126話 困っているお客様は助ける決まりです
『しかし、困った事になった。まさかメーナの奴に、こんなにも早く居場所を突き止められるとは──』
ゼーヴァがずっと持ち歩いていた指輪の発信機としての機能は、彼が〈喫茶シルエ〉に押し入った際に、店にかけられていた防御魔法の干渉を受けて、完全に壊れていた。
よって、もう二度と居場所を知られることはないが、既にメーナにはこの場所を特定されてしまっている。
「本当に申し訳ありません。まさかあの子が神であるゼーヴァ様を偽って、居場所を突き止めるための魔法具を取り付けていたなんて……」
『お前が謝る必要はない。そもそもこの指輪は、帝国の守護者である証だと言われて、神殿長から直々に渡された物だったのだ。俺に対する忠誠心の厚い神殿長が寄こしたものならと、つい油断して何の疑いもなく身に着けていた俺が悪い』
「あの神殿長様が、ゼーヴァ様を裏切るとは思えません。おそらくメーナが、ゼーヴァ様からの信頼が厚い神殿長様を利用しようと、もっともらしい嘘をついて騙したのでしょう」
『ふん! 巫女としての務めを果たせ、と口酸っぱく言われるたびに、神殿長にひどい悪態をついていたあいつなら、きっと騙す事に何の罪悪感もなかっただろうよ!』
メーナは、高慢で我儘だが、よく知恵が回るのだ。ただし、その知恵とは悪知恵なのだが……。
『あの女の罪を暴く事ができれば、巫女の座から引きずり下ろせるのだが、あいつが簡単に尻尾を掴ませるとは思えないしな』
「おそらく、あの子は上手く言い逃れをして、自分の犯した罪をうやむやにしてしまうでしょう」
『ふむ。となると、言い逃れが出来ない状況下で、あいつの罪を暴く必要があるのか……』
「それなら、私にいい考えがあるよ」
難しい顔で悩む二人に、にこやかにそう切り出したのはしずくだった。
『料理長、何か思いついたのか?』
「私なりに、ちょっと考えてみたんだけど、こんな作戦はどうかな?」
しずくがゼーヴァたちに話したのは、傲慢でうぬぼれの強いメーナの性格を逆手に取った方法だった。
『なるほどな! いかにも、料理を得意とする料理長らしい作戦だ』
「ええ! 確かにこれなら、上手くいくかもしれません。ですが、宜しいのでしょうか?」
「えっと、何か心配な点がありましたか?」
問いかけるしずくに、シェイラはとても申し訳なさそうな顔をした。
「私たちは、こんなにもしずく様の恩情に甘えても宜しいのでしょうか? しずく様は、見ず知らずの私たちに、何故ここまで親切にしてくださるのですか?」
「ああ、それはですね──」
言いかけたしずくのそばから、シュクレドラゴンたちが顔を出す。
「〈喫茶シルエ〉は、あるじ様の方針で、困っているお客様は助ける決まりになってるきゅる!」
「虎さんとひまわりさんは、この店のお客様きゅる!」
「まあ! ひまわりさん、というのは私の事でしょうか?」
「髪の色がひまわり色だから、ひまわりさんきゅる。そう呼ばれるのは嫌きゅるか?」
「いいえ、母譲りのこの髪色は私にとって大切な物なのです。だから、そう呼んでいただけるのは嬉しいですわ!」
きゃいきゃいとはしゃぐシェイラたちに微笑ましい目を向けながら、ゼーヴァがしずくに問いかける。
「シェイラはともかく、俺は無理やりこの店に押しかけたようなものなのだぞ? それでも、料理長は客として扱ってくれるのか?」
「虎さんとは何度も一緒にごはんを食べた仲でしょ? 今更、よそ者扱いなんてできないよ」
『……そうか。礼を言うぞ料理長。この通り、恩に着る』
ゼーヴァは感激した顔をしながら、しずくに頭を下げた。




