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双子王女との恋奏冒険記  作者: 雅國
第四章 廻り出す運命
93/199

第93話 二人の修行

 翌日、まだ陽が昇る前の早朝。シオン達が住む屋敷の広い庭の一角でシオンとエストが模擬戦をしていた。


 カンッ!カン!カカンッ!!


 木剣を使用しているので木の乾いたぶつかり合う音が響く。

 他の寝ている人の邪魔をしない様にシオンが薄い結界を張り続けながらエストと戦っていた。

「ふっ!結界を張っている割にはいい動きするんだな」

「僕はっ!精霊魔法と同時に体術も使いますからね」

 エストの攻撃をいなしながらシオンは答えた。

 その後も二人はお互いに有効打を打ち込めないまま、打ち合いが続く。


「シオン!お前はすごいな!魔法も使え、剣も私にここまで付いて来るなんて」

「はぁ・・・はぁ・・・一応鍛えてますから」

 だが戦況はエストに傾き始める。

 エストは魔力で身体強化しているが、カイの様に力任せで振るう剣技ではなく、技術が高い剣技を使うのだ。

 独学で剣を修行していたシオンとは違い、しっかりした型が見て取れる。


「次で最後にしようか。私も結構疲れてきたからな」

「ふぅ・・・わかりました」

 シオンは息を整えて返事を返した。

 二人は静かにお互いを見据えていた。そして、ほぼ同時に動きだし、肉薄しようとする。

「はぁあ!!」

 シオンの方が僅かに木剣を振るう速度が速い。これならエストの木剣が届く前にシオンの木剣がエストに届くはずだった。

「甘い!」

 エストはシオンの振るう木剣の剣先の側面に、後から振るった自分の木剣を撫でるように当てる。

 そうすることでシオンの木剣の軌道が少しずれる。

 そのわずかにずれた隙間を縫うように身体を動かし、最初に振るった木剣をそのままシオンの首筋の前で寸止めした。


「「・・・・・・」」


「負けたよ」

 少しの沈黙を挟み、シオンは己の負けを認めた。

「いや、シオンの剣技も凄かった。私に今の技を使わせたんだからな」

「技?」

「最後、私が何をやったか分かったか?」

「・・・速すぎてよくは分からなかった」

「だろうな。まぁ簡単に言うと相手の攻撃をいなすのと、相手を攻撃する動作を一振りでやる技だ」

「・・・え?そんなこと出来るの?」

「現に今私がやっただろう。父上と比べるとまだまだだがな」

 エストは今は亡き父親のエスカーンから教わった技だった。

「父上はこの技をカスミと呼んでいたよ。相手が霞の様に消えると錯覚するらしいからな」

「・・・確かに」

 シオンは先にエストに切りかかったのに、気付いたら首元にエストの木剣があったのだ。

 名前の由来も分かったような気がした。

「ただ、自分の扱う武器が馴染まないとなかなか難しいんだがな」

 エストはそう言って笑った。

「・・・・・・」

 シオンはそう言われ黙ることしか出来なかった。

 それが本当なら今のシオンとの打ち合いで木剣を完全に馴染んだということなのだから。

「シオンも気落ちしないでいいのではないか?お前は精霊魔法使いだ。魔法を使われたら私なんて相手にもならない」

 エストがシオンに気を遣い言ってくる。

「それでも悔しいものは悔しいよ」

「それならまた今度やろう。私もシオンとならまた戦いたいからな」

 二人は朝の模擬戦を終え、汗を流すために風呂へと向かった。




「ふー・・・気持ちいい」

 エリーは昨日の騒動で風呂に入っていなかったので早朝一人で風呂に入っていた。

 その幼い身体はまだ発達途中で胸等もまだ小さい。

 そんな身体の前にふよふよと浮かぶ何かがいた。


(人間は大変だね)


 そこにはノームも一緒にエリーの傍にいたのだ。

「・・・ノームは入らないの?」

 エリーは首を傾げながら訪ねた。


(僕は実体がないから汚れることもないからね)


「そうなんだ」

 そして、よく温まったのを確認して、エリーは着替えるために浴場と着替え場の扉を開けようと手を伸ばした。


 ガラ


「・・・え?」

 手を伸ばした時いきなりドアが開いた。

 そしてその向こうに誰かがいるのを確認した。

 エリーの背はかなり低いので視点も低い位置にある。

 そのため男の人にしかないあれが目に入った。

「・・・っ!!」

 そのまま視点を上へ持っていくとシオンの顔があった。


(やあ、シオンとお兄さん。おはよう)


