140話 料理という名の危険物
すると、ゼーヴァに逆ギレされたメーナが、涙で濡れた目を見開きながら言い返した。
「あれは腐った物体じゃありません。手間暇をかけて作った熟成肉ですわ!」
憤慨して叫ぶ娘に、皇帝であるアンワルが訝しむような顔で問いかける。
「熟成肉と言う名の料理など、俺は一度も聞いたことがない。お前は一体どこでそんな危険な料理を知ったのだ?」
「熟成肉は、わたくしが留学していたグルファン王国で振るまわれた料理ですわ! 初めて口にした時にあまりにも美味しかったので、侍従に命じて調べさせたところ、調理した宮廷料理人たちは、『熟成肉とは、捌いてから一定期間保存した肉で、捌きたての肉より何倍も美味くなる』と、言っていたとか」
「では、お前はゼーヴァ様に悪意があって、アレを振るまっていた訳ではないのだな?」
「当たり前ですわ! わたくしはただ、あの熟成肉の美味しさを、愛しいゼーヴァ様にも味わって頂きたかっただけです!」
「それなら何故、あんな危険物を作り出したのだ! しかも、俺に黙ってわが帝国の至宝である〈刻知らずの宝具〉まで持ち出すとは!!」
メーナの料理を危険物だと言い切った皇帝を責める者は、誰もいない。
店の外にいる者たちも、いつの間にか騒ぐことを止めて、固唾を吞みながら親子の言い合いを見守っている。
「わたくしの料理が危険物!? 召し上がってもいないのに、何故そんなひどいことをいうのですか!」
「ならば、お前はほんの一口でも、自分の料理を味わったことがあるのか? もし、味わった上であの危険物が美味いと言っているのなら、俺はもう何も言わぬ」
皇帝アンワルが眉間を抑えながら苛立たしげに言い放つと、メーナはそんな父親に向かって、胸を張りながら力説した。
「確かに味見したことはありませんけど、グルファンの料理人が話していた通りに作ったのだから、美味しいに決まっていますわ!」
その言葉を聞いて、その場にいた全員が凍り付いた。
「あのお姫様、一度も味見してなかったきゅるか?!」
「ねりねは、てっきり味音痴なのかと思っていたきゅるよ!」
「ももは、ゲテモノ好きなのかと思っていたきゅる!」
動揺して騒ぎ出したシュクレドラゴンたちのそばでは、シェイラが完全に顔色を失っている。
「あの子は、自分で味見すらしていないものを、ゼーヴァ様にお出ししていたというの? ああ、なんという恐ろしいことを──」
『む? 料理長が俺に料理を作る時はたびたび味見をしていたから、てっきり料理には味見が必須なのだと思っていたのだが──必ずしもそうではないということか?』
「いやいや、ゼーヴァ様! 料理には味見が必須という、あなた様の認識は何も間違ってはおりませぬ! 間違っているのは全く味見をしないメーナ皇女のほうですぞ!」
極めて真っ当な意見を述べる神殿長に、しずくも同意する。
「そうそう。神殿長様の言う通り、料理を作る時は、必ず味見しながら味を微調整していくのが普通なの。味見を全くしないのは、料理初心者やまずい料理を作る人によくありがちな間違いだね」
『ほう。つまり、料理初心者がうっかり味見し忘れると、あんなにも怖ろしい危険物が爆誕するということか』
「あー……」
違うそうじゃない、と言いたい所だが、現実にそれが起こっている以上、まるっと否定することもできない。
困ったしずくは、ぽりぽりと頬を掻いて、とりあえず曖昧に笑ってみせたのだった。
味見は大事(>_<)
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