139話 実の親もびっくり
皇帝に睨まれたメーナは、声も出せずに呆然と立ち尽くしている。
「詳しい話は全て、ゼーヴァ様から伺っている。お前は皇后に泣きつくことで協力を取り付けて、強引に巫女の座を奪っただけでは飽き足らず、偽りの汚名を着せて孤立させたシェイラに側仕えを強要し、巫女としての雑務は全て彼女に押し付けていたそうだな」
「そ、それは──」
メーナが言い訳しようとしたのを、皇帝がぴしゃりと遮った。
「それだけでも許し難いというのに、お前は勝手にゼーヴァ様の神託を捏造したり、『調理する食材には、必ず神聖魔法と浄化魔法を施す〈清めの儀〉を行う』という神殿の習わしを無視して、瘴気を帯びた食材で作った手料理を振る舞い、わが国の守護神であるゼーヴァ様に害をなすという大罪を犯した。たとえ実の娘であろうと、帝国を統べる者として決して許す訳にはいかぬ」
「そんな! いくらお父様でも横暴だわ! わたくしはただ、愛しいゼーヴァ様に美味しい料理を食べて頂きたかっただけなのに! どうしてそれを罪だなどと決めつけるのです!?」
皇帝アンワルは、自分の娘が何を言っているのか理解できないと言う顔で、ゼーヴァを振り返った。
帝国の守護神は、気の毒そうな表情で皇帝を見つめ返した。
『お前の気持ちは良くわかる。だがその女は、自分の手料理が美味いと本気で思っているのだ』
「馬鹿な──臭いを嗅いだだけで気が狂いそうになるあの恐ろしい物体を、美味いと信じ込んでいるだと?!」
「陛下、お気を確かに!」
よろめいた皇帝を、宰相のヒーリムが慌てて支える。その光景を黙って見ていたしずくと三匹のシュクレドラゴンは、互いに目を合わせると何とも言えない顔をした。
「確かにあの腐ったカルパッチョは、相当エグい異臭を放っていたものね……」
「皇帝さんも、ぽぴーと一緒で、臭いだけで気が狂いそうになっていたきゅるね……」
「きっと、自分が居ることがばれないように、必死に我慢してくれてたきゅるよ」
「衝撃の事実を知らされて、かなり心に深手を負ったみたいきゅる。ももは、見ていて気の毒きゅる」
彼らがひそひそと話している間にも、メーナが父親に向かって泣き叫んでいる。
「ひどいわ! わたくしの料理を食べたこともないくせに、不味いと決めつけるだなんて!」
「馬鹿を言うな! あんなモノを口に入れたら即座に死んでしまうに決まっておるわ! ゼーヴァ様は神であるからこそ、食べても平気だったのだ!」
『おい、ちょっと待て! いかに俺が神でも平気だった訳ではないぞ?! 毎回口に入れるのと同時に意識を飛ばしかけていたし、体がボロボロになって神力が使えなくなったのだからな!』
「そんなの嘘よ! だって、ゼーヴァ様は毎回残さずに召し上がっていたではないですか!」
『あれは、正統な巫女であるシェイラのために我慢していただけだ! 俺が料理を残した時、お前は彼女が嫌がらせで料理に手を加えたに違いないと逆上して、危うく殺しかけたではないか! だから俺は彼女の身を守ろうと、あの腐った物体を我慢して平らげていたのだ!』
とうとう怒りが抑えられなくなったゼーヴァが吠えた。