 エリーのことを気にせずにノームは二人に挨拶をした。

「・・・・・・」

 シオンは黙ったままだ。

「どうした?シオン」

 後ろにいるエストはエリーに気付いていない。

「ん?・・・エリー?」

 シオンの後ろから顔を覗かせ、エストもエリーに気付いた。

 エストは妹であるエリーの身体は城にいた頃に見ている。それはエリーがエストに対しても言えることだった。しかし、シオンは違う。


「シオン・・・そんなに見てあげてやるな」

「ご!ごめん!!」

 エストの声でシオンは我を取り戻し、すぐに視線を逸らせた。

「エリーも早く身体を隠したらどうだ?」

 そのエストの言葉にエリーも自分の身体を見る。そこには一糸纏わない自分の産まれたままの姿だった。

「・・・え?シオン・・様に見られ・・・・見て・・」

 そのままふらっとエリーの身体が倒れそうになる。

「っ!エリー!」

 それに気付いたシオンはエリーが床にぶつからないように受け止めようとする。

 しかし、エリーは濡れた身体で、浴場側に立っていた。

 そして浴場の濡れた床は滑りやすくなっている。

「あ」

 シオンがそのことに気付いた時には足を滑らせていた。


 ドサ!


 シオンは倒れながらも何とかエリーを自分の体の上へ持ってくることに成功していた。

 まだ発達はしていないが、しっかり胸の膨らみはあるし、女の子特有の柔らかい感触もシオンは感じた。

 そして、息をしようとしても口が何かに塞がれて出来ないことに気が付く。

 目を開けてみるとエリーの綺麗な青い瞳が見開いた状態で目の前にあった。


「いやはや妹が裸でキスする姿をこの目で見るとは思わなかったよ。シオンには責任取ってもらわないとだな」

 頭上からエストの声が聞こえてきた。

「ぷはっ!エリー!ごめん!!」

 シオンは慌ててエリーを横にどかして謝った。

「・・・わた・・し、今・・シオン・・さまとキス・・」

 エリーは女の子座りをして身体を隠すのも忘れ、放心状態だった。

「シオン、ここは私がどうにかするから一回出て行ってもらってもいいか?」

「う、うん。お願い」

 これ以上ここにいては余計にエリーが落ち着かなくなると考えたシオンは直ぐに服を着て、廊下へと出た。



「エリー、大丈夫か?」

 エストはエリーの身体にタオルを掛けてやり、今だに放心状態のエリーに話し掛ける。

「・・・兄様・・・今私・・・シオン様と」

 どうにか意識を保っているエリーがエストに聞いた。

「ああ、キスしていたな」

「・・・兄様、嬉しすぎてどうにかなっちゃいそうです」

「本当にシオンのことが好きなんだな」

 そう言ってエストは笑った。

「取り敢えず体を拭いて着替えよう。このままだと風邪を引いてしまう」

「・・・はい」

 エリーは裸を見られたことは恥ずかしいがシオンとキス出来たことの喜びが勝っているのであった。



「待たせたな」

「お待たせ・・・しました」

 廊下で待機していたシオンにエストとエリーは話しかけた。

「エリー、さっきはごめん!!」

 シオンは誠意を持ってエリーに対して謝った。

「シオン様、その・・・恥ずかしかったですけど・その・・・嬉しかったので・・・」

「要するに気にしていないということだ」

 エリーが恥ずかしそうにしているのでエストが簡潔にシオンに伝えた。

「それならよかった」

 これから精霊魔法を教えるのに気まずい雰囲気にならないとわかって、シオンは胸を撫で下ろした。

「それよりリィナとレィナはどうしているのだ?」

「それならもうすぐ起きると思うよ。いつもこの時間ぐらいまで寝ているから」

「そうか。それなら私達は一度部屋へ戻るか」

「わかった。朝食が出来たら僕かメイドさんが呼びに行くと思うから」

「了解した。エリー、行こう」

「その、それではシオン様、後程」

 そしてシオンは汗を流すために風呂へと入ることにした。


(・・・これはなんだろう)


