100話 恐るべき侵入者
翌日、日の出の少し前に死神はちみつを届けに来た死神蜜蜂たちは、ついでだからと、ケーキに使うクリムの実の収穫まで手伝ってくれた。
そのお礼として、サウー砂糖で作ったいちごジャムを渡したところ、彼らは大層喜び、しずくに向かって丁寧に一礼した。
「じゃあ、明日の配達もお願いしますね!」
朝焼けの中、更に体を赤く染めた空飛ぶ伊勢海老たちが空の彼方へと遠ざかって行くのを、手を振りながら見送ったしずくとシュクレドラゴンたちは、早朝の寒さでかじかむ手を擦り合わせながら小走りで店に戻った。
「じゃあそろそろ朝食にしよっか。私は目玉焼きを作るから、ポピーはスープを温めてくれるかな?」
「わかったきゅる!」
「ねりねとももは、お皿を並べておくきゅる!」
そんな会話をしている間にも、気配りの達人であるお手伝いゴーレムのごーちゃんたちは、しずくが作ったサラダと、温めたロールパンが入った籠を、黙々とテーブルに並べている。
全員が協力したおかげで、それから幾らもたたないうちに、彼らはそろって朝食を始めることができた。
「そういえば、マスターが護衛を依頼した知り合いの神様って、いつ来るんだろうね?」
食後のお茶を楽しんでいた時、ふと、しずくが思い出したようにつぶやいた。
「確か、朝の九時ぐらいに来るって言ってたきゅる」
「それじゃあ、まだ時間があるね」
ちらりと見た店の壁時計は、午前七時半頃を指し示している。
「どんな神様が来るきゅる? ねりねたちが知っている神様きゅるか?」
「あるじ様の話では、お客さんとしてこの店に来ていた神様らしいきゅる」
モモの答えを聞いたしずくは、小首を傾げて考え込む。
「どのお客様だろう? あのマスターのことだから、きっと変な神様は寄こさないと思うけど……」
その後、朝食の片付けを終えて、ケーキの材料を準備しているうちにこの話題は立ち消えとなり、皆でケーキ作りに取り掛かった頃には、すっかり忘れ去られていた。
彼らが再び護衛の事を思い出したのは、時計が午前九時を指した頃──入口のドアを強く叩く音が聞こえて来た時だった。
「しずくちゃん、誰か来たきゅる」
「きっと護衛を頼まれた神様きゅるよ」
「すっかり忘れてた! もうそんな時間?」
カウンター後方のキッチンスペースにいたしずくが急いで手を洗っていると、今度は乱暴にドアを打ち破ろうとする音がした。
「ちょ、ちょっと待って! いま開けるから、ドアを壊さないで!」
慌て慌てたしずくがカウンターから出て声を張り上げると、バキンという鈍い音を立ててドアがこじ開けられ、その隙間から、ぬうっと巨大な獣の顔が現れた。
大きなギョロリとした眼と視線がかち合った瞬間、しずくの顔がザーッと青ざめる。
「と、虎?!」
まさに今、店に押し入ろうとしていたのは、しずくの身の丈程もある、巨大な白虎だった。
だが、太い首回りの部分がぎっちりとドアの隙間に挟まって、それ以上は進めないでいる。
どうやら白虎がドアを壊すのと同時に、侵入者よけのマスターの魔法が発動したらしく、自動的に閉じたドアと壁との間に挟まれてしまったようだ。
白虎は苦しそうに唸っているが、しずくたち側に虎を助けようという気はさらさらない。
これまで〈喫茶シルエ〉に来た事がある客の中に、虎の姿をした神はいなかった。つまりこの白虎は、マスターが護衛に呼んだ神ではなく、店に押し入ろうとしている恐るべき侵入者なのだ。
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