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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第三章 腹ペコの虎と起死回生のカレーライス

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119/166

119話 巫女の選定

 今から約半年ほど前。

 ムストルガ大陸の最南端に位置する大国──ターラージャ帝国では、およそ二十年ぶりに、守護神である〈風雷(ふうらい)の神〉ゼーヴァに仕える巫女の選定が行われた。

 

 守護神ゼーヴァは、創造神ゼオロビムと同じようにヒト族の美しい青年の姿をしているが、人前で声を発することは滅多になく、特別に選ばれた者の心の中に直接語りかけるのが常で、ゼーヴァに仕える巫女とは、彼が心に語り掛けてくる声を正確に聞き取ることができる稀有(けう)な存在であり、〈風雷の神〉ゼーヴァが下す神託を皆に周知する役目を担っていた。

 

 そのため、ゼーヴァの巫女となる者には、彼に対する優れた感応力を持つことと、神力との相性の良さ、それらに加えて、ある程度神気(しんき)への耐性を持っていることなどが求められた。

 そして今回、これらの条件を兼ね備えていて、数多(あまた)の候補者の中から巫女に選ばれたのは、メーナの姉である第一皇女シェイラであった。

 



 今現在、ターラ―ジャ帝国の皇帝アンワルには、若くして亡くなった前皇后が生んだ皇子が二人と、今は亡き側室が生んだ第一皇女シェイラ、政略でゼルバ王国から迎え入れた現皇后が生んだ第二皇女メーナがいる。

 

 皇子二人は、アンワルの右腕と言われている宰相のヒーリムを祖父に持ち、何の申し分もない後ろ盾を得ていたが、今は亡き皇后の親友だったシェイラの母は下級貴族の出身だったため、第一皇女として生を受けたのにも関わらず、シェイラには自分を庇護してくれる強い後ろ盾がなかった。

 そのため、側室であった母を病で失ってからは、皇后亡きあとアンワルを支えていた美しい母を妬んだ現皇后や、彼女の影響を色濃く受けるたメーナから虐げられるようになった。

 

 もちろん、そのことを知ったアンワルや宰相ヒーリム、二人の皇子たちは、皇后とメーナを強く(いさ)め、シェイラへの嫌がらせをやめさせようとした。

 だが、それが面白くなかった彼女たちは、今度は彼らに覚られぬ形でシェイラへの陰湿な虐めを繰り返すようになった。


 ──皇帝や宰相ですら、皇后たちの横暴は止められない。


 いつしか、そう認識するようになった人々は、「下手に(かば)い立てをすれば自分たちまで皇后に(にら)まれてしまう」と考えるようになり、次第にシェイラに関わることを避けるようになった。

 やがて、シェイラの身の周りの世話をする者たちまでもが、まるで()れ物にでも触るような態度で彼女に接するようになると、シェイラはますます孤立していった。

 

 今回、そんな微妙な立場にいたシェイラが、ゼーヴァの巫女に選ばれたのは、誰にとっても予想だにしなかったことだった。


 


 守護神であるゼーヴァに最も近しい存在である巫女は、本人が望むと望まざるとに関わらず、皇帝や神殿長に次ぐ強い権力と影響力を得ることになる。

 そのため、自分の娘や一族に(つら)なる女性を巫女候補として送り込んでいた貴族たちは、シェイラが巫女に選ばれたことを知ると、みな歯噛(はが)みしながら悔しがった。


 彼らの中には、「今まで不遇だった分、巫女という強い権力を得た第一皇女は、自分のやりたい放題に振る舞おうとするのでは?」と危惧(きぐ)する者も多くいたが、いざ(ふた)を開けてみれば、巫女となったシェイラは、にわかに手に入れた権力を振りかざすこともなく、万事において控えめで、日々神殿での勤めに励み、ゼーヴァと語らいながら、穏やかに日々を過ごすだけだった。


 そんな事実を知った時、シェイラに対する貴族たちの考えは一変した。


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