 ノームの疑問の声は誰にも聞こえることはなかった。





「エリーちゃん、何かいいことでもあったの?」

「っ!?」

 朝食の席でリィナがエリーに尋ねた。

 その質問にエリーは驚き、喉を詰まらせてしまう。

「ほら、水だ」

 隣に座っていたエストがエリーに水を渡す。

「・・・ぷはぁ、ありがとうございます。兄様」

「確かに昨日以上に笑顔ですよね」

 レィナもそう感じるようだ。

「そう・・・でしょうか?」

 本人は分かっていないようだが、朝食を食べている間もニコニコしていることが多い。

 昨日の夕飯の時も笑っていたが、今の様にニコニコはしていなかったのだ。

「うん、なにかあったの?」

「えっと・・・何も・・ないです」

 エリーは口でそう言いつつ、顔を少し赤くしながらシオンの方に視線を向けた。

 そして、その目の動きを追ったのかリィナとレィナはシオンの方を見た。


「・・・・・・」

 シオンはそれに気が付かないふりをして朝食を食べるのに集中した。

 今回はさすがにエストも今朝のことは言わないでいてくれているようだ。

「「怪しい(ですね)」」

 その言葉に一瞬ドキッとしたが、顔に出さずに済んだ。


 何も起こることなく朝食を終え、一行はエストとエリーの修行をするため、王城を訪れていた。

 アルバルトが昨日の話で、修行することも伝えていたので、練兵所の一つを貸してくれるとのことだった。

 貸してくれた練兵所は屋内で十分な広さもあった。

 だがこれでも、城の中にある練兵所の中では一番狭い場所らしい。

「馬車の中でマナの知覚と操作・・・はまだ甘かったけど、一応は出来ていたみたいだから、マナの変換からかな」

 シオンは思い出しながら修行の方針を決めた。

「うぅ・・・あれをやるのですか?」

 エリーは以前、暴走しかけたので、マナの操作に恐怖感を感じていた。

「僕が最初ちゃんと見てて上げるから大丈夫だよ」

「は、はい」

 シオンはエリーが安心するように言った。


「私はどうする?」

 次にエストは自分は何をしたらいいか聞いた。

「エストは精霊魔法を扱うというより、精霊魔法と合わせる練習をした方がいいかもしれない」

「精霊魔法と合わせる?」

「うん。エストはノームの剣を使って戦う。その剣に宿っているノームの意思がエストに合わせて戦っているといってもいい」

 シオンが説明する。


(シオンの言うとおり、僕が全部を操作しているわけではないから、その剣に宿る僕の一部と息を合わせるのはいいかもしれないね)


