第89話 王都への道中で 2
シオン達は行商人の馬車に揺られ、川の手前までやって来ていた。
「橋が壊れてるだと」
「あ」
行商人の言葉にシオンは思い出したように声を出した。
「そういえば壊れたままだったね」
「向こう側に誰かいません?」
いつの間にか外に出てきていたリィナとレィナが話しかけてきた。
「向こう側?」
シオンは川の対岸を見てみると騎士らしき二人組の人が見えた。
どうやら壊れた橋を見て話し合っているようだ。
「あれってカイルさんとユーグスさんじゃない?」
「あ!ほんとだ」
「知っている騎士で良かったですね」
「おーい!」
そんなこんな話している内にリィナが対岸に向かって、手を振り声を上げていた。
対岸では
「ん?なんか声が聞こえなかったか?」
「そうか?」
ユーグスが何か聞こえたとカイルに尋ねたが、カイルは特に聞こえていなかったらしい。
ユーグスは周りを見渡し、対岸を見ると人を見つけた。
「ほら、やっぱりって・・・えぇ!?」
「おい、どうし・・た」
突然ユーグスが驚いたのでカイルもそちらを見ると絶句してしまった。
何故なら、自分達が仕える国の双子の王女達が対岸にいるのだから。
「え!?リィナ様!レィナ様!」
「何故そちらに!?」
二人は瞠目して驚いていた。
そして、わたわたと慌て始めた。
再び対岸へ
「あ!気付いてくれたみたい」
「それだけ大きな声を出せば聞こえますよ」
「二人ともかなり驚いてるね」
シオン達はユーグスとカイルとは違い落ち着いたものだった。
そんなやり取りを馬車の辺りで行商人とエストとエリーは見ていた。
「あの方達はいったい・・・」
騎士が対岸で様付けで呼んでいるのが耳に入り、行商人は呆気に取られていた。
「ぽー・・・」
「・・・エリー」
「・・・・・・はぁ」
「エリー!」
「ひゃい!」
エストが何回かエリーを名前で呼んでも反応がなかったので、少し語尾を強めて呼んでやっと反応を返した。
「な、なんでしょうか?兄様」
エリーは珍しくパタパタと慌てながらエストに返事をする。
「いや、ずっとシオン達の方を見てぼーっとしていたからな」
「そ、そうでしょうか・・・」
エリーはしゅんとしてしまう。
「いや、悪いわけではないが、お前にしては珍しく他人に興味があるのだなと思ってな」
「そ、それは・・・その・・・」
「シオンか?」
「へ?・・・ええ!?」
いきなりシオンの名前がエストの口から出てきて驚いてしまった。
「そんな滅相もない!シオン様にはリィナさんとレィナさんが!?」
エリーは珍しいくらいの大きな声で否定する。
「シオン・・・様か」
「え?・・いや!?その・・・・」
エリーは顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。
「私がアルバルト陛下に掛け合ってみようか?お前をシオンの婚約者にと」
「・・・婚約者」
何を想像したのかエリーの心はここにあらずの状態になってしまった。
「・・・結構重症だな。まったく、シオンの奴は人の妹の心を早くも掴むとは」
エストはシオンに対して良い評価を持っていた。
エストは感ではリィナとレィナが王族、シオンは違うだろうがその王族と婚約を二人としていると考えていた。
その中にエリーも加えてもらえないかと考えていた。
(私どうしちゃったんだろう?)
