第7話 仮面の代償
Eランクになったからといって、世界が急に優しくなるわけではなかった。
むしろ逆だった。
「おい、新入り支援兵。そっちの箱、全部北門まで運べ」
「休むなよ。Eは足で稼ぐのが仕事だ」
「前に出たい顔してるけど、まだ雑魚だからな」
兵站倉庫の前で、レンは木箱を抱えたまま小さく息を吐いた。
王都北区。
崩れた外壁の補修と、避難住民の再配置が続く地区だ。
灰冠迷宮の戦いから十日。
王都は少しずつ落ち着きを取り戻しつつある。
だが、その落ち着きはあくまで表面だけだ。
外壁の外では小規模なビースト群が今も出没し、街の中では人型AIの噂が広がり、
兵たちは誰も彼も気が立っていた。
レンも、以前よりは明らかに忙しくなっていた。
Fランク回収係からEランク後方支援へ上がったことで、やることが増えたのだ。
補給。
搬送。
通路確保。
避難誘導。
崩落箇所の応急補修。
場合によっては、簡単な前線支援。
ほんの一歩。
ほんの一段。
それでも確かに、ユウの背中に少しだけ近づいた気がした。
「レン」
振り向くと、白い外套を羽織った女が立っていた。
フィオナ・ルーベル。
聖王国アルディア《十傑》の一人。
治癒と結界を両立する珍しいAランクで、灰冠迷宮の戦いのあとから北区の医療支援を指揮している。
長い銀髪。
静かな顔立ち。
声も柔らかい。
レオナが炎なら、こちらは薄氷みたいな女だった。
「手が空いたら、この薬箱を診療所へ運んでくれる?」
「はい」
「……無理はしていない?」
その一言に、レンは少しだけ詰まった。
こういう聞き方をされると弱い。
「平気です」
「その顔は平気じゃない顔だけど」
フィオナは困ったように笑う。
「無理をしないで、という命令は聞かないでしょう?」
「命令なら聞きます」
「じゃあ命令。倒れる前に言いなさい」
レンはどう返していいか分からず、曖昧に頷いた。
最近、こういう大人が増えた。
市民も。
兵士も一部。
そして十傑の中にまで。
Eランクになってから、露骨に扱いが変わった部分と、全く変わらない部分がある。
変わらないのは、戦闘面だ。
Eランクはあくまで後方支援。
前線に立てばまだ笑われる。
変わったのは、人として見られる場面が少し増えたことだった。
それが嬉しいのか、苦しいのか、自分でもまだよく分からない。
◇ ◇ ◇
その日の午後、北区の一角にある仮設市場で、小さな騒ぎが起きた。
避難生活が長引いた住民たちのために、空いた広場へ簡易の露店を並べた市場だ。
野菜。
干し肉。
日用品。
古着。
そこへ、補給路から外れた荷車が突っ込みかけた。
御者は若い男だった。
どうやら車輪が縁石に引っかかり、進路を失ったらしい。
「危ない!」
「どいて!」
「子どもが前にいるぞ!」
レンが振り向く。
露店の前で、小さな男の子が尻もちをついていた。
その奥には、腰の曲がった老人。
間に合わない。
そう思った瞬間、足が動いていた。
木箱を捨てる。
地を蹴る。
男の子を抱え、老人の腕を引く。
三人まとめて横へ転がり込んだ直後、荷車が露店をなぎ倒して止まった。
野菜が転がる。
悲鳴。
粉塵。
だが、大きな怪我人はいない。
「あ、ああ……」
「助かった……」
「ありがとう、兄ちゃん!」
男の子の母親が泣きながら頭を下げる。
老人も震える手を合わせた。
「すまん……助かった……」
レンは息を整えながら立ち上がる。
別に仮面は使っていない。
ただ走っただけだ。
でも、間に合った。
その事実に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
