123話 鈍感すぎる虎
『まあ、それはともかくとして。白虎の姿に戻ってしまった俺は大いに焦ったわけだ』
「でも、どうしてそんなことに? まさか、料理に毒でも盛られていたとか? もしくは、体調を崩すほどにまずい料理だった? そもそも、メーナ皇女の手料理って、一体どんな料理なの?」
あのメーナが料理する姿が想像できないしずくが、手に汗を握りながら矢継ぎ早に問いかける。
『あの女が作ってくるのは毎回同じ料理でな。薄切りにした生肉に、たっぷりとスパイスをまぶしただけの簡単なものだ。日によっては、ワインやレモン汁が加えられていたことがあったかもしれん』
「牛肉のカルパッチョみたいなものかな? でも、ソースをかけるのではなく、スパイスをまぶすっていうのは──」
『あの女は、普通の生肉ではなく、高級肉として有名な、バッフェンという牛型魔物の肉を熟成させたものだと言っていた』
「ん? ちょっと待って、メーナ皇女は熟成肉を生の状態で出していたの?! 虎さんは、そんなものを食べて平気だったの?」
『平気なものか! あの生肉を口に含んだ瞬間、激しい酸味と得も言われぬ刺激臭とスパイスとが混ざり合い、不快な臭いと吐き気を催すような渋みと酸味の不協和音が、容赦なく脳をえぐってくるのだぞ?』
「それ、熟成肉じゃない! ただの腐った肉!」
『そうなのか?! だから口にするたびに具合が悪くなったのか!』
驚きのあまり目をむいたゼーヴァに、心苦しそうな顔をしたシェイラが追い打ちをかけた。
「それだけではありません。あの生肉は私が見たところ、どれも瘴気を帯びていました。あの子はバッフェンを一頭買いで仕入れたようですが、おそらく商人に騙されて、瘴気に侵されていたバッフェンを高値で買わされたのでしょう。……申し訳ありません。てっきりゼーヴァ様は、瘴気の事を知った上で、我慢して召し上がっておられるのかと思っておりました」
ゼーヴァは目を見開いたままで、ポカンと呆けている。
どうやら、瘴気の事には全く気付いていなかったようだ。
『なんということだ……。神力が使えなくなったのも、体がいつの間にかボロボロになっていたのも、毎日奴の腐った料理を食って蓄積した瘴気が、俺の体内を蝕んでいたからだったのか!』
わなわなと震え出した巨大な白虎に、しずくが呆れ顔になる。
「瘴気の事もそうだけど、自分がそんなにひどい状態になっていることに全く気付かないっていうのは、神様としてどうなのかな……」
「ねりねは具合が悪くなった時点で、食べないきゅる」
「ぽぴーは食いしん坊だけど、腐った料理には手をつけないきゅるよ?」
「ももは、とっても呆れているきゅる。とらさんって食いしん坊なのに、ばか舌きゅるか?」
『全く持って、返す言葉もない……』
シュクレドラゴンたちにまで呆れられたゼーヴァが、がっくりと項垂れた。




