第92話 屋敷でおもてなし
「お帰りなさいませ」
シオン達がエストとエリーを引き連れて屋敷に戻ると、セレンが出迎えてくれた。
「あれ?人少なくなった?」
出迎えの人もそうだが以前のように大勢のメイドと執事はいなくなっていた。
「父上に訴えておいたからね」
「流石にあの人数は多過ぎますからね」
どうやらリィナとレィナがアルバルトに人数を減らすよう言っていたそうだ。
「そちらの方々は?」
セレンがエストとエリーを見て聞いてきた。
「えっとこちらが・・・」
シオンは紹介しようとしたが、王族ということは隠したほうがいいのか迷い詰まってしまう。
「私はエストといいます。こっちが妹のエリーです」
シオンが迷っているとエストが自ら紹介をした。
どうやら王族というのは隠す方向らしい。
ここで騒ぎを起こすのもどうかと思うので、シオン達も隠す方向で話を合わせることにする。
「こちらのアルマブルクに向かう際にトラブルに合ってしまったところ、シオンさん達に助けて頂いたのです」
エストは経緯を軽く誤魔化して説明した。
「そうでしたか。それではお疲れでしょう。すぐにお部屋をご用意させて頂きますので、少々お持ちください」
セレンはそう言って奥の方へと歩いて行った。
「では、今お茶をご用意しますのでこちらへ」
そこに別のメイドが来て、食堂へと案内された。
シオン達もエストやエリーと一緒に食堂へ向かう。
「シオン様達もお茶飲みますか?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました」
シオンが答えると、メイドは厨房の方へと姿を消した。
「エスト達はこの後どうする?」
シオンが今後のことを聞く。
「できれば祖国を奪還したいが・・・難しいだろうな」
エストが頭を悩ませる。
「でも契約すれば戦えるようになるってノームは言っていたよね」
リィナは城で聞いた話を思い出す。
城ではキス云々でうやむやになったが根本はそのことだった。
「でも・・・キスですか・・・」
レィナはシオンの顔を頬を赤らめながら見つめる。
「口同士は流石に・・・」
「あの・・・ごめん・・なさい」
そのことを悪く思ったのかエリーが謝ってきた。
「エリーちゃんは気にしないでいいんですよ」
「他に契約する方法とかないのかな?」
レィナとリィナは契約について話し始めた。
「ノームは他に方法とか知らないのが」
シオンがノームに聞く。
(前に契約した時は・・・)
「お飲み物をお持ちしました」
ノームが話そうとした時、ちょうどメイドが紅茶を持って来た。
「どうぞ」
メイドは客であるエストとエリーから配り始める。
「お部屋の方ももう少しで用意できますのでもう少々お待ち下さい」
「ありがとうございます」
エストがお礼を言う中、エリーはエストの後ろに隠れながら頭を下げていた。
シオン達となら多少話せるようになったが初対面はまだ話せないようだ。
「さっきの話は部屋に行った後でいいかな?」
(わかった)
ノームはシオンの言葉に頷いた。
その後、紅茶を飲みながら談笑していると、セレンがやって来て、客室に案内をした。
シオン達もまだ話すことがあるので、エスト達の部屋に付いていく。
「結構いい部屋だな」
「御兄妹と聞いたので同室を用意してのですが、宜しいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。な、エリー」
こくこく
エリーは頷いて肯定する。
「それでは私はこれで失礼します」
セレンはそういった退室していった。
「まだこの屋敷も新しい方ですからね」
シオンがこの屋敷について軽く説明する。
「なんというか、凄いな」
「凄い・・です」
自分の子供達が婚約し、旅に出ている間に屋敷をを建ててしまうアルバルトに多少呆れていた。
「私達のこと溺愛してるもんね」
「その節はありますね。私達の意見はよく聞いてくれますし」
リィナとレィナも自分達で気付くほどだ。
「たまに暴走するけどね」
「シオン君と婚約してから暴走頻度が上がったような気がします」
「ん?どういうことだ?」
エストが質問する。
「私達の父上はたまにやり過ぎるところがあるの」
「その一つがこの屋敷ですね」
「まあ、シオン君と引き合わせてくれたことは嬉しいけど」
「父上がいなかったらシオン君と会えていませんでしたね」
リィナとレィナはぶつぶつとアルバルトと所業について話していた。
「ノーム、さっきのことだけど」
シオンは話に入らず、再度ノームに聞く。
(うん、前に契約した時は契約者を通じて巫女様のマナが流れてくる感じだった)
「うーん・・・普通、精霊と契約すると、その精霊の性質やマナを契約者が使えるようになる。で、精霊の方は契約者からのマナを糧にする。だったよね」
シオンが知っている精霊との契約について聞いた。
(そうだよ。たぶんだけど、巫女様は精霊に近いと考えていいかもしれない)
「・・・そういうことか。それなら巫女のマナを契約者が使えるようになって、契約者を通じて精霊にも影響を与えるってことか」
シオンはノームとの話でそう解釈した。
「それだと、精霊との契約に必要なのは魂の接続と言われている。それは精霊が霊体化できるから可能なこと。人間同士だと・・・お互いを深く知るということになるのかな」
(詳しくは僕もわからないよ。でも、シオンの言う通りかもしれないね)
「それがなぜキスかは分からないけどね。それと一つ気になったことがあるんだ」
(ん?なに?)
