第85話 引き合う者達 1
「ここが山の前にある最後の村か」
シオン達は山の麓の村に到着していた。
入り口辺りには何台か馬車が置いてあった。
恐らく王都への荷物運搬用だろう。
あれから魔人の襲撃もなく無事にここまで来れた。
まぁ、魔物とは何回か遭遇したが、シオン達の実力に敵う魔物は出てこなかった。
「今日はここの村で休みましょうか」
そろそろ陽が暮れてくる頃合いなので、レィナが提案をしてきた。
「そうだね。どこかに休める場所はあるのかな?」
辺りを見渡すと
「ねぇ、あれ宿屋じゃないかな」
リィナが指差した方を見ると、確かに宿屋があった。
「山の麓だから宿屋があるのか?」
村というと大体が農村であることが多いため、宿屋が無いことが多いのだ。
逆に交通の要や少し大きくなって町になると宿屋が作られていることが多い。
この村はアルマブルクの国の東端にある山の麓の村だ。
山を越える人はそんなに多くはないと聞いていたのだが
「あ!宿屋から人が出てきたよ」
リィナが宿屋から人が出てきたのを確認する。
冒険者らしき格好の人だった。
「もしかすると山を越える人ではなくて、この周辺の依頼を引き受けた冒険者が泊まる宿なのではないでしょうか?」
レィナがそう考えて述べた。
「その通りだよ」
「「「え?」」」
後ろを振り返ると気前の良さそうなおばさんが立っていた。
「あんた達若いのに冒険者かい?ウチに泊まっていくかい?」
おばさんはシオン達を見るに宿屋に誘ってきた。
「えっと・・・あなたは?」
シオンが質問すると
「ああ、言ってなかったね。あたしはそこの宿の女将さ。同じ部屋で良ければ1部屋空いてるがどうする?」
「それならお願いしてもいいでしょうか?」
「あいよ。それじゃ、案内するね」
そう言って宿屋の女将はシオン達を連れて宿屋に入った。
「ベッドは2つしかないけど大丈夫かい?」
「くっつけて三人で寝るから」
「大丈夫です」
女将の質問にリィナとレィナが答える。
「まぁまぁ、若いっていいねぇ」
女将は笑いながら部屋へと案内した。
「食事は言ってもらえれば有料で作るよ。でも風呂はないから、水浴び場で身体とかは洗ってくれ」
そう言って女将は出て行った。
「なんか元気な人だね」
「あの人、裏表なかったよ」
シオンの言葉にフィーが付け足した。
フィーが言うには、思っていることと、話していることが一緒らしい。
「真っ直ぐな人なんですね」
「だね。食事はどうする?」
「この村にせっかく来たんだから、ここで食べてみようよ」
せっかくで夕食はここで食べることにした。
「やはり野菜とか新鮮だから美味しいですね」
「うん、肉とかもあまり見ない種類だけど」
「ああ、その肉は山の方にしかいない鳥の肉だからね」
レィナとシオンが話していると、女将が次の料理を持って来ながら説明する。
「野菜もウチの裏の畑で取れたものだからねぇ」
「それは美味しいはずだよ」
リィナも美味しい理由に納得しながら食べている。
フィーは他の人に見つからないように姿を消しながら、シオンから少しずつ料理を分けて貰っていた。
「それにしてもあんた達若いねぇ。冒険者だろう?成人したてかい?」
基本的に冒険者になるには成人、つまり18歳からなので、シオン達の見た目の若さから女将はそう解釈した。
「いえ、冒険者ではありますが、僕達は全員16歳ですよ」
「そうなのかい!?」
シオンがそう言うと女将は凄く驚いていた。
「そういえば、王都から来た他の冒険者が若いのが特例で冒険者になったって聞いたことがあるけど・・・まさかあんた達かい?」
「恐らくはそうだと思います」
シオンも自分達と同じぐらいの年齢で冒険者になった人の噂は聞いたことがないのでそうだと考えた。
「まぁ、せっかくここまで来たのだからゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます」
夕食後もゆっくりと過ごし、次の日に備えるのであった。
翌日、シオンが目を覚ますと、珍しいことにリィナとレィナが先に目を覚ましていた。
二人はシオンの寝顔を覗き込んでいたらしく、前屈みの状態だったので、シオンは二人の顔と一緒に寝間着の緩やかな胸元から溢れる胸も視界に飛び込んできた。
