104話 やっぱりお年寄り?
その後、白虎は倒れ込むようにして床に横たわると、そのまま死んだように眠ってしまった。
食事をしている最中に、ずっと両前足が細かく震えていたところを見ると、思っていた以上に足腰が衰えているのかもしれない。
(やっぱりお年寄りの虎なのかも)
それなら手厚く介抱してあげなければ、と考えたしずくは、ポピーたちと一緒に二階の物置から予備の毛布やマットレスを運び出すと、それらを並べた上に白虎を寝かせることにした。
「ずっと固い床で寝ていると、体が痛くなっちゃうからね」
きっと夜まで目覚めないだろう、と毛玉たちに聞かされたしずくたちは、その間にもともと予定していたクリームチーズケーキ作りを進めることにした。
埃が立たないよう、離れたテーブルの上で作業を見学していた光る毛玉たちは、甘党の血が騒ぐのか、ポンポンと飛び跳ねながらはしゃいでいたが、黒い毛玉だけは騒ぎには加わらずに大人しくしている。
(もしかして、黒ふわさんは甘党じゃないのかな?)
ふと疑問に思ったしずくが、昼食を作る際に黒い毛玉に好みを聞いたところ、果たして「辛いものが好き」という返事が返って来た。
そのため、いつもは光る毛玉たちと仲良く行動を共にしているが、食事の時だけは別行動なのだという。
「だから、黒ふわさんはこの店に来なかったきゅるか……」
「ふわふわさんたちは、よく店でプリンを食べてたきゅるが、黒ふわさんは一度も見かけなかったきゅる」
「黒ふわさんは、ふわふわさんたちに気を遣っていたきゅるね」
「そういうことなら、つい最近に貯蔵庫で見つけ出した香辛料を使って、とっておきの料理を作ってあげようかな」
仲間思いの毛玉に感心したしずくが、花椒を利かせた麻婆豆腐を作ってやると、黒い毛玉はチカチカと点滅しながら大喜びで食べていた。
光る毛玉たちと同じく、どこが口なのかは全くわからないが、出した皿の中身がみるみるうちに消えていく所を見ると、かなり気に入ってくれたらしい。
満足そうな黒い毛玉を見て、光る毛玉たちが幸せそうに飛び跳ねていた。
「とりあえず、今日の目標数はこなせたね!」
日暮れ時になり、予定通りに〈りりちゃん印のクリームチーズケーキ〉を作り終えたしずくたちは、さくさくのクッキーとお茶で小腹を満たしていた。
あまり甘味を好まない黒い毛玉は、特別に塩味の利いたチーズクッキーをもらってご満悦だ。
「さて、そろそろ虎さんのための食事を作り始めないとね」
凝った肩をほぐしながらしずくが立ち上がると、ポピーが元気な声を上げた。
「その間に、ぽぴーたちがケーキを運んでもらう準備をしておくきゅる!」
「ありがとう! じゃあ悪いけど、そっちは任せるね」
白虎の夕食の献立は、毛玉たちの忠告に従って、午前中と同じく鶏のささみ入りのおかゆとかぼちゃのポタージュになった。だが今回、おかゆには卵を割り落としている。
出来立てほやほやの料理を持っていくと、それまでピクリとも動かずに眠っていた白虎が、ぱかりと目を開けた。
よろよろと立ち上がり、しずくに体を支えられながらマットレスを降りた白虎は、彼女に感謝するように頭を下げると、かつかつと夢中で料理を食べ始めた。
午前中に一度食事をしていたことで、ある程度腹が満たされていたらしく、今回はきちんと噛みながら味わっているようだ。
程なくして、全ての皿と鍋を空にした白虎は、魔法でそれらをカウンターの上に戻し、満足そうな顔で一鳴きすると、再びマットレスの上に横たわって眠りについた。
「あっと言う間に食べて、また寝ちゃったきゅる。でも満足そうな顔きゅるね」
驚いて目をぱちくりしているポピーに、ネリネが同意する。
「よっぽどごはんが美味しかったきゅるね。店に入って来た時は怖い顔をしていたきゅるが、今は幸せそうな顔をしているきゅる」
「きっとあの時は、おなかがすきすぎて気が立っていたきゅるね」
シュクレドラゴンたちの言う通り、今の白虎は借りて来た猫のように大人しい。
モモの言う通り、腹がすきすぎて気が立っていたというのは、あながち間違いではないのかもしれなかった。




