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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第三章 腹ペコの虎と起死回生のカレーライス

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131話 あれはおなかを空かせている魔獣の目

「しずくちゃん、これで完成きゅるか?!」


 今にも()()()を零しそうなポピーが、息を荒くする。彼の頭上に浮かぶ黒い毛玉は、不規則に点滅しながらふらついている。


「ごめんね、完成するのはまだまだ先なの。もう少し我慢してね」


 きゅる……と喉を鳴らして落胆するポピーに苦笑すると、しずくは弱火で玉ねぎとパウダースパイスを軽く炒め、鍋に水と赤ワイン、取り出しておいたバッフェン肉とローリエとを投入して強火でひと煮立ちさせた。


「うん、そろそろかな?」


 鍋が沸騰(ふっとう)してきたのを見たしずくは、火力を中火に落として丁寧にアクを取ると、ワインの香りや風味を適度に飛ばし始めた。


「しずくちゃん、そろそろ完成きゅる?」

「まだちょっとかかるかな」


 この段階になると、換気扇(かんきせん)を通して店の外までカレーの香りが漏れ始めたらしく、外で待機していた護衛や従者たちが騒ぎ始めた。


「この刺激的な香りは何なんだ?!」

「やけに香ばしくて食欲をそそる匂いだな」

「こんな香りは初めてだ」

「うう・・急に腹が減って来た。一体どんな料理を作っているんだ?」


 彼らの内の何人かは、興味が抑えきれなくなったのか、店の窓に張り付くようにして中をのぞき込んでいる。


「外にいる人たちの目がギラギラしてるきゅる」

「あれはおなかを空かせている魔獣の目きゅる」


 ネリネとモモが戦慄(せんりつ)しているのをよそに、しずくはバターをいれて鍋に(ふた)をすると、今度は弱火にしてコトコトと煮始めた。


「あ、お米が()けたみたいだね!」


 電気やガスではなく、魔石で作動する魔石炊飯器が、炊き上がりを知らせる音を鳴らすと、カレーの香りをすんすんと嗅ぎながら、テーブルに突っ伏していたポピーと黒い毛玉が、勢いよく顔を上げた。


「今度こそ出来たきゅるか?!」

「残念。今のはお米が炊けた音でした」

「きゅる~……」

「なんだ、あなたの料理はまだ出来ないの?」


 カウンター越しにポピーと話していたしずくが振り向くと、嘲笑を浮かべたメーナが腕組みしながら立っていた。


「あともう少し煮込めば完成です。そちらはもう調理が終わったのですか?」


 時計は十二時十五分を指している。終了時間まではあと十五分ほど残っている。


「あとは皿に盛りつければ完成よ。勝つのはわたくしに決まっているけど、可哀そうだから待っていてあげるわ」


 メーナは自信満々でいるが、その視線はしずくの目の前の、蓋をしたままの鍋に向けられている。


「……もしかして、私の料理が気になってます?」

「っ! そんな訳ないでしょ!」


 メーナはカッとなってそう叫ぶなり、肩を怒らせてキッチンに戻って行ってしまった。しずくは、やれやれという顔でため息をつくと、おもむろにお玉を手に取った。

 

 鍋の蓋を開けて、湯気を立ててくつくつと煮えるカレーをかき回すと、一気に芳醇(ほうじゅん)で豊かな香りが店内に広がっていく。

 

 ポピーや黒い毛玉、ネリネやモモはもちろんのこと、窓に張り付いていた護衛や従者たちまでもが、うっとりとした顔をして、ゴクリと(つば)を飲み込んだ。

 甘党のはずの白い毛玉たちも、興奮したように体を光らせている。


「しずくちゃん、今度こそ完成きゅるか?!」


 カウンターチェアによじ登ったポピーが、しずくの顔をのぞき込むと、しずくは魔導コンロの火を止めて微笑んだ。


「お待たせしました。〈喫茶シルエ〉特製、バッフェン肉のスパイスカレー、これで完成です!」


 

 その瞬間、店内ではシュクレドラゴンたちの歓声が上がり、毛玉たちが飛び跳ねた。


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