115話 マスター、名前をばらされる
「マスターを知っているんですか?」
キョトンとしているしずくに苛立ったように、メーナは甲高い声を上げた。
「あなた、店員のくせに、自分の雇い主がどういう存在なのかも知らないの?!」
「はあ」
「羽が生えた白蛇と言ったら、〈金運と財運の神〉のタピネ様の事に決まっているじゃないの!」
「〈金運と財運の神〉? タピネ様?」
「嘘でしょ? あなた、まさかタピネ様の事を知らないの?!」
──思いもよらぬ形で、マスターの正体が判明してしまった。
マスターはしきりに隠したがっていたようなのだが、こんな形で知ってしまって良かったのだろうか?
しずくが「うーん」と、眉を寄せて考え込んでいると、メーナが小馬鹿にしたようにせせら笑う。
「お前は、一体どこの田舎から出て来たの? タピネ様以外に、羽の生えた蛇なんてこの世には存在しないのだから、たとえ幼い子供でも、一目見ればタピネ様だと気付くわよ?」
「貴様、見目は良いが、耳や尻尾がないところをみると獣人ではないな。さては、夜人族かエルフ族の出来損ないか? お前のような半端者をわざわざお雇いになるとは、タピネ様は本当に慈悲深くていらっしゃる」
しずくの事を悪しざまに言われたシュクレドラゴンたちが憤る。
「こいつらむかつくきゅる!」
「ぽぴー、気持ちはわかるけど落ち着くきゅる。しずくちゃんの正体は秘密にするって、あるじ様から言われているきゅる」
「ねりねの言う通りきゅる。それに、しずくちゃんは悪口を言われたのに、ちっとも気にしていないみたいきゅる」
モモが言った通り、しずくはこの時、うわの空で全く別の事を考えていた。
(マスターって、結構有名な神様だったんだなあ。でも、子供でも一目見ればわかるということは、神官であるクアウラさんやワトルさんは、とっくにマスターの正体に気付いていたってことだよね。だけど、マスターが本当の名前を私に明かしていないことからいろいろと察して、あえてマスター様と呼んでいてくれたんだろうな)
しずくは、シグベルムの神官であるクアウラたちの優秀さに感心する一方で、神の意図を少しも推し量ろうとせずに、簡単に名を明かしてしまったメーナを、ダメ巫女認定していた。
まさか、自分が愚か者扱いされているとは夢にも思わないメーナは、興奮した様子でしきりに店内を見回している。
「それで、タピネ様はどこにいらっしゃるの? 〈風雷の神〉であるゼーヴァ様の巫女として、ぜひともご挨拶しておかないと!」
「マスターなら、今は不在です。ところで、メーナ皇女はマスターが蛇でも怖がらないんですね。凄く意外です」
「は? そこらにいる蛇とタピネ様を一緒にしないでくれるかしら! あんなに愛らしい姿のタピネ様を、このわたくしが怖がるはずないでしょ!」
「なんだ、メーナ皇女も、あのマスターのまるっこい姿のかわいらしさが、ちゃんとわかっているのですね! 少しだけ見直しました!」
「はあ? なんで上から目線なのよ!」
ムっとした顔をしたメーナが、嬉しそうなしずくを睨みつけた。
自分のあずかり知らぬところで流れ弾に当たるマスター……
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