12話 プロでも失敗するらしい
結論から言うと、異世界でのコーヒーの淹れ方は、かなり独特なものだった。
まず初めに、この世界のコーヒー豆──ピンク色で砂粒のように小さな豆を、魔石と一緒に沸騰したお湯に入れ、元居た世界の焙煎したコーヒー豆のような茶褐色に変わったら、すぐにすくい上げる。
次に、それを乾燥させて、豆が光るまで歌を聞かせる。
「光るまで歌を聞かせる」
「ええ。そうやって完成させたコーヒー豆にお湯を注ぐと、美味しいコーヒーが淹れられる、という訳です」
ちなみに、深煎りになるか浅煎りになるかは、コーヒー豆をお湯から引き上げるタイミングによって決まり、コーヒーのコクは豆に聞かせる歌の出来ばえによって決まるらしい。
「魔石に反応して豆の色が変わるとか、歌を聞かせると豆が光るとか、おかしな工程がいくつかあるけれど──まあ、とりあえず理解したよ!」
「豆に聞かせるのは楽器の演奏でもいいそうですが、たとえ下手でも歌ったほうが断然味が良くなるそうです。それと、コーヒー豆をお湯からすくい上げるタイミングを見極めるのは本当に難しくて、コーヒーを淹れることに慣れている料理人でも、よく失敗するらしいですよ」
ちなみに、この世界にもコーヒーや紅茶があるが、あちらの世界の喫茶店のように、複数の種類のお茶を提供できる店は一軒も無いらしい。コーヒーや紅茶を飲む事が出来るのは、王侯貴族や裕福な商人、あるいは目が飛び出る程に高級な料理店の客くらいのもので、お茶専門の料理人が淹れるそうだ
「ふーん。つまり、専門の人でも失敗する事があるって知っていたくせに、マスターはド素人の私にコーヒーを淹れさせようとしていたんだねー」
「本当にすみませんでした……」
「そもそも、そんな淹れ方なら。別に扱いが難しいサイフォン式じゃなくてもいいよね? 豆を挽く必要だってないんだし、ぺーバードリップで十分じゃないの?」
「でも、サイフォンの方が、いかにも喫茶店らしくて格好良いし──」
「“でも” じゃない! もう! マスターは形から入るの禁止! それと、これからはちゃんと報告・連絡・相談を心掛けること!」
「報告・連絡・相談──ふっふっふっ。僕、知ってますよ! いわゆる “ホウレンソウ” ってやつですね!」
「知っていても実行しないのなら、意味が無いでしょ!」
「はい、確かにその通りです……。調子に乗ってすみませんでした……」
形から入るのが大好きな白い蛇は、しゅんとして項垂れた。