周囲からも声が飛んだ。
「またあのEランクの子だろ?」
「最近よく助けてくれるよな」
「レンって言ったっけ」
「前も広場で子ども助けてたぞ」
名前で呼ばれる。
それがまだ少し照れくさい。
『人間社会における評価値が上昇しています』
頭の奥で声が鳴る。
レンは顔をしかめた。
「そういう言い方やめろ」
『事実です』
「事実でもだ」
『理解不能です』
「……分からなくていい」
小さく返す。
最近、このやり取りが増えていた。
仮面を使っていない時でも、声は時々現れる。
常に喋るわけではない。
だが、危機や強い感情の揺れがあると、頭の奥で短く鳴る。
いる。
消えていない。
しかも、少しずつ近くなっている気がした。
◇ ◇ ◇
夜。
回収係詰所の簡易寝台。
レンは眠れずに天井を見ていた。
最近、記憶が変だ。
大きなことは覚えている。
Eランクになったこと。
ユウが死んだこと。
黒い仮面。
レオナ。
ヴァルク。
だが、細かいところが時々抜け落ちる。
昨日の夕食の献立。
朝に誰と会ったか。
午前中に運んだ木箱の数。
どうでもいいことだと言えばそうだ。
だが、その“どうでもいいこと”が消えていくのが、逆に怖い。
『記憶障害は進行していません』
突然、声がした。
レンは眉をひそめる。
「覗くなよ」
『質問が発生していたため 応答しました』
「してねえよ」
『していました』
無機質な肯定。
腹立たしいのに、少しだけ安心してしまう自分がいる。
そこが余計に気持ち悪かった。
「……仮面を使わなくても、こうなるのか」
少し黙ってから聞く。
しばらく間があった。
そして、声が答えた。
『高負荷戦闘後の後遺症は残ります』
『特にあなたは 初回適合時の同期率が高すぎました』
レンはゆっくり息を吐いた。
「前にも言ってたな。臨界域とか」
『説明します』
声が近い。
まるで耳元で囁いているみたいだった。
『黒仮面には 同調率 出力 使用時間 臨界域の四つの指標があります』
『同調率は あなたと私の噛み合いです』
『出力は 使用している戦闘補助の強さです』
『臨界域は 反動の累積値です』
「……で」
『臨界域が上がるほど あなたは鋭くなります』
『反応速度 判断精度 身体制御すべてが研ぎ澄まされます』
『ただし 記憶 人格 体温 神経負荷も同時に上昇します』
レンの喉が鳴る。
つまり、強くなるほど危ない。
分かりやすい。
そして最悪だ。
『通常は臨界域が閾値に達すると 強制停止モードへ入ります』
『ですが』
そこで声が一拍置いた。
『集中が極限まで達し 同調率が100%に到達すると 強制停止は一時的にロックされます』
レンは起き上がる。
「それ、この前の……」
『灰冠迷宮最終局面で発生しました』
『限界を越えても 一時的にしばらくは動けます』
「……無理やり立たせるってことか」
『その代償として 解除後の損傷は大きくなります』
「危険すぎるだろ」
『はい』
このAIは、平気でこういうことを言う。
そこに善悪がない。
ただ事実だけを返してくる。
それが怖い。
だが、嘘をつかない分だけ信用してしまうところもあった。
『警告表記も可能です』
「何だそれ」
『例』
頭の中で、無機質な音が一度だけ鳴った。
ピー、という短い電子音。
『熱暴走 脳内温度上昇中』
『臨界域 32/100』
レンはぞっとした。
音声と数字だけで、妙に現実味がある。
「それ、戦闘中に出るのか」
『はい』
『高負荷戦闘では 緊張感を高めます』
「高めてどうすんだよ……」
