129話 作るのはもちろん……
「ふうん。料理勝負を持ちかけてきただけあって、それなりに食材はそろえているのね」
メーナたちが店に入ってすぐ目にしたのは、テーブルの上に載せられた肉や野菜、豊富なスパイスの数々だった。
「後から文句を言われたくないので、メインに使う食材は公平を期して同じ物──バッフェンの肉を使うことにしました。何か異論はありますか?」
「いいえ、それで構わないわ。高級食材であるバッフェンを用意できるだなんて、さすがは神の店、と言ったところかしら」
「調理器具は、そちらのテーブルにあるものを自由に使ってください。調理する場所は、カウンターか、その後ろにあるキッチン、好きな方を選んでいいですよ」
「どちらも魔導コンロが備わっているのね。じゃあ、わたくしは奥のキッチンを選ぶことにするわ。あそこからなら、お前の手元が良く見えるだろうし」
だから、何か不正をしようとしたらすぐにわかる、と言葉を続けたメーナは、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべたが、特にしずくが気を悪くした様子はない。
「どうぞご自由に。では私はカウンターを使わせてもらいます。なお、料理の制限時間は二時間で、調理を開始するのは午前十時半からとします。それまでに使う食材を選んでおいてください」
「わかったわ」
「ちなみに、食材には事前に神聖魔法と浄化魔法をかけていますから、どうか安心してください」
ターラージャ帝国の神殿では、ゼーヴァの料理を作る際は必ず食材に神聖魔法と浄化魔法をかける、という習わしがあるらしい。今回は光る毛玉たちに頼んで魔法をかけてもらっている。
その後も、メーナの挑発には少しも動じずに、しずくは淡々と料理勝負に関する説明を続けたが、そんな彼女を見つめるメーナは、あからさまに面白くなさそうな顔をしていた。
だが、全ての説明を聞き終えると、どうせ澄ました顔をしていられるのも今のうちだ、とでも思ったのか、ニマニマと下卑た笑みを浮かべながら、ウルガやシェイラにあれこれと指示を出し、上機嫌で食材選びをし始めた。
(──良かったあ。今のところ、少しもバレていないみたい)
カウンターの上に調理器具を並べるフリをしながら、それとなくメーナの様子を伺っていたしずくは、ほっとして胸を撫で下ろした。
食材を取りに行く途中で店の奥に目をやると、ソファの下で身を隠すゼーヴァが、こちらを見返して力強くうなずいた。
昨夜ゼーヴァには、バッフェン肉の調達のほかに、この作戦の肝となる、とあるモノの手配をお願いしていた。
どちらも難しい依頼だったが、安心してこの俺に任せておけ! と胸を張っていた彼は、二つの依頼を見事にやり遂げてくれた。
しずくが手配したモノを実際に目にした時、メーナはどういう反応を見せるだろうか?
「よし。あとは私が、あのメーナ皇女を驚かせるような、美味しい料理を作り上げるだけだね!」
「しずくちゃんなら、余裕きゅる!」
鼻息の荒いポピーに微笑んだしずくは、腕まくりをして気合を入れると、料理に使う食材を選び始めた。
だが、既に何を作るかは決めているので、選ぶ時間はさほどかからない。
彼女が選んだのは、料理の主役となるバッフェン肉に、玉ねぎ、にんにく、しょうが、トマト、赤ワインとバター、ブイヨンを魔法で固形にしたものを数個。残りは全てスパイスだ。
「しずくちゃん、まさか、これから作ろうとしている料理って、アレきゅるか?!」
しずくの一挙一動を見守っていたポピーが、期待に満ちた目を向けてくる。
「一日遅れになっちゃったけど、今日こそ、とびきり美味しいカレーを食べさせてあげる。だから、期待して待っていてね!」
──そう。彼女が作ろうしている料理とは、バッフェン肉のカレーライスだった。
カレーが食べたくなってきた……




