねりね!」
「もも!」
彼らが、もらった名前を連呼しながら嬉しそうに飛び跳ねているのを見て、ほっと胸を撫で下ろしたしずくは、早速三匹のドラゴンに仕事の説明をした。
「注文を聞いて伝えるきゅる」
「お盆で料理を運ぶきゅる」
「テーブルの上をきれいにするきゅる」
彼女の心配をよそに、シュクレドラゴンたちの飲み込みはとても早く、試しにマスターを相手に接客や配膳をさせてみたところ、彼らは何の問題もなく教えられた仕事をこなしてみせた。
「しずくちゃん、これでいいきゅるか?」
「うん! みんな完璧だよ! あとは会計をマスターにやってもらえば、ばっちりだね」
「給仕くらい、僕にだって出来るのに──」
「何言ってるの。食材の補充やお会計だって大事な仕事でしょ? これに関しては、計算が出来て食材に明るいマスターだけが頼りなんだからね」
「そ、そうですか? それなら頑張らないといけませんね!」
拗ねていたマスターが機嫌を直したところで、シュクレドラゴンたちが手分けしてテーブルにメニュー表を準備する。
しずくは、マスターが用意した黒いコックコートを身に纏い、カウンターの中に入って調理器具の確認をすると、胸を高鳴らせながら開店する瞬間を待った。




