120話 第二皇女の暴挙
確かに、自分の派閥から巫女を出すことで権力を得られなかったのは残念だが、逆に言えば、ゼーヴァのことを第一に考え、どの派閥にもおもねろうとしないシェイラが巫女である限り、一つの派閥だけが突出した権力を得るということは起こらないのだ。
近年、帝国では年々土地が痩せてきたことによって作物が上手く実らなくなり、皇帝はもちろんのこと、領地を持つ貴族たちもまた頭を悩ませていた。
そのため、「派閥争いにかまける暇があるなら領地を改善したい」というのが彼らの本音であって、このまま勢力の均衡が保たれることは、そんな彼らにとっては喜ばしいことだった。
──シェイラ皇女を巫女に据えるのは、誰にとっても利のある選択である。
貴族たち全員がそう認識するようになると、巫女に選ばれたシェイラに対する反感や非難はピタリと止んだ。
そのため、シェイラは彼女が望んでいた通りに、貴族たちから横槍を入れられることのない、穏やかな日々を過ごすことが出来るようになり、華やかな容姿とは異なり、派手なことを好まず誠実で温厚な性格の彼女は、少しずつ人々からの好意と信頼を集めていった。
ところが、シェイラが巫女となってから、およそ三か月が過ぎた頃。
隣国での留学から帰国した第二皇女メーナが、シェイラが巫女になったことを知らされた途端、どうしても姉に会わせてほしいと騒ぎ出した。
メーナは、長年自分が見下してきた姉のシェイラが、自分を差し置いて巫女の座に就いたことが気に入らず、せめて姉の顔を見て、罵声の一つでも浴びせてやろうと思い立ったのだ。
通常、巫女であるシェイラが暮らす本殿には、特別な祭事の時でもない限り、たとえ皇族であっても入れない決まりになっている。そのため、巫女に会いたいというメーナからの申し入れは、言うまでもなく神殿長によって即座に却下された。
だが、彼女は全く諦めようとせず、神殿で働く身分の低い者や若い神官に狙いを定め、身分を傘に着て、彼らに手引きを強要すると、無断で本殿に入り込んだだけでなく、あろうことか、普段ゼーヴァが住居としている至聖所にまで侵入してしまった。
そして、今までは祭事の場で遠目に眺めるだけだった美しい青年神を、生まれて初めて間近で見た彼女は、あっという間に恋に落ちてしまった。
期せずして、妹のメーナがゼーヴァに恋した瞬間を目撃してしまったシェイラは、激怒した神官たちに連れ出されていく彼女が、嫉妬と憎悪で塗りつぶされた顔で自分を睨んでいるのを見て、今後自分に起こりうる最悪の事態を予感した。
──きっとあの子は、ありとあらゆる手を使って、私を巫女の座から引きずり下ろそうとするに違いないわ。
果たして、彼女が予想した通り、神殿を追い出されたメーナは、すぐさまシェイラの居場所を奪うべく行動を開始した。
彼女は自分を溺愛する皇后に泣きつくと、「本殿に忍び込んだのは、日頃から巫女であるシェイラに虐げられているゼーヴァに助けを求められたからなのだ」と、ありもしない嘘をでっち上げた。
もちろん、単なる一皇女に過ぎないシェイラが、神であるゼーヴァを虐げることなど出来ようはずがない。
だが、メーナがついた稚拙な嘘は、実母である皇后や彼女の後ろ盾である貴族たちの手で真実として作り替えられ、身の潔白を訴えることさえ許されないうちに、シェイラは巫女の座を奪われてしまった。
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