136話 それでも負けを認めたくない
その後も、ゼーヴァは無言のままで、ひたすらカレーを食べ続けた。
皿を空にする度におかわりをして、結局大盛りのカレーを三杯も平らげたゼーヴァは、ようやく満足した顔になってスプーンを置いた。
彼のテーブルに噛り付いていたポピーと黒い毛玉は、ますます腹を空かせて、とろけた餅のようになっている。
『ああ、本当に美味かった! あまりにも美味すぎて、うっかり食べ過ぎてしまった』
「本当に凄い食欲だったね。大きな鍋で作っておいてよかったよ」
しずくが苦笑するのも無理はない。 鍋の中のカレーは、もう既に半分程しか残っていなかった。
『さて、ついさっきまで忘れていたが、これは料理勝負だったな』
姿勢を正したゼーヴァが、しずくとメーナ、二人の顔を交互に見た。
『まあ、もう皆もわかっているだろうが、俺があえて言うまでもなく、既に勝敗は決まっている』
ゼーヴァの言葉に異を唱える者はいない。メーナだけが、睨むような目で床を見つめ、形の良い唇を噛みしめている。
『お前だけは、この結果に不満があるようだな。だが、このカレーライスを食べてみれば、お前も俺の判断が正しいとはっきりわかるだろう』
はっとするような美しい笑みを浮かべたゼーヴァに見とれたまま、メーナは上の空で小皿によそられたカレーライスを口にした。
(っ! これは何なの?!)
その瞬間、メーナのとろけた顔が驚愕の顔に入れ替わり、心の中で激しい嵐が巻き起こった。
口の中に広がった強烈な旨みと心地よい辛さは、たちまち彼女の恋心を食欲に塗り替えてしまった。
メーナは何かに駆り立てられるようににスプーンを操り、猛然とカレーライスを食べ始めた。無言で空になった小皿を突き出し、おかわりまで要求した。
店内に居た者はみな、そんな彼女を見て目を丸くしている。
「いい食べっぷりきゅる。でもぽぴーが食べる分も残しておいて欲しいきゅる……」
「だいぶ気に入ったみたいきゅるね。あの様子なら素直に負けを認めるきゅるか?」
「ももはそう思わないきゅる。あのわがままなお姫様に限って、それはないきゅる」」
モモが断言した通り、二杯目も瞬く間に完食したメーナは「はふ」と満足そうな息をついて、レースのハンカチで口を拭うと、目を吊り上げてしずくに噛みついてきた。