『生存率向上に繋がります』
冷たい返答。
レンは額を押さえた。
要するに、この仮面は強い。
だが使うほど、自分が自分でなくなる。
分かってはいたが、数字で示されると嫌に生々しい。
『ですが』
また声。
『あなたは 次も使います』
レンは答えない。
返事の代わりに、寝台の端を強く握った。
否定できないからだ。
◇ ◇ ◇
翌朝。
王都北東の外縁監視路で、小規模な物資護送任務が組まれた。
目的は、仮設住区への薬品と食料の移送。
普段なら大した任務ではない。
だが灰冠迷宮事件以降、どんな小さな移動でもビーストの襲撃を警戒しなければならなくなっていた。
レンはEランク後方支援として隊列の後方にいた。
荷馬車。
補給箱。
負傷兵用の簡易担架。
護衛はDランク兵六名と、Eランク支援三名。
隊長格はいない。
小さな任務だ。
だからこそ、皆、少し気が緩んでいた。
「おいレン」
隣を歩く支援兵の女が声をかけてくる。
ミア。
Eランク補助兵。
栗色の短髪で、口は悪いが面倒見はいい。
「この前の市場の件、ちょっと聞いた」
「何を」
「子どもと老人、助けたんだって?」
「たまたまだよ」
「たまたまでできるなら苦労しないの」
ミアは肩をすくめる。
「……あんた、戦闘はからきしだけど、人助けに関してだけは変な勘あるよね」
レンは曖昧に笑った。
そう言われると否定しづらい。
遠くで、鳥が飛び立つ。
その瞬間、頭の奥で声が鳴った。
『停止』
レンの全身が固まる。
次の瞬間、地面が裂けた。
補給路脇の石材の下から、虫型ビーストが三体這い出す。
さらに後方の廃屋から狼型が二体。
「敵襲!」
「構えろ!」
Dランク兵たちが前へ出る。
だが初動が遅れた。
近すぎたのだ。
虫型の一体が、荷馬車ではなく、その横を歩いていた避難住民の列へ向かう。
配給に同行していた女と、子どもがいる。
「きゃあっ!」
レンの足が勝手に前へ出た。
「おい、レン!」
ミアの声。
無視した。
剣を抜く。
怖い。
だがここで遅れたら死ぬ。
虫型が跳ぶ。
遅い――とは、思えない。
やはり仮面がないと、世界は普通の速さだ。
それでも、首元へ刃を合わせるくらいはできる。
レンは半歩だけ踏み込み、必死で剣を振った。
浅い。
だが軌道はずれた。
その一瞬で、女が子どもを抱えて転がり込む。
背後からDランク兵の槍が虫型を貫いた。
「前に出るなって言ってるだろ!」
怒鳴られる。
だが礼も続いた。
「……助かった」
「ありがとう……っ!」
その時、別方向で悲鳴が上がった。
二体目の虫型が、馬車の車輪下へ潜り込み、荷台ごと転ばせようとしている。
薬品箱が散らばる。
それだけで済めばいい。
だが、崩れた箱の下敷きになりかけた子どもがいた。
レンはまた走っていた。
「お前ほんとに……!」
ミアが悪態をつく。
でも追いかけてくる。
レンは子どもを引きずり出し、そのまま体を盾にする。
直後、虫型の脚が肩を裂いた。
熱い痛み。
「っ……!」
Dランク兵が到着し、虫型を叩き潰す。
肩から血が落ちる。
視界が少し揺れる。
「大丈夫か!」
「……まだ」
答えた瞬間、背後の空気が変わった。
四体目。
建物の影から、大型のトカゲ型ビーストが飛び出してくる。
今度はさっきまでの雑魚ではない。
装甲も厚い。
速度もある。
前衛の兵が一人、まともに弾き飛ばされた。
「うわあっ!」
もう誰も間に合わない。
しかも、その進路の先には、補給箱の陰で動けなくなった少女がいる。
レンの心臓が強く跳ねた。
仮面を使うな。
ここで使えばまずい。
近すぎる。
見られる。