エリーはエリーで初めての恋心に戸惑っていた。
エリーは幼少のころから人見知りで、特に家族以外の異性とはあまり関わりを持たなかった。
何せ王族だというだけでその地位を狙った将来の婚約を結ぼうとする輩ばっかりだったのだから。
そんな輩では恋も何もなかったのだ。
シオンには自分が王族とは伝えていない。
ただ、ノームと契約しているだけで、普通の女の子として見ているはずと考えていた。
最初は男の人というだけで緊張して話すことも難しかったが、先程からはいっぱいおしゃべりをしたいと考えるようになっていた。
(シオン様・・・。優しかったしかっこよかったなー)
エリーは道中でマナの暴走した時に助けてくれたことを思い出していた。
エリーは今はそう考えるだけで幸せだった。
「取り敢えず仮の橋を架けて向こうに渡ろうか」
「え!?橋を架けるですか?」
シオンの言葉に行商人はまたしても驚いていた。
川は橋が壊れている場所で水の流れが複雑になり、うねりを上げていた。
そこにシオンが精霊魔法で地面を操って橋の応急処置をしても人が渡る強度は危ないと考えた。
それなら地面を隆起させて一時的に足場を作ろうと考える。
それだと一つの問題が浮上する。
「レィナ、川の水を一時的に止められる?」
水の流れをどうにかしないとすぐに崩れてしまうということだ。その作業をレィナに頼んでみる。
「んー・・・10秒とちょっとなら出来るかと」
川の水は常に流れて来ている。
それを塞き止めるのはかなりの重労働となるはずだ。
10秒もそれを出来るのはすごいことなのだが、レィナは平然と答える。
「行商人さんは僕が合図を出したら馬車で一気に駆け抜けてください」
「わ、わかった」
行商人はシオンの言うことを守ろうと気合を入れた。
「レィナのタイミングで初めていいよ」
「わかりました」
「レィナ、私も水を蒸発させて少し水を減らすね」
「リィナ、お願い」
そう言って位置に付いた3人。
「いきます!」
レィナが声を出し合図を出す。
すると水がある場所でいきなり流れを止めて高く壁の様に積み上がっていく。
「はっ!」
シオンは水が少なくなったタイミングで地面を隆起させて川が流れていた場所に道を作る。
「今です!」
シオンそう言って、行商人が馬車を慌てて走り出させる。
馬車の荷台からエリーが対岸にシオンを残していくことに多少の不安を募らせて見ていた。
馬車が渡り切るのにちょうど10秒程だった。
「シオン君!限界です!!」
「わかった!もういいよ!」
シオンがそう言うと今まで止めていた水が一気に壁が崩れるように流れ出す。
シオン達も岸からすぐに離れて安全な位置に移動する。
シオンが作った橋は一瞬で流されて行ってしまう。
「・・・ちょっとまずいかな」
シオンはあまりの水の量を見てこの川の下流にある村や町が心配になった。
あのまま行けば、恐らく川沿いにそれなりの被害が出てしまう。
シオンは一気に加速して川の流れを追い越し、流れている川の水の先端に風の精霊魔法を炸裂させた。
水は一気に散り散りになるように吹き飛び、周辺を水浸しにした。
川の水は少しまだ多いが、被害が出ない量にはなっていた。
シオンが橋の所に戻ると
「シオン君、無茶し過ぎ」
「あの川の水の前に出て何をするのかと思いました」
二人は少し心配していたようだが、川の水を考えてのことだとわかりすぐに許してくれた。
「おーい!お前さん達!」
対岸で行商人が呼ぶ声が聞こえた。
「じゃあ、いこうか」
「うん」「はい」
3人はいつかのように水上滑走ですんなりと対岸に渡る。
「ユーグスさんとカイルさん、お久しぶりです」
「あ、はい。シオン殿、お久しぶりです」
「今のはいったい」
このユーグスとカイルはシオンの故郷である精霊の里に来た時のアルバルトとリィナとレィナの護衛で付いてきていた騎士で、一応王家の遠縁にあたる騎士の二人だ。
二人はシオン達が水上滑走で渡って来たことに驚いていた。
驚いているのはユーグスとカイルだけではなかった。
「今のは凄いな」
「すごい・・・です」
エストとエリーも水上滑走には驚きを見せていた。
「そ、それよりリィナ様、レィナ様。どうしてこちらに?」
「バレスへと向かったと聞いていましたが」
騎士の二人はその情報は知っていたようだ。
「あの山の中でバレス国から逃げて来たこのお二人を保護しました」
「なんかバレスが大変な事になってて・・・えっと・・」
