110話 お姫様がやって来た
(ああ、カレーが食べたい! こうなったら、何としてでも明日中にはスパイスを見つけて、異世界カレーを作り上げよう。そしてもし、納得のいくカレーが出来たら、〈喫茶シルエ〉のメニューに加えて、黒ふわさんみたいな辛党のお客さんを呼び込もう!)
そう決意したしずくは、気合十分で夕食用の牡蠣とほうれん草のドリアを作り始めた。やる気に満ち溢れていたせいか、今夜の料理はいつもよりも上手くできた気がする。
実際、ポピーたちだけでなく、初めてドリアを食べた白虎は、食べ始めるなりあっという間に完食していたし、黒ふわさんは特製スパイスで辛くした肉団子のキョフテ、ふわふわさんは優しい甘さのライスプリンを食べてご満悦となり、食べ終えたあとも夢見心地な様子で、ふわふわと浮かんでいた。
「しずくちゃん、今夜のお料理は、いつもよりもさらに美味しかったきゅるね!」
「ぷりぷりの牡蠣と、かりかりのパン粉とチーズがたまらなかったきゅる! 思わずねりねも、ぽぴーにつられておかわりしちゃったきゅる」
「ももが虎さんを見ていたら、よっぽど美味しかったのか、何度も舌なめずりしていたきゅるよ」
夕食の後片づけをしていると、シュクレドラゴンたちがやって来て、きゃいきゃいとはしゃぎながら、料理の感想を言い始めた。
「それは良かった。でも、カレーの美味しさはこんなものじゃないからね?」
「それはお料理の名前きゅるか?」
「ぽぴーが、しきりに気になるって騒いでいた料理きゅる?」
「かれー! たべるのが楽しみすぎて眠れないきゅる!」
コテンと首を傾げるモモとネリネの隣で、にわかに興奮し始めたポピーを見て、ついつい笑ってしまったしずくだが、その後ベッドの中に入ってからもスパイスの調合について思案していたせいで、彼女自身もすぐには眠れなかった。
(そろそろ寝ないと明日に差し支えちゃうな。ああ、でも無理に眠ろうとすると、かえって目が冴えちゃったりするんだよね……)
それでも、やはり連日の疲れがたまっていたせいなのか、目を閉じたままでしばらくじっとしているうちに、まるで落とし穴にストンと落ちるように、いつの間にか寝入ってしまったしずくである。
この日の夜は、カレーのことばかり考えていたせいか、珍しくマスターの夢は見なかった。
「ん? なんだろう?」
誰かが騒いでいる声が、微かに漏れ聞こえて来たのは、翌日になってようやく貯蔵庫でスパイスを探し終えたしずくが、食材の袋を片付けていた時だった。
(また青い小鳥さんたちが来たのかな?)
しずくが検品した食材を棚に戻した、ちょうどその時。
慌てた様子のネリネが、貯蔵庫に駆け込んできた。
「しずくちゃん、大変きゅる! 店の外にお姫様が来て、店長を出せって騒いでいるきゅる!」
「はい?」
急かすようにネリネに手を引かれた彼女がホールに戻ると、白虎は子虎に変化してソファの下に隠れており、店のみんなが困惑顔で窓の外を見つめていた。
店の外には、ゴテゴテと飾り付けられた一台の馬車が止まっており、アラブ風の衣装を着た大勢の者が群がっていた。
カレー≧マスター。
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