111話 人が何を言っても聞かないタイプ
「何なの、あの人たち?」
「よくわからないきゅる。急にやってきて、店長を出せとかゼーヴァ様を返せとか騒いでいるきゅる」
「自分たちは、大きな国のお姫様とその仲間だって言ってるきゅる」
「ずいぶんと大柄な人たちだね。動物の尻尾が付いているところを見ると、みんな獣人なのかな?」
こうして遠目で見る限り、彼らはシグベルムの獣人たちとは異なり、より人間に近い姿をしているようだ。
「ふわふわさんたちは、ターラ―ジャ帝国から来た虎人族たちだって言ってたきゅる」
ターラージャ帝国とは、このムストルガ大陸の最南端に位置する大国で、浅い海に面して開けている南側以外、三方を山に囲まれている地形のせいで、世界で一番雷が多い国であるらしい。
「ゼーヴァ様っていうのは、帝国で崇められている風雷の神様のこときゅる。お外にいるお姫様は、銀色の髪のきれいな男の人の姿をしてるって言ってるきゅる」
「えー……。でも、そんな人なんて、この店には来ていないよねえ?」
「ぽぴーたちがいくらそう言っても、嘘だと決めつけて、ちっとも聞いてくれないきゅる」
「それは困ったねえ……」
ネリネの説明を聞いたしずくが、厄介事の予感をひしひしと覚えながら、窓際にいるポピーたちの元に行くと、途端に外にいる獣人たちが色めき立った。
中東の民族衣装に似た煌びやかな衣装を身に纏った一団は、やはりシグベルムの犬人族とは違い、非常に人間に近い見た目をしている。特徴的な耳がターバンやヴェールで隠れているため、もし長い尻尾に気付かなければ、しずくには彼らが獣人だとはわからなかっただろう。
(獣人にもいろいろなタイプがあるんだなあ)
しずくがしげしげと見つめていると、ひときわ豪華な衣装に身を包んだ女性が、窓際に生えているさつまいもの葉を、乱暴に踏みしだきながら進み出て来た。
「もしかして、彼女がさっきネリネが話していたお姫様? すごい美人だねえ」
「お姫さまといっても、ねりねたちの話を聞かないわがまま姫きゅる! それに、しずくちゃんのほうが美人きゅる!」
ネリネが不愉快そうに睨みつけた女性は、亜麻色の髪を腰まで伸ばした儚げな面立ちの美女だった。
だが、そんな見た目に反して、彼女のやや垂れ目がちの薄茶色の瞳は、憎々しげにギラついている。
しずくがその違和感に戸惑っていると、突然彼女が親の仇を見るような顔でしずくを睨みつけ、真っすぐに指差しながら言い放った。
「やっと出て来たのね! この泥棒猫!」
「はい?!」
「わたくしの大切なお方をどこに隠したのか、さっさと白状なさい! もし言わないのなら、ひどい目に遭わせてやるから!」
──泥棒猫という言い回しがこの世界にも存在している事に驚いていたら、いきなり脅された。
(あ、駄目だ。このお姫様、一度思い込んだら、人が何を言っても聞かないタイプだ)
しずくは、すぐにそう直感した。
突然大勢で押しかけてきたにもかかわらず、わけのわからない理由で初対面の相手を犯人呼ばわりした挙句、平然と脅しをかけてくるような相手なのだから、きっとこちらが追い返そうとしても、簡単には立ち去らないだろう。
異世界のスパイスでカレーを完成させるという、今日一日の予定が台無しにされることを予感したしずくは、がっくりと肩を落とし、盛大にため息をついたのだった。




