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神様の遺言状 ~世界に一軒だけの喫茶店はお客様の悩み事も解決いたします~  作者: はんぺん
第三章 腹ペコの虎と起死回生のカレーライス

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100話 恐るべき侵入者

 翌日、日の出の少し前に死神はちみつを届けに来た死神蜜蜂(しにがみみつばち)たちは、ついでだからと、ケーキに使うクリムの実の収穫まで手伝ってくれた。

 そのお礼として、サウー砂糖で作ったいちごジャムを渡したところ、彼らは大層喜び、しずくに向かって丁寧に一礼した。


「じゃあ、明日の配達もお願いしますね!」


 朝焼けの中、更に体を赤く染めた空飛ぶ伊勢海老(しにがみみつばち)たちが空の彼方(かなた)へと遠ざかって行くのを、手を振りながら見送ったしずくとシュクレドラゴンたちは、早朝の寒さでかじかむ手を(こす)り合わせながら小走りで店に戻った。


「じゃあそろそろ朝食にしよっか。私は目玉焼きを作るから、ポピーはスープを温めてくれるかな?」

「わかったきゅる!」

「ねりねとももは、お皿を並べておくきゅる!」


 そんな会話をしている間にも、気配りの達人であるお手伝いゴーレムのごーちゃんたちは、しずくが作ったサラダと、温めたロールパンが入った(かご)を、黙々とテーブルに並べている。

 全員が協力したおかげで、それから幾らもたたないうちに、彼らはそろって朝食を始めることができた。


「そういえば、マスターが護衛を依頼した知り合いの神様って、いつ来るんだろうね?」


 食後のお茶を楽しんでいた時、ふと、しずくが思い出したようにつぶやいた。


「確か、朝の九時ぐらいに来るって言ってたきゅる」

「それじゃあ、まだ時間があるね」


 ちらりと見た店の壁時計は、午前七時半頃を指し示している。


「どんな神様が来るきゅる? ねりねたちが知っている神様きゅるか?」

「あるじ様の話では、お客さんとしてこの店に来ていた神様らしいきゅる」


 モモの答えを聞いたしずくは、小首を傾げて考え込む。


「どのお客様だろう? あのマスターのことだから、きっと変な神様は寄こさないと思うけど……」


 その後、朝食の片付けを終えて、ケーキの材料を準備しているうちにこの話題は立ち消えとなり、皆でケーキ作りに取り掛かった頃には、すっかり忘れ去られていた。

 彼らが再び護衛の事を思い出したのは、時計が午前九時を指した頃──入口のドアを強く叩く音が聞こえて来た時だった。


「しずくちゃん、誰か来たきゅる」

「きっと護衛を頼まれた神様きゅるよ」

「すっかり忘れてた! もうそんな時間?」


 カウンター後方のキッチンスペースにいたしずくが急いで手を洗っていると、今度は乱暴にドアを打ち破ろうとする音がした。


「ちょ、ちょっと待って! いま開けるから、ドアを壊さないで!」


 慌て慌てたしずくがカウンターから出て声を張り上げると、バキンという鈍い音を立ててドアがこじ開けられ、その隙間(すきま)から、ぬうっと巨大な獣の顔が現れた。

 大きなギョロリとした眼と視線がかち合った瞬間、しずくの顔がザーッと青ざめる。


「と、虎?!」


 まさに今、店に押し入ろうとしていたのは、しずくの身の丈程もある、巨大な白虎だった。

 だが、太い首回りの部分がぎっちりとドアの隙間に挟まって、それ以上は進めないでいる。

 どうやら白虎がドアを壊すのと同時に、侵入者よけのマスターの魔法が発動したらしく、自動的に閉じたドアと壁との間に挟まれてしまったようだ。

 

 白虎は苦しそうに(うな)っているが、しずくたち側に虎を助けようという気はさらさらない。

 これまで〈喫茶シルエ〉に来た事がある客の中に、虎の姿をした神はいなかった。つまりこの白虎は、マスターが護衛に呼んだ神ではなく、店に押し入ろうとしている恐るべき侵入者なのだ。


ご覧いただきありがとうございます!

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