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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第三章 腹ペコの虎と起死回生のカレーライス

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133/167

133話 要するに地獄を見たと言っているらしい

「ああ! ゼーヴァ様、ご無事だったのですね! あなたが姿を消してからというもの、わたくしは心配のあまり、ずっと眠れていなかったのですよ?」

『……』


 昨晩、シェイラの事が心配になり、自分の任務を果たしに行く前に、鳥の姿に変化して宿の様子を見に行ったゼーヴァは、メーナが口を半開きにしてしっかり熟睡していたのを知っている。

 そうとも知らず、メーナは彼を気遣う健気(けなげ)な女性の演技を続けている。


「とにかく、お元気そうで安心いたしました。ああ、でもこんな貧相(ひんそう)な店では、きっとロクな料理が出なかったでしょう? そう思って、こちらに()()()()()()()()()()()()()()()()()()をご用意いたしましたわ。さあ、どうぞ遠慮なく召し上がれ!」


 頬を上気させたメーナに手を引かれてテーブルの前に立った途端、ゼーヴァの端正な顔が絶望の色で塗りつぶされた。



(頑張って虎さん! なんとかこの試練に耐えて生き延びて!)

(虎さん、鼻をつまむきゅる! 匂いが無くなれば少しは耐えられるきゅる!)

(口に入れたら、味を感じる前にごっくんするきゅる! 噛んでしまったら終わりきゅる!)

(もしおなかが痛くなったら、ももがマスターにもらった効き目ばつぐんの胃腸薬を飲ませてあげるきゅる!)



 心の中から声援を送るしずくたちを恨めしそうに見つめたゼーヴァは、眉間に盛大にしわを寄せてゴクリとつばを飲み込むと、異臭の(かたまり)と化したカルパッチョをフォークで乱暴にすくい上げ──

 そして、ギュッと目をつぶると、意を決して口の中に放り込んだ。



(嘘でしょ!? 何で一度に口に入れたの!? あんなに頬張ったら飲み込めないよ!)

(虎さん、勇気があるきゅる! (おとこ)を見せたきゅる! ぽぴーは感動したきゅる!)

(違うきゅる! あれは勇気なんかじゃないきゅる! どう考えても無謀きゅる!)

(お店の中でオエってするのはやめてほしいきゅる。もしそうなったら、ももは怒るきゅる!)



 案の定、肉を頬張りすぎて飲み込めなくなったゼーヴァは、目を白黒させて滝のように冷や汗を流し始めた。

 喉の奥に流し込むために、やむを得ず肉を噛みちぎった瞬間、香辛料がもたらす刺激と辛み、腐った肉の強烈な酸っぱさとえぐみ、そして強いアンモニア臭が口の中をたちまち覆い尽くし、彼を激しく(さいな)んでいく。

 

 そうこうしているうちに、ぶるぶると激しく痙攣(けいれん)し始めたゼーヴァを見て、メーナを除く全員が戦慄(せんりつ)して顔を強張(こわば)らせた。



瘴気(しょうき)が無い肉なのに、神様である虎さんを痙攣させる程の破壊力が……?!)

(あれはもう、最終兵器と言っても差し支えないきゅる……!)

(虎さん、あまりの不味さに意識を飛ばしてるきゅる。危険きゅる!)

(大変きゅる! ももが用意した胃腸薬では、意識は戻せないきゅる!)



 しずくたちが固唾(かたず)()んで見守る中、危うく意識を失いかけながらも、何とか肉を飲み込んだターラージャ帝国の守護神は、ポピーから手渡された水を一気に飲み干し、ふーっと深い息を吐いた。





『……たった今、生きながらにして、無窮(むきゅう)深淵(しんえん)を見た』


( ° ཀ ° )


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