124話 食っちゃ寝は通常仕様
「それで、さっきの話の続きだけど、変化が解けてしまった虎さんは、どうして帝国から逃げ出したの?」
『うむ。それはだな──』
神力が使えなくなったゼーヴァが、虎の姿のままで呆然としていると、彼の異変を察知したシェイラが、至聖所に駆けつけてくれたらしい。
「シェイラ皇女は、どうして虎さんの危機に気付いたのですか?」
「しずく様、どうか私の事は呼び捨てになさってください」
「あ、はい。わかりました。じゃあ、シェイラさんと呼ばせて頂きますね」
シェイラは微笑みながらうなずくと、しずくたちに話を続けた。
「あの時は、急にゼーヴァ様の神気が揺らいだのを感じたので、急いで馳せ参じたのです」
『さすがは、俺の選んだ巫女だ』
ゼーヴァの人化が解けているのを見たシェイラは、彼から神力が使えなくなったことを聞くと、メーナ皇女に見つかる前に、すぐにここから立ち去るように促したらしい。
「皇后様やメーナは、ヒト族に強い憧れを持っていて、獣に近い姿をした獣人を嫌う一方で、ヒトの姿をした神々に強い執着心を抱いているのです。だから、もし彼女が白虎のお姿に戻ったゼーヴァ様を見つけて、これが本来のお姿だと知れば、勝手に裏切られたと思い込んだ挙句、ゼーヴァ様を傷つけようとするかもしれない──私はそれを危惧したのです」
「そういうことだったんだ……」
ゼーヴァが不愉快そうに、鼻にしわを寄せる。
『あの女が巫女になってからというもの、俺は元の姿にも戻れず、少しも気が休まらなかった』
「じゃあ、シェイラさんが巫女だった時は、ずっと虎の姿で過ごしていたの?」
しずくの問いに答えたのは、美しい微笑みを浮かべたシェイラだった。
「ええ。私が巫女になって間もない頃から、ゼーヴァ様は白虎のお姿のままで過ごしていらっしゃいましたよ。特に、日当たりの良い天窓の下が大のお気に入りで、お食事を召し上がった後は、必ずそこに寝そべりながらくつろいでいらっしゃいました」
「つまり、帝国に居た時から、虎さんは食っちゃ寝ばっかりしていたわけだね」
しずくが呆れたように言うと、すかさずポピーが付け加えた。
「虎さんは、元気になってからも、食べるか寝るかのどちらかしかしていないきゅる」
「それに、食べたらすぐ、横になって寝ちゃうきゅる」
「昨日は、気持ちよさそうに鼻提灯を浮かべてたきゅる」
ネリネとモモが更に畳みかけると、「まあ!」と小さく声を上げたシェイラが、嬉しそうに微笑んだ。
「では、ゼーヴァ様はこちらで心健やかに過ごしておられたのですね。皆さんのお話を聞いて、安心いたしました」
「……シェイラさんは、少し虎さんを甘やかしすぎじゃないかなあ」
しずくに苦笑いされても、ひまわり色の髪の美女は、にこにこと嬉しそうに笑っている。
実は、巫女になれる資格には、「守護神の正体が食っちゃ寝が好きなだらけた虎でも幻滅しない、心の広い女性」という、隠された条件が存在しているのではないだろうか?