「魔人絡みで何かあったそうです。ただすぐに向かってもある結界で外からも干渉は難しいとのことで、お二人の静養も兼ねて一度王都へ戻ろうかと」
レィナの説明はともかく、リィナは途中で分からなくなってしまった。
それをシオンが引き継ぐ形で説明する。
ユーグスとカイルはエストとエリーを見る。
確かに外套のローブを着ているのでわかりづらいが、ローブの下の服はボロボロになっているのがわかった。
「そういうことでしたか」
「それではここからは私達が護衛を引き受けますので、お休みになってて下さい」
「わかりました。よろしくお願いします」
二人は中型の魔物ならば討伐出来るので特に問題はないと判断した。
それに、何かあったらすぐに救援すれば問題はないだろう。
ここからはシオンも荷台の方で休むことにした。
ユーグスとカイルは馬で来ていたので馬車の左右に付き、警戒しながら王都へと進みだした。
「確かにちょっと狭いね」
荷台には荷物が大半の面積を占めているので、人が座れるスペースは多くはなかった。
「そうだね」
「ですね」
リィナとレィナはそれをいいことに、シオンにいつも以上に密着していた。
「でも、くっつきすぎじゃない?」
シオンの両腕は左右からホールドされ、柔らかな感触が馬車の揺れと共に常に意識せざる状態だ。
「いいのいいの」
「最近はあまりくっついていなかったですから」
確かにキス程ではないが、くっついて密着していればシオンのマナは二人のマナに染まる。
多少の戦闘には耐えれるぐらいだ。
ただ、その場所には三人だけではない。
向かいにはエストとエリー、エリーの頭にはノームが、荷物の上にはフィーが座ってこちらを見ていた。
「むー・・・」
特にエリーはシオンに好意を寄せているので、目の前でイチャイチャされることに、苛立ちを感じていた。
「エリーも甘えてくれぱいいじゃないか」
エストはエリーにそう勧める。
「・・・え!?」
途端にエリーは顔を真っ赤にする。
「でもあの・・・その・・・」
「ほら」
何かを言おうとしていたが、シオンの目の前に立たされてしまった。
「えっと・・・」
シオン達が座っている目の前にいきなりエリーが来たのでシオンも戸惑っていた。
「あの・・・シオン・・様」
「様は付けなくてもいいけど・・・」
「えと・・・はい・・・」
エリーは何か言わないといけないと思いつつも、何も言葉が出てこなかった。その時
ガタン!
「きゃ」
馬車が少し大きく揺れてエリーがバランスを崩してしまう。
「おっと」
エリーはシオンの方に倒れてきたため、シオンが正面から抱き止める形になった。
「大丈夫?」
「はい、だいじょう・・・え?シオン・・さま?」
すぐ目の前にシオンの顔があったので思考が付いてきていなかった。
「えっと・・・」
そこで初めて自分がシオンに抱き止められていることに気付き、顔を更に赤くしていく。
パタ
エリーには刺激が強すぎたのか、そのまま気絶をしてしまった。
「え!エリー!?」
「「エリーちゃん!?」」
隣で見ていたリィナとレィナもいきなり倒れたエリーを心配する。
「む、少し刺激が強すぎたか」
エストはそんなエリーを冷静に観察していた。
その後、暫くしたらエリーは目を覚まし、シオンに膝枕されていた事実を聞き、凄い勢いで謝ってきていた。
幸いにも魔物は数回しか会わず、騎士のユーグスとカイルで事が足りた。
シオン達は1日だけ途中の宿場町で過ごした後、無事に王都アルマブルクまで辿り着くことが出来たのだった。
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「ん?・・・ここは」
海岸に打ち上げられた小舟の中で少女が目を覚ました。
陽は高く、少し汗ばむぐらいの陽気だ。
「確か・・・島流しにあって・・・あらし?・・・っ!?」
少女は飛び起きて自らの身体を確認する。
着物のような服はあちらこちらが破けて肌を晒していたが、擦り傷程度で大きな傷等はなかった。
「助かった・・・の?」
少女はある大陸の村でとある理由で島流しにあった。
海を漂流していた時に嵐に会い、小舟が壊されそうになりながらも、しがみついてただただ助かるように祈っていただけだった。
「とにかく人里を探さなきゃ」
そう言って少女は砂浜に脚を下ろし、歩き出す。
「なんであたしがこんな目に会っているんだろう」
自らの手を見ると青白い火の粉が舞っているのがわかった。
少し赤く見える髪をしたショートカットヘアをした少女、アカネは村での出来事を思い出していた。




