116話 監禁疑惑をかけられる
「まあ、あなたの事なんてどうでもいいわ! タピネ様がいらっしゃらないのなら、さっさとゼーヴァ様に会わせてちょうだい。まさか、ここがタピネ様のお店だなんて知らなかったから、すっかり誤解していたけれど、ゼーヴァ様はあなたに篭絡されてここに監禁されているのではなく、自らタピネ様に会いにいらしたのでしょう? でも、ゼーヴァ様が何日も神殿を空けるのは、わが国としては外聞が悪いのよ。だから、急いで戻っていただかないと」
見ず知らずの神を篭絡して監禁したなどと、とんでもない言いがかりをつけられていたことを知って、思わずしずくが顔を引きつらせた。
幸いにも誤解は解けたようだが、メーナが捜している神はこの店には来ていない。しずくは正直にそのことを口にした。
「でも本当に、それらしいお客様は来ていませんよ。マスターが出かけてから、ここ数日の間に店にやって来たのは、ふわふわさんたちと虎さんだけですし──」
しずくはそこまで話しかけて、「あっ!」という顔をした。
「まさか、ゼーヴァ様って、よぼよぼのお爺ちゃん虎だったりします? 一応、子虎に変化することもできるみたいなんですけど──」
「あなた、このわたくしを馬鹿にしているの?! 普段のゼーヴァ様は、銀髪で青い目の美しい青年のお姿をしているのよ?! 彼が虎に変化したことなんて一度もないわ! しかも、よぼよぼの老虎だなんて、絶対にあり得ない!!」
「はあ。そうですか……」
店にやって来た時期的にも、てっきり白虎がゼーヴァ様ではないかと思ったのだが、どうやら違ったようだ。せっかく態度が軟化していたメーナ皇女をまた怒らせてしまった。
「困ったなあ。だとしたら、やはりゼーヴァ様はこの店には来ていない、としか言いようがないんだけど……」
「そんなはずはないわ! だってこの魔法具が、確かにゼーヴァ様がここに来たと示していたのだもの!」
メーナはそう叫ぶと、しずくに向かって全く日焼けのない白い右腕を突き出した。見ると、その細い手首には、宝石が散りばめられて黄金色に輝く美しい腕輪がはめられている。
「その腕輪が魔法具?」
「そうよ! この腕輪に魔力を通せば、ゼーヴァ様が身に着けた指輪が今どこにあるのか、すぐに突き止めることができるの。お姿が見えなくなった時にこの魔法具を使ったら、指輪があるのは確かにこの場所だと指し示していたわ!」
(つまり、GPS発信機と受信機みたいなものなのかな? プライバシーを侵害されまくっているのに、よく神様が怒らないなあ)
しずくが驚いていると、更に顔色を悪くしたシェイラが、まるで信じ難いものを見るような目でメーナを凝視しているのが見えた。
(え? まさか、神様からの許可もなくこんなことをしているの?!)
唖然としているしずくの顔を、意地悪そうな笑みを浮かべたメーナがのぞき込む。
「あらあら、いきなり黙り込んでどうしたの? この店にゼーヴァ様がいらっしゃるという動かぬ証拠を見せられて、急に焦り始めたのかしら?」
「いえ、そんなことは全くないですけど、その魔法具が示した位置が間違っている可能性はないですか? たとえば、魔法具が壊れていたなんてことは──」
「わたくしたちが国を出た直後に、何故か指輪の反応が消えてしまったけれど、最初に魔法具が示したのは、確かにここだったのよ! 帝国随一の魔導士が立ち会って確かめたのだから、絶対に間違いないわ!」
「そうですか……。だとしても、やっぱりお探しの神様は、ここにはいないとしか──」
困惑したしずくがなおも否定していると、とうとう焦れたメーナが叫び出した。
「そこまで言うのなら、わたくしがこの店でゼーヴァ様をお捜ししても文句はないわよね?!」
「あ、そうか! その手がありましたね! ええ、いいですよ。どうぞ気が済むまで捜してください。ついでに、見つかったらさっさと連れ帰ってもらえます?」
「え? お前はそれでいいの?!」
断られるどころか、喜んで捜索するように勧められ、メーナが気の抜けた顔をする。
「もちろんですよ! もし、知らないうちにこの店に不審者が入り込んでいるのなら、さっさと出て行ってもらわないと」
自分たちの神を不審者扱いされた虎人族たちは、釈然としない表情で互いに顔を見合わせた。




