103話 実は危険な容体だったらしい
光る毛玉たちが、壊れたドアを修復して防御魔法をかけ直している間、しずくは白虎のための食事を作ることにした。
黒い毛玉によると、今もこうして倒れたままの白虎は、実は瀕死の状態であるらしい。もはや立ち上がる力も残っていないということなので、襲われることを心配せずに調理に専念することができそうだ。
「胃がからっぽかもしれないから、とにかく消化が良くて体に負担がかからない物にしないとね。ちなみに、私がいた世界では、虎にはネギ類や香辛料は与えちゃいけなかったんだけど、それってこちらの世界でも同じなのかな?」
しずくに尋ねられた黒い毛玉は、すぐさまチカチカと光って返事をした。
「この虎さんは特別だから、腐ったものや瘴気に侵されたものでなければ、基本的に何でも食べるって言ってるきゅる」
「……うーん、そんなものは誰が食べても危険だと思うけど……。とりあえず、雑食性だから特に気にしなくていいってことだね」
しずくはいろいろと悩んだ末に、柔らかく煮たおかゆに鶏のささみをほぐして入れたものと、大鍋で作ったかぼちゃのポタージュを用意することにした。
これらの料理が、餓死寸前の虎に与える食事として本当にふさわしいのかはわからないが、「この料理で問題ない」と断言する黒い毛玉を信じることにした。
店の修復を終えた毛玉たちが、傷ついた白虎を治癒魔法で癒すと、次に黒い毛玉がふわふわと進み出て、いざという時に睡眠魔法がかけられるよう待機した。
カウンターの中にいるしずくたちが、ゴクリとつばを飲んで様子を伺っていると、鼻先に置かれたおかゆとポタージュの匂いを確かめようとしているのか、白虎が膨らませた鼻孔がヒクヒクと動き、閉じていたまぶたが開き始めた。
再びしずくたちの間に緊張が走ったが、白虎の薄水色の目は、美味しそうな湯気を立てる料理だけに据えられていて、彼らには一切見向きもしなかった。
「あ、よだれが出たきゅる!」
モモが小さく声を上げたのと、ヨロヨロしながらどうにか体を起こした白虎が目の前の料理にかぶりついたのとは、ほぼ同時のことだった。
「うわ、すごい食欲だねえ……」
「よっぽどおなかが空いてたきゅるね……」
「虎さん、ふーふーしないで熱くないきゅるか?」
「お鍋に直接顔を突っ込んでるきゅるよ」
どうやら、こちらの世界の虎は、猫舌ではないらしい。
巨大な白虎は、皿に盛られた料理を瞬時に平らげると、今度は鍋に直接顔を突っ込んで、かふかふと音を立てながらむさぼり食っていた。
ほどなくして、二つの鍋もすっかり空にしてしまった白虎は、口の周りや前足をひとしきり綺麗に舐め上げると、やっと顔を上げて、カウンターの中にいるしずくたちに目を向けた。
(まさか、今度は私たちを食べようとしてる?!)
思わずしずくは体を固くしたが、お座りした白虎が寄こした視線は獲物を狙うそれではなく、おかわりをねだる時の飼い犬と同じものだった。
「……ごめん。かわいそうだけれど、ずっと空腹で胃がからっぽだった時に一気に食べすぎると、おなかが痛くなったり、最悪の場合死んでしまうことがあるから、おかわりは出せないの」
眉を下げた白虎が悲しそうな声を出す。大きな図体をしているくせに、空になった鍋を前にして、背を丸めてお座りしている姿は、まるで従順な飼い犬のようで、何だかかわいらしく見える。
「ごはんは時間を置いたらまた作ってあげる。だから、それまでは大人しく寝ていてね」
また食事がもらえると聞かされた白虎が、がう! と嬉しそうに吠えると、空になった皿と鍋がふわりと浮き上がり、静かにカウンターの上に戻された。どうやら白虎が魔法を使ったようだ。
きちんと食器を戻してくれたのを見る限り、この行き倒れの白虎は案外賢くて、礼儀をわきまえているのかもしれない。




