第94話 それぞれの動き
シオン達がエストとエリーの修行を始めて一週間程が経った頃、元小国バレスでは
「これで!!!」
ドッッガァーーーン!!!
城の屋上にあたる辺りから、誰かの掛け声と共に黒い何かがビームのようにバレス全体を覆う結界に対して放たれた。
それは結界の内側にぶつかると爆発し、その黒い何かを放った者の所にも衝撃波が来る。そして、辺りを黒煙で包んだ。
「だいぶ弱まったと思ったのですが、まだ駄目でしたか」
黒煙の向こうにはまだ結界が健在していた。
「また失敗か?ベッフェル」
黒い何かを、いや、瘴気を圧縮して放つ攻撃をしたベッフェルの後ろから声がかかった。
「残念ですが、また失敗でしたよ。ギリアム」
ベッフェルは不服そうに言い放った。
「ふん!何が弱ってきているだ!我の魔物を全滅させてから結構時間が経ったぞ!」
今バレスを囲っている結界は魔人や魔物達を閉じ込めるために、バレス王のエスカーンが命を使った禁術の結界だ。
中に閉じ込めた生命力を糧に結界が維持をし続けるという効果がある。
しかし、魔人にはその効果があまりなく、瘴魔に限っては一部を除き効果が薄かった。
よって、ギリアムが操っていた魔物はその効果を受けていたため皆殺しにした。
それから、暫く時間が経ち、やっとのことで結界の効果が薄まってきたのだ。
それでもやはり禁術と呼ばれるだけの結界だけに破壊に失敗しているのが現状だ。
「・・・・やはり外からも一緒に攻撃してもらうのが一番ですが・・・。中から破壊するにはもう少し時間が必要ですか・・・」
ベッフェルは頭を悩ませながら呟くのだった。
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「ったく!ベッフェルの奴はどこに行きやがった!」
またまた別の場所では魔人イマーゴがベッフェルの行き先がわからずにいらついていた。
イマーゴはシオン達にちょっかいを出した後、アルマブルクとバレスの間にある山の何処かにある隠れ家の実験室を訪れた。
何日かそこでベッフェルを待っていたが、戻って来る気配はない。
そこで、ベッフェルが行きそうな場所を手あたり次第で探す羽目になっていた。
「これだったら、あのガキ共でもっと遊んでおけばよかった」
イマーゴはシオン達で遊んでいた方がいいと心底思っていた。
「早く事済まして遊びたいってのに・・・。次は向こうに行ってみっか」
イマーゴはぶつくさ言いながら、今いる未開の森からバレスの方へと飛んで行った。
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(そろそろ結界が弱まってきたかもしれない)
シオン達がエストとエリーに一週間程の修行をした頃にノームがそんなことを言ってきた。
「遂に・・・か」
シオンはまだエストとエリーを一緒に連れて行くことに懸念があった。
それはリィナとエリーが契約をしていないということだ。
このままでは普通の魔物はともかく、瘴魔や魔人相手では二人は手の出しようがなかったからだ。
(シオン、何を考えているかわかるけど、どうにかなるかも・・・いや、なっているかもしれないよ)
ノームはシオンの表情から何かを悟ったのかそんなことを言ってきた。
「・・・どういうこと?」
シオンが疑問に思い聞き返すが
(実際にやってみないとわからないけどね)
ノームはこの場でそれ以上は教えてくれなかった。
「それでは・・・その・・出発するのですか?」
ノームと一緒にいたエリーがシオンに聞いて来る。
「そうだね。準備したらバレスへ向かおう」
こうしてバレスへと向かう準備に入るのだった。
「これは凄いな」
エストが驚いているのは、シオンが持っていた異空間袋だった。
明らかに長さが違う物もスルスルと入ってしまい、どれだけ入れても重さや袋の大きさも変わらなっかったからだ。
「私達も最初は驚いたよね」
「ですね。これでかなり旅が楽になりますから」
リィナとレィナも最初の頃を思い出し、感想を改めて言った。
「取り敢えず食材と水、皆の着替えとかは一通り入れたから大丈夫だよ」
シオンは何を入れたか皆に教えた。
「今回は父上が馬車を用意してくれましたので、山の梺のあの村までは行けますよ」
「途中の橋はまだ修復できていないけど、何とかやってくれって言ってたよ」
「「「・・・・・・・」」」
シオンとエスト、エリーはアルバルトのいい加減な性格を目の当たりにして言葉が出なかった。
「あの・・・橋は私が創ってみます」
少し悩んでいるとエリーが言ってきた。
「エリーが・・・」
シオンはエリーの方を見て考えた。
この一週間程でエリーはかなり精霊魔法の腕は上がった。
地属性の精霊魔法はノームと契約していることもあり、恐らくシオン以上に扱いが上手くなっているはずだ。
「わかった。その時は頼んだよ」
「っ!はい!」
シオンに期待をされてすごく嬉しそうにエリーは返事をするのだった。
