138話 しずくが手配したのは……
「申し訳ありません。メーナは幼い頃から、ヒト族への憧れが強い皇后様の影響を受け続けたせいで、こんな風にに育ってしまったのです」
メーナの母親である皇后は、権力と美しいものに目がない上に、かなりの面食いで、「美しくなければ生きる価値がない」というのが口癖であるらしい。
「なんというか、ずいぶんと強烈な個性を持っていらっしゃる……」
「ずいぶんと考えがかたよっているきゅる」
「思い込みが激しすぎるきゅる」
「最悪のひとが権力を持っちゃったきゅるね」
呆れ返るしずくたちに、シェイラが説明する。
「そんな皇后様は、『ヒト族のように見目麗しい男性に嫁げば、必ず幸せになれる』と日頃からメーナに言い聞かせておられました」
そんな母親の言葉を無分別に信じ、周囲から甘やかされて育った結果、メーナは今現在のような性格になってしまったのだという。
『皇后は、元々ヒト族に関する逸話や神話が大好きで、ヒト族に対して過剰に夢を抱いているのだ。帝国に嫁いできたばかりの頃は、当時巷で流行っていた、神とヒト族との恋を描いた劇に夢中になっていたし、儀式の度に俺に色目を使っていた』
ゼーヴァが苦りきった表情でそう語ると、途端にシュクレドラゴンたちが騒ぎ出した。
「母子がそろって神様に色目を使うなんて、無礼にもほどがあるきゅる!」
「あるじ様が一番嫌いな人たちきゅる。次からは出禁にするきゅる!」
「こういう人たちはしつこいから、早めに手を切っておくきゅる!」
「さっきから、きゅるきゅる煩いわね! 今すぐに黙らないと、まとめて火にくべて丸焼きにしてやるわよ!?」
「きゅる!?」
鬼のような形相でポピーたちを脅して黙らせると、メーナは高い声を張り上げた。
「わたくしとお母さまの何がいけないというの? 美しいものを愛でて、美しい人と結ばれることを夢見て何が悪いのよ!」
「確かに夢を見るのは自由だ。だが、お前は自分の夢を無理やり叶えようと、道理を捻じ曲げて幾つもの罪を犯し、さも当たり前のように他者を踏みにじっている。それが問題なのだ!」
突然背後から叱責されたメーナが、ぎょっとして固まった。
反射的に振り向いた彼女を厳しい顔で睨みつけていたのは、彼女の父親──ターラージャ帝国の皇帝、アンワル・バル・ターラージャその人だった。
「お、お父様が何故こんな所に? それに、ダディト叔父様やヒーリムまで──」
彼女の父親は一人きりではなかった。隣には、蒼白な顔をした皇后の弟のダディトと、鋭い眼光を放つ宰相のヒーリムが立っている。
「わしもいますぞ」
「っ! ターファズ神殿長!?」
息を吞んだメーナの前に、皇帝アンワルの背後から進み出た小柄な老人は、してやったりと笑ってみせた。
『どうせ、お前は勝敗に異を唱えてゴネるだろう、と予想していた料理長に頼まれて、俺がここに連れて来ていたのだ』
昨晩しずくがゼーヴァに頼んだのは、新鮮なバッフェン肉の調達と、メーナが素直に負けを認めなかった時のために、臨時審査員として彼女の脅しに屈しない人物を連れて来てもらうことだった。
「まさか、帝国で一番偉い人たちを連れて来るとは思わなかったけどね……」
『ゼルバ王国を後ろ盾に持つ皇后とメーナに真っ向から意見できる者は、実はそう多くないのだ。それに、この者たちにも、俺とシェイラの身に何が起きたのかを知ってもらいたかったのでな』
今まで皇帝たちにはずっと奥のソファー席で待機してもらい、毛玉たちの魔法で姿を見えなくしていたのだ。




