146話 ぜんいん、ぶちのめす
「神であるぼくに嘘を吐き、あろうことか、ぼくの大切なしずくさんを、下僕呼ばわりしようとは!」
「ひっ……!」
激しい怒りを帯びた神気をもろに浴びせられたメーナは、目の前にいる神への畏怖で頭の中が塗りつぶされて恐慌状態となり、床にへたり込んてガタガタと震え出した。
「メーナ様っ!」
そんな時、必死の形相で店に駆け込んできたのは、皇帝アンワルの命令で一足先に帝国に戻ったはずのウルガたちだった。
「さあ、こちらへ! 一刻も早くここから離れるのです!」
「え、あ……」
「っ! 失礼いたします!」
マスターに睨まれて動けないメーナを素早く抱き上げたウルガは、仲間たちと共に店から逃げ出そうと踵を返した。
だが、その瞬間──
「ひぃっ!」
窓の外から店の中を覗き込んでいた巨大な目と視線がかち合ったメーナが、短い悲鳴を上げて白目を剥いた。
ウルガと彼の仲間たちも、床に足が張り付いたように立ち尽くし、これ以上ない程に目を見開いて固まっている。
この時、店の窓は、爛々と光る巨大な金色の目によって、完全に覆い尽くされていた。
「りりちゃん!」
ターラージャ帝国の者が、驚きと恐怖で身動きできずにいるのをよそに、しずくが嬉しそうな声で、つい最近友達になった神竜の名を呼んだ。
その声が届いたのか、しずくの無事を視認した金色の目が、安堵したように細められる。
「あ、あの巨大な目は何だ? 外にいた他の奴らはどうなったんだ!?」
「い、急げ! 今は姫様を連れて、一刻も早くここから離れるんだ!」
しずくの声を聞いた拍子に、何とか我を取り戻したウルガたちは、激しく動揺して足をもつれさせながらも、どうにか店の出口までたどり着いた。
「は、早くここから逃げなければ──」
だがその時、不意に開かれたドアの外で、雪の妖精のように白く愛らしい小鳥に出くわした彼らは、いきなり凍えるような神気を叩きつけられ、恐怖のあまり再び棒立ちになった。
「あ、あ、ああああ……っ!」
「ひ、ひいっ! 来るな! こっちに来るなあああ!」
「まさか、この小鳥も神なのか……っ!」
両足でぴょんぴょんと跳ねながら近づいて来る〈白い死神〉を目の前にして、一歩も動けないままのウルガたちが、すっかり動転しながら泣き叫ぶ。
そんな彼らを、小さな白い小鳥が殺気を孕んだ鋭い目で睨みつけた。
『──あやしいやつ。そとにいたやつらと、おなじにおい。おれ、このみせに、てをだそうとするやつ、ぜったいゆるさない──ぜんいん、ぶちのめす!』
「ち、違う、は、話を聞いてくれ──」
「ま、待て──」
サウー砂糖切れで気が立っていた〈白い死神〉は、彼らに言い訳をする時間すらも与えず、視界に入ったウルガたち虎人族全員を氷漬けにした。
こうして、不運にも〈白い死神〉に出くわしたことで一人残らず凍らされたメーナやウルガ、メーナに付き従っていた取り巻き連中は、氷漬けの状態のままでターラージャ帝国に移送されることになったのだった。
その後、帝国に戻って牢に入れられたウルガたちは、皇帝アンワルが直々に発した「先に帝国に戻り、追って沙汰があるまで謹慎せよ」という命令に背いた罪で身分を剥奪され、北大陸の採掘場へ送られる事となった。
その際、途中で逃げ出さないよう、〈白い死神〉が遣わした青い小鳥たちの監視のもとで護送される事になった彼らは、絶えずガラの悪い小鳥たちから罵声を浴びせられ、まるで亡霊のように生気のない顔で帝国を後にしたという──