「いや、契約するのはリィナとレィナ、つまり太陽の巫女と月の巫女の二人としないといけないのかな?」
シオンは精霊と複数契約することは本来ないことなので疑問に思ったのだ。
(違うよ。僕は地の精霊だから太陽の巫女様と契約出来ればいい)
「ええー!!なんで私!?」
いきなりリィナが会話に入ってきた。
(太陽は火と地、月は水と風に適性があるんだ)
ノームが新たな情報を教えてくれた。
「それならリィナ、して上げればいいじゃないですか。リィナはシオン君と一回キスしているわけですし」
「レィナ絶対あの時の根に持ってるよね!」
二人はまた言い合いを始めた。
「・・・繋がり・・か。それって太陽と月のマナの持ち主じゃないと出来ないことなのか?」
話を聞いていたエストは聞いてきた。
「いや、今の話だとシオンと契約は出来ないのかと考えてな」
「・・・ああ、僕のマナは他に染まるって話ですか」
「以前、瘴魔と戦う時はリィナとレィナがシオンにまぁ・・・そのあれをやってシオンも一時的とはいえ二人のマナに染まるわけだろう?その状態のシオンと契約すれば可能なのかと」
エストは考えを述べた。
「それだと常に僕のマナを二人のマナに染めなきゃいけないってことだから難しいんじゃないかな」
「そう・・だよな」
エストは少し肩を落とした。
(・・・シオン、君のマナは僕も見たことはない。それに・・これは)
「シオンの中にあるものでしょ?私も分からないんだよね」
ノームの呟きにフィーが口を挟んできた。
「フィーちゃん、シオン君の中にある物って?」
「そんなのあったっけ?」
シオンも疑問を持った。
「ほら、シオン、前にアルマポールトで目を覚ました時に話したことだよ」
「・・・・・・ああ!あれか!すっかり忘れていたよ」
「シオン君、何かあったんですか?」
あれはアルマポールトでシオンがクラーケンを撃退した後、シオンは一時的に生命の危機を迎えた。
それを助けるためにリィナが頑張ったのだが、目を覚ましたシオンの中にあるマナの一部に謎の何かがあるとフィーが教えてくれた物だ。
シオンも自分では気づかないぐらいの物で、特に支障も起こらなかったから放置していたのだ。
そのことを皆に説明する。
「そういうことは言ってください!」
「そうだよ!シオン君に何かあったら・・・」
リィナとレィナはシオンに問い詰める。
「ごめん、心配掛けないようにって黙っていたんだ」
シオンも二人に心配を掛けない様、気を付けた結果だった。
確かに何かあってからでは遅いので、二人の言い分は間違っていなかった。
「今は平気なんだよね?」
「変な感じとかはしないのですか?」
二人は心配して聞いてきた。
「うん、もしそうだったら先に言ってるよ」
「あの時から特に変わった感じもしないから大丈夫だよ」
フィーも時よりシオンのマナを気にするようにしていたのでそれは言えることだった。
(・・・まさか、でもそんなこと)
ノームの呟きは誰にも聞こえなかった。
その後、やはり解決策は出て来ず、この話はお開きになった。
夕食を食堂で食べ終え、シオンとエストは一緒に風呂に入っていた。
「こんな広い風呂もあるとはな」
「まぁ、贅沢ですよね」
普通は風呂は一人用の狭いものが一般的だ。
しかし、この屋敷はアルバルトの意向なのか、かなり大きい方の風呂だ。
数人で入っても余裕があるのだから。
「しかし、本当にシオン達には感謝してもしきれないな」
エストは再度お礼を言ってきた。
「1週間前は今みたいに過ごすとは考えてもいなかったからな」
食事に宿、風呂と逃げて来た者には贅沢な施しだった。
「シオン、私はお前達に付いて行きたい。剣なら心得はある。今はノームの力で地の精霊魔法なら少しは使える」
エストは真剣な眼差しでシオンにお願いをしてきた。
「そうするとエリーはどうするんです?エリーはまだ13歳ですよね?」
シオン達に付いてくるということは、魔人がいるバレス行くということだ。
そこにまだ幼いエリーを連れて行くのはどうかと考えた。
「エリーももちろん連れて行く。エリーにいてもらわないと私は精霊魔法をまだ上手く扱う自信がない。ノームも離れると制御が難しいといっていたらしいからな」
エストはそう言ってきた。
「大丈夫だ。エリーは私が全力で守る。だが、精霊魔法に長けているシオンにも一緒に守ってほしい。頼めないだろうか」
相手は瘴魔に魔人だ。
エストは剣に長けているだけでは守り切れるか自信がなかったのだ。