黒い騎士が現れるだけなら、まだごまかせる。
だが、レンがその場で仮面を出したのを見られれば終わりだ。
少女の顔が見えた。
泣くのを我慢して、足が動かず、助けを呼ぶ声すら出ない顔。
弱い奴ほど、痛い顔を見逃さない。
ユウの声が頭に響く。
レンは横転しかけた補給箱の陰へ半歩だけ滑り込んだ。
ほんの一瞬、視線が切れる。
その半拍だけで十分だった。
次の瞬間、レンは自分の影へ手を伸ばしていた。
黒い液体が、音もなく這い上がる。
頬を覆い、瞳を包み、顔の輪郭を変えていく。
『再装着を開始します』
冷たい声。
『戦闘補助 起動』
世界が変わる。
音が遠ざかる。
視界が澄む。
トカゲ型の動きが、急に遅くなる。
『目標一』
『装甲厚 対正面戦闘は非推奨』
『右脚 第二関節』
『その後 眼窩』
レンは地を蹴った。
黒い影が走る。
兵士にも、ミアにも、その動きは見えなかった。
ただ、誰かが前へ出たように見えたはずだ。
トカゲ型の爪が振り下ろされる。
レンは半歩だけ右へ滑る。
ミリ単位。
風圧だけが頬を掠める。
『今』
脚関節へ斬撃。
装甲の継ぎ目を裂く。
体勢が崩れる。
そのまま懐へ入る。
敵の単眼が遅れてこちらを向く。
『遅い』
その声が、自分の声だったのか、仮面の声だったのか、もう分からない。
眼窩に刃を突き込む。
深く。
捻る。
レンは数歩歩いて少女を抱き上げ、そのまま通路の脇へ置いた。
その背後で、トカゲ型ビーストが爆ぜる。
轟音。
火花。
数拍遅れて、周囲がざわめいた。
「なっ……!」
「今の何だ!」
「また黒い騎士……!」
「来てくれた……!」
「助かった! 助かったぞ!」
「見えなかった……!」
さっきまで怖れていた顔が、今度は歓声に変わる。
少女の母親が泣きながら膝をついた。
「ありがとうございます……っ!」
兵たちも息を呑んでいる。
Dランク兵の一人が、目を見開いたまま呟いた。
「本当にいたのか……黒い騎士……」
レンは答えない。
答えられない。
仮面の奥で、思ったよりずっと冷静な自分がいた。
『臨界域 18/100』
『継戦可能』
まだ低い。
まだ、引き返せる。
だが、その時。
補給路の先で、新たな爆発が上がった。
「第二車列がやられた!」
叫び声。
レンが顔を上げる。
遠くの荷馬車が横転し、数人の兵が吹き飛ばされている。
その向こうに、もう一体。
さっきのトカゲ型よりさらに大きい個体がいた。
装甲の色が違う。
深い藍色。
首筋には異様な発光線。
『ガーディアン残骸を流用した混成個体を確認』
仮面の声が少しだけ速くなる。
『危険度 上昇』
レンの喉が鳴る。
普通のビーストじゃない。
『推奨行動 退避』
一瞬、レンは驚いた。
「逃げろって言うのか」
『現在戦力では 高確率で損耗が発生します』
その時、後方で泣き声が上がる。
横転した車列の下に、まだ人がいる。
兵士たちも負傷していて動けない。
レンは前を向いた。
「……なら、行くしかないだろ」
『非合理です』
「知ってる」
『ですが』
わずかな間。
『それがあなたです』
レンは走った。
◇ ◇ ◇
藍色の混成個体は速かった。
普通のトカゲ型とは比べ物にならない。
脚部はビースト。
背部にはガーディアン由来らしい発光板。
単眼の動きも機械的で、軌道修正が鋭い。
『左』
『低く』
『前進』
レンは従う。
紙一重で爪をかわし、地面すれすれへ沈み込み、懐へ入る。
だが硬い。
Eランク支給の短剣では一撃で抜けない。
『臨界域 27/100』
肩で息をする。
体温が上がる。
敵の尾が唸る。
避ける。