「それでこの後もう出るのか?」
自国は昼過ぎだ。本来なら朝の内に出発したいところだが
「そうだね。昼食は適当に何か買って、馬車内で食べよう」
こうしてシオン達は馬車で山の麓の村へと向かうのだった。
「シオン君、あーん」
「こっちもです。あーん」
「・・・・二人共、エスト達が見てるから」
馬車内ではシオンとリィナとレィナの甘々な空間が産まれつつあった。
「むぅ・・・」
向かいの席にはエリーが面白くない表情で座って昼食を食べている。
「これは・・・バカップルというやつか」
エストはいづらい雰囲気を感じていた。
今回はカイルとユーグスが馬車の警戒と御者をやっていてくれているので、皆で中で昼食を取っている最中だ。
「シオン様!・・・あの・・その・・・。あーん・・・です」
エリーが顔を赤くしながら、頑張ってシオンに向かって料理を差し出してきた。
リィナとレィナもそのエリーの行動に驚いているようだ。
「・・・・・」
シオンはエストの方を見ると黙って頷かれた。
「じゃ、もらうね」
そういってシオンはエリーの使っていたフォークから料理を口に運んだ。
「っ!!」
エリーも食べてもらった後に自分が浸かっていたフォークということに気付き顔を更に真っ赤に染まった。
「シオン君!こっちも!」
「私もです!シオン君!!」
エリーに負けずにとリィナとレィナも更に詰め寄って来る。
馬車は走っているのでシオンに密着したリィナとレィナの胸がふよふよと常に当たっているのでシオンは料理の味が全然分からなくなってきていた。
「食べるからもう少し離れて!」
シオンは最後にそう叫ぶのだった。
そして一行はまだ修復されていない橋に到着した。
「エリー、大丈夫?」
「は、はい!」
エリーは緊張しているのか声が上擦っていた。
(僕も手伝うから大丈夫だよ。エリー)
エリーの頭の上にいるノームも応援して来た。
「う、うん!」
シオンとリィナ、レィナも隣で何かあった時のために控えている。
エリーは川の近くに行き地面に手をついた。
「ふぅー・・・。お願い!橋を!!」
エリーがそう叫ぶと川の下から地面が一部が隆起して、川を塞き止めないようにアーチを描きながら架け橋を創っていく。
数秒もすればそこには石で出来た立派な橋が出来上がっていた。
それはまるで一枚岩を削って出来たような石橋で繋ぎ目が一切見当たらなかった。
「すごいね・・・」
「本当ですね」
「これは・・・」
後ろで見ていた皆もその橋の出来具合に感心していた。
「こ・・・これで大丈夫でしょうか?」
エリーはそんな皆の様子に気付いてなく、自信なさげに聞いて来る。
シオンは一人でその出来たばっかりの石橋に向かい、強度等も確かめる。
「うん。これなら馬車が通っても大丈夫そうだよ」
「よかった・・です」
シオンが結果を伝えるとエリーは安堵の息を吐いた。
そして、その出来上がったばかりの橋を通り、山の梺の村へと馬車を走らせたのだった。
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「そうか、アカネというのか」
フィルジアが赤毛のショートカットの少女に話しかけた。
「はい、その・・・遭難してしまって」
アカネは上手く説明ができなかった。
「それは大変でしたね」
リシアがそれに同情する。
今、ここは湖の畔だ。アカネが水浴びをしていたところにカイが遭遇。そこでわたわたやっているところに、今度はリシアがやって来た。
ゴタゴタになってしまったので、アカネが一旦服を着て、休憩していたフィルジアとルシルの所へと戻って来たところだ。
「まぁ、この辺りの服じゃないよな」
カイはアカネが着ている和服のような物を見る。
「・・・う」
「こら、カイ。あまりジロジロ見ないの」
アカネの服は村で起こった事件から同じ服でここまで来ている。
海で漂流し、ここまで陸路を歩いて来ているのだ。
服のあちこちは破け、際どい場所も見えている状態だ。
しかも、アカネの住んでいた辺りは下着の概念があまりなく、つまり履いていないのだ。
「それよりさっきから気になっているんですが・・・その羽の生えた赤いトカゲはなんですか?まさか竜?」
アカネはふよふよと飛んでいるサラマンダーを見て言った。
「やっぱり見えていましたか」
「こっちからもわかる程に火のマナを出しているからな」
「火のマナ?」
リシアやフィルジアのように精霊魔法の使い手ならば、今のアカネが制御しきれずに駄々漏れの火のマナを視認出来る。
「その様子だと精霊魔法は知らないですか?」
「・・・魔法は知っていますけど、あたしは全然使えません。精々初級レベルの魔法が出来るかなってぐらい」
アカネは正直に話す。
この異常な青白い火を見ても驚くことがなく接してくれているからだ。
(彼女は僕と契約出来る素質はあるよ)
どうやらサラマンダーが言っていたのはアカネのことなのだろう。
「契約?」
「えっと・・・これはサラマンダーさんといって、火の精霊です」