「・・・・・・わかりました。でもまだ少し時間はあります。エリーもですが一緒に精霊魔法の練習しましょう」
シオンは自分のことを好いてくれている女の子を見殺しになんて出来ない。
それに友人になったエストにも死んでほしくはない。
シオンにとって当たり前の考えだった。
「ありがとう。本当に私は良い友を持ったよ」
エストは深々と頭を下げた。
「これからもよろしく頼む。シオン」
「こちらこそよろしく。エスト」
こうしてシオンとエストは絆を深めるのだった。
同時刻頃、別の場所では
「うぅ・・どこのお部屋だっけ?」
涙目でエリーは一人虚しく呟いた。
エリーは屋敷内で絶賛迷子中だった。
エリーはリィナの部屋でリィナとレィナと三人でお話をしていた。
しかし、トイレに行きたくなったエリーは少し席を外した。
その際にトイレの場所は教えてもらい、ドアにトイレと表示があったので無事にたどり着くことができた。
事が済んだ後、トイレから出てみると他の部屋には表示がなく、自分がどこの部屋から来たのかが分からなくなってしまったのだ。
「あ!」
エリーは咄嗟に柱の陰に隠れた。
一つのドアからメイドの人が出てきたのだ。
普通なら訊ねればいいのだが、人見知りのエリーにはそれが出来なかった。
暫くすると、メイドはまた別の部屋へと入っていった。
「うぅ・・・兄様」
「シオン、お前は剣も使うのだろう?」
「兄様の声!」
兄を呼んだ際に小さくだが兄の声がどこからか聞こえた。
エリーはその声が聞こえた方へ走り、その勢いのままドアを開けた。
「やはりその鍛え方・・・」
「・・・あまり人の身体見ないでほしいんだけど」
風呂から上がり、身体をタオルで拭いていると、エストがそう言ってきた。
「シオン、お前は剣も使うのだろう?」
「・・・なんでわかる」
「それは私も剣で身体を鍛えたからな。見れば何となくはわかる」
シオンはそれでわかるのもすごいと内心驚いていた。その時
バン!!
突如、廊下へ通じるドアが勢いよく開いた。
「兄様!!」
そして涙目のエリーが駆け込むように入ってきた。
「む、エリーどうした?」
「あの!部屋に・・・あれ?」
説明しようとしたが、途中で言葉が切れてしまう。
「あれ?・・・シオン・・さま?はだ・・・か?」
シオンもエストも風呂から上がったばっかりで、今服を着始めたばっかりだった。
肝心の所はすでに隠れてはいるが、上半身はまだ裸だった。
エリーはもの凄い速さで首から上が真っ赤に染まった。そして
「・・・きゅうぅ」
バタン
「「・・・・・・エ!エリー!!」」
シオンとエストは突然倒れたエリーに駆け寄った。
「くっ!シオンの裸が刺激が強すぎたのか!」
「え!僕の所為!?」
二人は急いで服を着て、エリーを貸し与えた客室まで運んだ。
「ねぇ、なんで僕が運ぶことになってるの?」
「もし目が覚めた時、そのほうがエリーが喜ぶからだ」
エストはシオンが良い奴とすでに認めて、アルバルトにお願いをするぐらいだ。
できる限りエリーのことはシオンに任せようと決めていた。
「ん・・うん?ここは・・・」
小一時間程でエリーはベッドの上で目を覚ました。
「大丈夫?エリー」
ベッドの横にシオンが椅子に座ってエリーに声を掛けた。
「シシシシオン様!?」
エリーはシオンの裸を思い出し、すぐに顔を真っ赤にさせてしまう。
「ちょっと!落ち着いて!」
シオンはまた倒れないかと心配して落ち着かせるように言った。
「エリーちゃん!」
「目を覚ましたんですね」
声が聞こえたのだろう。リィナとレィナが近くにやってきた。
エリーを部屋まで運んだ後、エリーを探して二人はこの部屋にやってきたのだ。
「エリー、気分はどうだ?」
シオンとは反対側に座っていたエストが聞いてきた。
「兄様・・・、大丈夫です」
エリーは目を閉じて自分の体の調子を確かめて答えた。
「そうか。それならよかった。あ、因みにここまでシオンが運んでくれたぞ」
「えっ!?」
「「ずるい!!」」
エリーはまたもや顔を赤らめ、リィナとレィナは非難した。
「「シオン君!!」」
そして、リィナとレィナはシオンを両サイドからホールドして何かいろいろ言ってくる。
「・・・エスト、余計なことは言わないでくれ」
「・・・なんか・・すまん」
エストもリィナとレィナがここまで過剰に反応するとは考えていなかった。
そして、賑やかな夜は更けていくのだった。




