137話 まともに話が通じない
「ふん! たとえ他の者は騙せても、わたくしは騙されないわよ! どうせこの料理に怪しげな薬を入れて、美味しく思えるように錯覚させているんでしょう!」
「え。これだけ夢中で食べておいて、最初に言うことがそれなの?」
言いがかりがひどすぎて、思わず口調が素に戻ってしまった。他の者はもちろん、護衛のウルガですら呆れている。
「あら。わたくしに真実を言い当てられて、驚いているのね!」
「違います。私は呆れているんです。だいたい、怪しげな薬って何ですか? メーナ皇女は私の手元が見える場所で調理していたんですよね? それなら、私が用意された食材以外の異物を入れたら、すぐに気づいたはずなのでは?」
正論を突きつけられたメーナは、落ち着きを無くして目を泳がせている。
「そ、それなら、怪しげな魔法を使って、ゼーヴァ様に料理が美味しいと思い込ませたのね? そうよ、きっとそうに決まっているわ!」
全く根拠のない言い分を聞かされたせいで、一気に場の空気が白けてしまった。
困った顔をしたしずくが、深いため息をつく。
「そんなことはしませんよ。そもそも、私には魔力がないので、魔法なんて使えないし」
「そんなの嘘よ! 昨日、あんなに捜してもゼーヴァ様を見つけられなかったのは、あなたが魔法で隠していたからでしょう!? 」
「違います。昨日は、虎さん──ゼーヴァ様が子虎に姿を変えて隠れていたから、あなたが気付かなかっただけです」
「はあ?! 何を言っているのか全くわからないわ。さては、適当な嘘でわたくしを騙そうとしているのね!」
「だから、違いますって!」
どう説明しても、まともに話が通じない事にうんざりしていると、見かねたゼーヴァが割り込んで来た。
『メーナ、もう下らぬ言いがかりはよせ。料理長の話はどれも真実だ。俺は魔法になどかかっていない。昨日お前がこの店を訪れた時、俺は子虎の姿に変化して、あの奥のソファの下でずっと隠れていたのだ』
彼が指さしたソファをちらりと見たメーナは、困った笑みを浮かべてゼーヴァを見た。
「何をおっしゃっているのですか? そのお体の大きさで、あんなに狭い場所に隠れられるはずが──ああ、なんてお可哀そうなゼーヴァ様。さては、まだこの女の魔法にかかったままなのですね?」
『違う。そうではないと、さっきも言っただろう。俺は、自分に魔法をかけ、子虎の姿に変化して隠れていたのだ』
「まあ! 虎ですって? 美しいあなたが、何故そんな汚らわしい獣の姿などに──」
途端に眉をひそめるメーナに、ゼーヴァが呆れた顔を向けた。
「何を言う。お前だってピューマの獣人だろう? 自分にも獣の血が流れているというのに、何故そんなにも獣を毛嫌いするのだ?」
「わたくしは、好きで獣人なんかに生まれた訳ではありませんわ! 出来ることなら、恋人としてあなたと並んでも見劣りしないよう、美しいヒト族の姿で生まれたかったのです!」
甲高い声でそう叫ぶと、メーナは憎悪のこもった目でしずくを見た。
「それなのに、こんな女が、私が望んだ姿を持っているだなんて──何もかも間違っているわ!」
メーナの支離滅裂な言い分に困惑したしずくがシェイラを見ると、彼女はひどく悲しそうな顔をしていた。
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