次の瞬間には、さっきまでいた石壁が粉々になっていた。
「黒い騎士が押されてるぞ……!」
「そんな……」
「逃げろ! みんな下がれ!」
市民の悲鳴。
兵士の怒声。
レンは歯を食いしばった。
『中枢位置を再演算します』
『三秒』
「遅い」
『二秒』
敵が飛ぶ。
『一秒』
来る。
『今』
視界の中で、首下から胸部へ一本の細い線が走った。
そこだ。
レンは正面から踏み込む。
爪が振り下ろされる。
右肩が裂ける。
痛い。
だが遅い。
首下の線へ、全力で刃を叩き込む。
浅い。
さらに押し込む。
『あと五ミリ』
叫ぶ。
歯を食いしばる。
その時、背後から声が飛んだ。
Dランク兵だ。
「決めろ!」
その一声で、レンは最後の一押しを入れた。
中枢に届く。
藍色の混成個体が止まる。
レンは二歩、三歩と離れる。
そして振り向かない。
一拍。
二拍。
次の瞬間、背後で巨大な爆発が起きた。
藍色の火花が夜へ散る。
周囲から歓声が上がる。
「やった……!」
「黒い騎士が勝った!」
「助かった!」
「ありがとう!」
「また間に合ってくれた……!」
レンの呼吸は荒い。
視界の端が青く滲む。
『臨界域 34/100』
『熱量上昇中』
『記憶保持に軽度の乱れを検知』
勝った。
だが、その代償は確かにそこにある。
少女の母親が、泣きながら子どもを抱いたまま頭を下げる。
兵士たちも武器を握ったまま、呆然とレンを見る。
その中に、見覚えのある赤金の髪があった。
レオナだ。
いつから見ていたのか分からない。
ただ、確かにそこにいた。
彼女は馬から降りたまま、動かない。
驚いていた。
いや、それだけじゃない。
自分でも理解できない感情を押さえ込むみたいに、強く眉を寄せていた。
「……また、お前か」
小さな声。
レンは答えない。
答えられない。
レオナの目が細くなる。
この黒い騎士はいつもそうだ。
誰も間に合わない時に来る。
助けるだけ助けて、何も残さず消える。
速すぎる。
強すぎる。
そして、どこか壊れそうだ。
その危うさごと、どうしようもなく目を引かれる。
胸の奥が熱い。
苛立つほどに。
レンが一歩下がる。
影が揺れる。
そのまま闇の方へ消えようとする。
「待て!」
レオナが呼ぶ。
だが黒い騎士は振り向かない。
ただ一瞬だけ、仮面の青い瞳がこちらを向いた気がした。
次の瞬間には、もういなかった。
残されたのは、助けられた者たちの歓声と、熱の残る戦場だけ。
レオナはしばらくその場に立ち尽くす。
隣へ来たヴァルクが、苦い顔で言った。
「面倒な奴だな」
「……ああ」
「だが、助かった」
レオナは黙って遠くを見る。
黒い騎士が消えた方向。
そしてそのさらに先、王都の灯り。
心臓がまだ速い。
戦いの高揚だけでは説明できない何かが、そこに残っていた。
一方、裏路地の影へ滑り込んだレンは、壁へ手をついて呼吸を整えていた。
仮面が熱い。
頭が重い。
思考が少しだけ遅れる。
『強制停止まで 余裕があります』
「……今日は、もういい」
『了解』
黒い液体が頬から剥がれ、影へ沈んでいく。
レンは膝に手をついた。
勝てた。
でも危なかった。
そして、明らかに前より深く沈みかけた。
それでも。
助かった人がいた。
感謝の声があった。
ユウの代わりに前へ出られた気がした。
息を整えながら、レンは目を閉じる。
瞼の裏に、一瞬だけ数字が浮かぶ。
34/100
その数字の冷たさが、妙に嫌だった。
もっと高くなった時、自分はどうなる。
分からない。
分からないまま、それでも次も戦うことだけは、もう決まっていた。




