122話 捻じ曲げられた神託
「あの子──メーナは、私が伝えたゼーヴァ様からの神託を、自分に都合のいいように捻じ曲げて伝えるようになったのです」
今にも泣き出しそうな顔で、シェイラはそう語った。
「たとえば、水害が起こる恐れがある地域をゼーヴァ様が教えてくださっても、その地域が皇后様の派閥と敵対する一派が治める土地であった場合、わざと伝えずに何の関係もない話にすり替えてしまうのです」
「えっ? でも、そんなことをしたら、虎さんの──ゼーヴァ様の信用に関わるのでは?」
『料理長、急にかしこまる必要はないぞ。俺の事は今まで通りの呼び方で構わない』
「んんっ、じゃあ遠慮なく。今の話だけど、もしメーナ皇女が神託の内容を故意に捻じ曲げ続けたら、虎さんの神託に対する信用が失われて、守護神としての立場が危うくなるのでは?」
『ああ。その通りだ。だが、メーナが犯した罪はこれだけではなかったのだ』
信じがたいことに、メーナは、最も親しく接しているはずの自分がゼーヴァの声を聞き取れないことに苛立つようになり、実際にはありもしない神託を勝手に捏造して、好き勝手に振る舞い出したのだという。
「ええ……。神様の言葉を騙るだなんて、なんて罰当たりな……」
『あの女は俺からの神託だと偽り、俺と二人きりで住むための宮殿を建てさせようとしたのだ。俺は奴の事など、ひげの先ほども気にかけていないというのに!』
今までは、仕方なくメーナの好き勝手にさせてきたゼーヴァも、さすがにこれらの所業を許すことはできなかった。
『俺は、あの女が犯した許しがたい罪の数々を、俺自らが皆の前で言葉を発して糾弾することで、奴を巫女の座から引きずり下ろし、排除しようと考えた。奴が増長して油断している今なら、シェイラの身に危険が及ぶ前に全てをやりおおせることができる──あの時はそう確信していたのだ』
「いよいよ反撃きゅるか!」
「あのわがまま姫を、とっちめるきゅるね!」
「作戦は上手くいったきゅるか?」
ワクワクしながら前のめりになったシュクレドラゴンたちに、しずくが水を差す。
「虎さんが帝国から逃げ出して、巫女を名乗るメーナ皇女が追って来たと言うことは、当然その計画は失敗したってことだよね?」
『……うむ。神として非常に情けない限りだが、料理長の言う通りだ。ここぞという時に、俺はしくじったのだ』
巨大な白虎は、体を丸めてしょんぼりと項垂れた。
「しくじったって、一体何があったの?」
『神の威光を示そうと、風雷の権能を使おうとした瞬間、急に腰砕けになったのだ』
「……はい?」
言っている意味が全くわからず、しずくたちの目が点になる。
『実は、このひと月あまり、毎日メーナの手料理を食わされるようになってから、ずっと体の具合が悪くてな。無理に神力を使おうとしたら、全身から力が抜けて変化が解けてしまったのだ』
「変化が解けたってことは──じゃあやっぱり、今の姿が虎さん本来の姿なんだね」
『ああ、その通りだ。他国から来た皇后と娘であるメーナだけは、ヒト族の青年を模した姿が、俺本来の姿だと思い込んでいるがな』
ターラージャ帝国の皇族や神殿の高位神官たちは、ゼーヴァに初めて目通りする際に、本来の姿を見せてもらえるらしい。だが、現皇后とメーナのように、ゼーヴァが気に入らない者は目通りすることすら叶わないそうだ。
『気に食わない奴に、俺本来の姿で顕現してやる必要などないからな!』
シグベルムの住人に望まれれば、喜んで姿を見せるヴィリオーサとは大違いである。
どうやら、同じ守護神であっても、国民との接し方には大きな違いがあるようだ。




