132話 ただの腐った肉だよ
お手伝いゴーレムのごーちゃんたちが、上等なテーブルクロスを敷いて美しく整えた二つの試食用テーブルの上に、ポピーたちがメーナとしずくの料理を並べると、何故か店の外からも歓声が上がった。
「きっと外にいる人たちも、ぽぴーみたいにおなかが空いたきゅるね」
「ちょうどお昼どきだから、仕方がないきゅる。ねりねも、さっきからおなかの虫が鳴いてるきゅる」
「窓に張り付いている人たち、よだれが凄いことになってるきゅるよ……」
その言葉を聞いて窓の外を見たメーナが、美しい眉間にしわを寄せた。
「このわたくしに仕えているというのに、何てだらしがないのかしら! 帝国に戻ったら全員クビにしてやるわ!」
「ああ、メーナ。どうかそんなに怒らないで。きっと彼らは、あなたが作った素晴らしい料理の出来栄えを見て、空腹に耐えられなくなってしまっただけなのよ。だから許してあげて」
「……ふん、仕方がないわね。そういうことなら、許してやってもいいわ」
うまくシェイラが取りなしたおかげで、あの護衛や従者たちは職を失わずに済んだようだ。
実はこれまでにも、自分が知らないうちにシェイラに助けられていた者が多数いたのではないだろうか。
彼女の機転に感心しながら見つめていると、しずくの視線に気付いたシェイラがニコリと笑った。
自分も笑い返してから、しずくがメーナに向き直る。
「おなかをすかせた彼らにも、ゼーヴァ様の試食のあとで、その自慢の料理を振る舞ってあげたらどうですか?」
「そんなの無理に決まっているでしょ。だって、ゼーヴァ様がわたくしの作った料理を残すだなんて、たとえ天と地がひっくり返ったってあり得ないことだもの!」
「そうですかー……」
しずくは、棒読みで相槌を打つと、強烈なスパイスの香りと混ざり合い、得も言われぬ異臭を放っているカルパッチョを見た。
(うわあ……。どう見ても熟成肉じゃないよ。あれは、ただの腐った肉だよ)
メーナはただ肉の経過時間を進めただけで、温度や湿度の管理は全くしていない。あれでは肉に残った水分から有害な微生物が発生して、肉を腐らせるだけだ。
そもそも熟成肉とは、素人がやり方を聞きかじった程度で作れるような単純な物ではないはずなのだ。
「ちょっと! ボーっとしてないで、さっさとゼーヴァ様をお呼びしなさいよ! わたくしは作り立ての料理を召し上がって頂きたいんだから!」
「あ、はい。わかりました。……モモ、悪いけど、ゼーヴァ様を呼んできてもらえるかな?」
またしても、腐ったカルパッチョを食べさせられるゼーヴァを気の毒に思うが、作戦のためには我慢してもらうしかない。少なくとも、今回は瘴気を帯びた肉は使っていないので、腹は痛くなっても、神力には何の影響も出ないはずだ。
ほどなくして、従業員口からポピーが店内に戻って来た。その後ろからは、銀髪の美しい青年姿に変化したゼーヴァが、素知らぬ顔をして悠然と歩いてくる。
その神々しい姿を目にした途端、メーナが恋する乙女の顔で駆け寄って行った。