(よろしく、アカネ)
「はい・・・よろしくお願いしますって精霊!?」
アカネの地域でも精霊の話は童話のような物で伝わっている。
そんなお話だけの存在と考えていた精霊が目の前にいて驚いているのだ。
「まぁ、契約の話は少し説明しますので」
リシアが契約についての説明をわかる範囲で説明する。
「えっと・・・あたしは精霊魔法を使えないんだけど」
「いえ、見る限りその青白い炎は精霊魔法だと思います」
(僕と契約すれば、マナの制御をしてあげるよ)
「マナの制御?」
「えっと、精霊魔法は自分自身に宿るマナを操作して、魔法と同じ様な現象を起こす魔法です。こうやって」
リシアは実際に目の前に水の球を造り出し見せてみる。
「わあ!すごい!」
アカネはその現象に驚いていた。
魔法ではリシアがやったように、水の球をただ浮かばせることは出来ないのだ。
「まぁ、魔法のように詠唱等の型がないので、マナの操作で自由に形を変えられるのです」
リシアは水の球を剣の形、槍と形を変えていく。
「・・・それあたしにも出来るの?」
「練習すれぱ出来るようになりますよ」
その言葉を聞いたアカネは嬉しそうな顔をした。
「わかった!サラマンダーさんと契約する!」
「え!そんな簡単に決めていいのですか?」
「うん、あたしもその精霊魔法使ってみたい。サラマンダーさんと契約すればすぐに出来るようになるんでしょ?」
「まぁ、普通よりは早いと思いますけど」
リシアが迷いながら答えていると
「だが、契約すれば戦いを余儀なくされるぞ」
「・・・え?」
フィルジアの言葉にアカネは固まった。
「俺達もそうだが、魔人と呼ばれる者や瘴気に関わるものと戦わないといけなくなる。その覚悟はあるのか?」
「・・・戦う覚悟」
サラマンダーと契約するということはそういうことなのだ。
「あたしはただの村娘です。戦いで役に立つ知識も技術もありません・・・」
アカネは目を閉じて自分のことを話す。
「それに・・・はっきり言って戦いは怖いです。今まで命のやり取りの現場なんてほんの数回しかないし・・・」
村での襲撃とここに至るまでの数回の魔物の襲撃しか経験がない事を明かす。
「こんなあたしでも戦えるようになるんでしょうか・・・」
アカネはそこが怖かった。
もし契約しても戦えずに殺されていくのは嫌だったから。
「戦いや技術は俺達で教えられることは教える」
「それに、精霊魔法だったら私とフィルジアさんが教えますから」
「フィルジアさん、リシアさん・・・」
こんな自分でも大丈夫と言ってくれるのがすごく嬉しかった。
ここで拒否されていたらまた路頭に迷うことになるのだから。
「オレからすりゃ何が何でも契約してもらわねーと困るからな」
「え?」
カイはアカネにおどうしても契約をしてほしかった。
「これ以上こいつを持ち運ぶのは本当につれーんだよ」
カイはそう言って大剣をポンと叩く。
(僕としてもアカネぐらい素質がある人と早々出会えないから契約してくれると嬉しい)
サラマンダーもそう言ってくる。
「最初は私達の戦いを見て勉強すればいいから、ね?」
ルシルも優しく迎えてあげようとする。
「こんなあたしですがよろしくお願いします」
アカネはサラマンダーと契約し、皆に付いて行くことを決心した。
「で、契約ってどうやるの?」
アカネは首を傾げて聞いた。
(そこに立ってて)
「うん、わかった」
アカネはサラマンダーの言う通りその場所に立った。
(最初は違和感があるかもしれないけど、それを受け入れる感じでいてほしい)
「う、うん」
アカネは緊張して頷く。
(行くよ)
サラマンダーがそう言うと赤いマナの光に分解していった。
その赤い光はアカネの中に吸い込まれていく。
「っ!あつ!」
アカネは赤い光が入ってきた途端に体が燃えるような熱さを感じた。
(これを拒否しないで受け入れて!)
「そうっ!言ったってっ!!」
アカネは膝を付き、厚さに耐えていた。
(大丈夫だよ!この熱はアカネの熱にもなるんだ!)
アカネは自分自身の中に異物が入っているのを感じている。
そしてそれがものすごい熱を持っているのも。
それを受け入れようと頑張ってみるが、本能的に拒否をしているのか、最後のひと踏ん張りが上手くいかない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
アカネは意識も朦朧としてきた。
「受け・・・入れる・・・」
アカネは自分の中にある異物とは別の何かを自分自身の中に見つける。
それを認識した途端、今まで襲っていた熱が無くなっていくことに気付いた。
「あ・・・れ?」
アカネはその場で仰向けに倒れ、意識を失いそうになる。
「アカネさん!!」
近くでリシアがアカネを呼ぶ声がしたような気がした。
(よく頑張ったね。これで契約完了だ)
意識がなくなる直前に頭の中にそんな声が聞こえた気がした。
そして、アカネは意識を完全に失うのであった。