 シオンの考えにノームも賛成のようだ。

「だから、エストは剣を使った精霊魔法を的に向けて撃ってもらおうと考えている」

「・・・それでこの剣に宿っているノームの一部と感覚を合わせるということか」

「最初はその感覚を掴むのは難しいかもしれない。だけど、エスト程の剣の腕前なら掴めるはずだ」

 シオンは今朝の模擬戦を見て、エストにはそれが可能と考えている。

「それが出来たら何か変わるのか?」

「息が合うということは、細かな制御も出来るようになるはずだよ」

「そうか・・・わかった。やってみよう」

「リィナとレィナはエストの精霊魔法の発動過程を見ていて欲しい。何かあったらすぐに呼んで」

「うん」「わかりました」

 こうして二人の精霊魔法の修行が始まった。



「うぅ・・・あぅ」

 エリーはマナを手元に集め、火種を出そうとしたが火が出た途端に霧散してしまった。

「うーん・・・まだマナが足りていないみたいだね」

 シオンはその様子を見て、ダメだった所を指摘する。

 やはり最初にマナの暴発の直前を体験してしまったからなのか、本能的にストップをかけてしまうようだ。

「一度思いっきりマナを集めてやってみようか」

「え!?」

 エリーは驚いてシオンの方を見る。

「暴走はさせないようにするから大丈夫だよ」

「そんなこと・・・出来るの?」

「まぁ、手を繋いでもらう必要はあるけどね」

 暴走を止めた時と一緒でシオンは接触することでエリーのマナを制御しようと考えた。

 一度成功の時のコツさえつかめてしまえば、今後もやりやすくなるはずだ。

「それくらいなら・・・いい」

 エリーも手を繋げるのなら逆に喜んで繋ぎたいと考えているので、すぐに了承した。

「じゃ、失礼して」

 そう言ってシオンはエリーの両手をエリーの後ろから握った。

 すると、自然とエリーを軽く抱きしめる形になる。

「ふぇ!?」

 突然のことにエリーは変な声を出してしまった。

「ん?嫌だった?」

「そんなこと!ないです!!」

 エリーは緊張からなのか少し大きな声で否定した。

「ほら、深呼吸して」

「はい。すぅ・・・・はぁ・・・」

 エリーは緊張しながら深呼吸をする。

「そのままマナを両手に思いっきり集めてみようか」

「はい」

 エリーはシオンに言われたまま、マナを思いっきり集めてみる。

 以前はそのままマナが膨れ上がって暴走したのだが、今回はシオンが制御をしているからなのか暴走の時のようにマナが膨れてくる感じがしなかった。

「今僕がエリーのマナを制御しているんだけどわかる?」

「・・・・なんとなくは」

「そう、最初は何となくでいい。今の状態をエリーも真似るイメージをしてみて」

「・・・・・・・・」

 エリーは声に出さずに集中する。すると、だんだん自分のマナがどのようになっているかがわかるようになってきた。

 シオンのマナがエリーのマナに染めて暴走しないように膜みたいのを張っているイメージがわかった。

 エリーもそのイメージを自分のマナでやってみる。

「うん、その調子」

 エリーはシオンの言葉を聞き、更に集中する。

 その内にシオンの操るマナが消えていき、代わりにエリーが自分自身で操ったマナで制御をし始めた。

「今の要領で目の前に火を作るイメージをしてみて」

「・・・わかりました」

 エリーは今掴んだマナの制御で少し離れた場所に自分のマナを溜める。

 そして、強い炎のイメージをする。


 ボォン!!


 イメージした途端にマナが炎に代わりその場で燃え始めた。

 炎はその場で今も燃え続けている。

「今エリーはずっとマナをそこに制御をし続けているでしょ?」

「・・・はい」

「だからああやって同じ場所で燃え続ける。僕達みたいに攻撃に転用するなら、そのまま球や剣みたいに相手にぶつける形を思い浮かべるんだ」

 エリーはシオンに言われたまま球の形をイメージすると、炎は丸くなっていき球の形になった。

「試しにあれを撃ってごらん」

 シオンはそう言って少し離れた所に水の球を浮かべる。

 エリーは集中してその水の球に向けて炎の球を飛ばしてみる。

 その炎の球はエリーがイメージした道を通り、水の球に着弾する。

「・・・出来た」

「うん。今のはよかったよ。今後の注意として一つ。僕も昔にやったんだけど、マナの制御には自分が制御できる分だけ制御するんだ。もっと慣れてくればもっと多くのマナを制御できるようになる。もし自分の制御が出来なくなるとあの暴走するからね」

「そう・・・なんですね」

「それと、エリーの場合はノームと契約しているから、地の精霊魔法の方が制御もしやすいと思うよ」

「・・・・・・・」

 エリーはさっきと同じようにマナを制御して石の槍を思い浮かべる。

 すると今度は石の槍が宙に浮いて出現した。

「へえ・・・」

 シオンは言われたまますぐに実行できるのはすごいと思った。

「シオン様・・・的・・・お願いしてもいいですか?」

「わかった」

 そう言ってシオンは先ほどより遠い位置に水の球をだした。

「こう・・・かな?」

 そう言ってエリーは石の槍を飛ばす。

 石の槍は見事に水の球に命中した。

「それじゃ、このまま制御の方を細かくする練習をやっていこうか」

「はい!」

 エリーは思ったより上手く出来たので、嬉しそうに返事をした。



「エスト君、本当に精霊魔法は経験ないの?」

「ないぞ」

「思ったより精霊との息はあっていそうですね」

 エストの方はリィナとレィナに実際に発動過程を見てもらっていた。

 エストが剣を地面に突き立てると、先の方に地面から石の槍が生え、そのまま剣を振り上げれば、地面を破壊しながら瓦礫を前にと飛ばした。

「しかし、細かな制御という意味では出来ていないな」

 エストは石の槍を生やす場所、地面の破壊の威力が自分で思っていたのと違ったのだ。

「んー・・・私達って細かな制御ってどうやっているっけ?」

「リィナはいつも敵に向かって全力ですから、細かな制御していないのでは?」

「う・・・」

 レィナの言うとおり、リィナはそこまで細かな制御をしていない。

「でも私達の場合は自分自身のマナを操作しているから、細かな制御はやり易いと思います」

 レィナが自分達を分析した。

「確かにな。私はマナを制御できるわけではない。この剣に宿るノームの力が私に合わせてくれているだけだからな」

 エストは剣を見ながら言った。

「それなら、剣に頼んでみれば?」

「「・・・・・」」

 リィナの言葉にエストとレィナは少し固まってしまった。

「その剣、ノームの力が合わせてくれるってことは、意思があるんでしょ?」

「・・・確かに有りかもしれませんね。試しにやってみたらどうでしょうか?」

「わ、わかった」

 エストは再び剣を構える。

「さっきより弱めで頼むぞ」

 エストはそう言って、剣を地面に突き刺し破壊し、切り上げて破壊した地面の瓦礫を前方に飛ばす。

「・・・確かにさっきと同じ力でやってみたが、威力が弱くなっているな」

 さっきと比べて、破壊した地面の広さも半分くらいになっていた。

「だが、いちいち言うとなると少し大変だな」

「そこはやはり一緒に過ごしてエストさん自身をその剣に知ってもらう必要がありますね」

「そうだな」

 エストの方も自分がやるべき方向性が見えてきたのだった。

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