「おはよう」「おはようございます」
二人はそれに気が付くことなく、朝の挨拶をしてくる。
「おはよう」
シオンも見なかったことにして二人に挨拶をする。
「今日は二人とも早いんだね」
「うん、なんか目が覚めちゃったの」
「なんかに呼ばれた気がしたのですけど・・・」
「私もしたけど・・・たぶん夢じゃないかな」
二人は首を傾げながら話す。
「二人は巫女の力があるから何かと共感とか共鳴したのかもね」
シオンは二人の話を聞いてなんとなくそう思った。
「もしそうだとしたら何に呼ばれたのかな?」
「私は呼ばれたというより・・・。いえ、何でもないです」
レィナは何か思ったかはわからないが、そこで言葉を切ってしまった。
(呼ばれた・・・というより助けを呼ばれたような気がしたのですが・・・)
レィナは少し不安な気持ちを隠しながらいつも通りに振る舞うのだった。
「・・・・・・」
そんなレィナをフィーは少し寂しそうに見ていた。
(後でシオンには伝えておこうかな)
フィーはレィナの不安な気持ちだけでも伝えておこうと決めた。
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(今、少しだけ何かと繋がったような気がしたけど)
精霊ノームは後ろにいるエルネストとエスカリーテを見ながら思った。
二人はまだ眠っている。
だが、突然の長旅で疲れが濃く出ているのが、ノームでもわかった。
(繋がりが持てたということは現世の巫女様が近くにいるのかな?)
ノームはかつての魔人との戦いで太陽と月の巫女と繋がりを持ったことがあった。
さっきの感覚は以前の巫女と繋がった時と似ていた感じがしたのだ。
(思ったより早く巫女様には会えそうだな)
ノームはそう考えてから、そろそろ二人を起こそうと動くことにした。
(っ!?)
そこへ魔物の気配が近付いて来るのを察知する。
(エリー!!起きて!!)
「う・・・ん?」
(エリー!!魔物が近くに来てる!!)
「え!?魔物!?」
エスカリーテは魔物という言葉を聞き、飛び起きた。
「兄様!起きて!!」
エスカリーテは隣にいるエルネストを急いで起こした。
「ん?エリー?どうかしたか?」
「魔物が近くに来たって」
「なんだと!?」
エルネストは直ぐに剣を手に取り警戒態勢を取る。
「どっちだ!?」
「ねぇ、どっち?」
エスカリーテはノームに聞く。
(山の上の方から来ている感じがする)
ノームは地面に響く足音で大体の場所を把握した。
(このままだとあと数分でこっちの方に来るかもしれない。大型の魔物だから逃げた方がいいかも)
「兄様、数分でここの辺りに大型の魔物が来るって」
「大型だとまずいな。急いでこのまま山を下りて行こう」
「うん」
二人は魔物から逃げるために山を急いで下り始めた。
(さっきの繋がりで助けを呼べれば・・・)
ノームはエスカリーテの肩の上に乗りながら、繋がった時の感覚を頼りに助けを呼び続けた。
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「お世話になりました」
「もっとゆっくりしていってもいいんだよ?」
シオン達は朝食をもらって休憩したらそのまま山へと入るつもりだった。
宿屋の女将は山を超えようとしているのを知らないので、ゆっくりしていけばいいと止めようとしていた。
「いえ、やらなければならないことがありますので」
「そうかい?頑張るんだよ」
「はい、ありがとうございました」
「「お世話になりました」」
シオンに続きリィナとレィナも挨拶をした。
そして、シオン達は村を出て山へ向かって歩き始める。
「道という道はないんだね」
「そうみたいですね。この国の境目の山は強い魔物や動物が多いみたいですから」
「後、山が高い分、天気の変化も大きいみたいだよ」
リィナの言葉にレィナとシオンが説明する。
「・・・リィナ。シオン君の方が学園での勉強は覚えているようですよ?」
「ちゃんと聞いてはいたよ。ただ覚えていないだけで・・・」
「それでは駄目じゃないですか」
「あはは・・・」
二人のやり取りにシオンは乾いた笑いしか出なかった。
リィナは少し落ち込んでいるようだった。
「リィナ、そういう所があった方が可愛いから大丈夫だよ」
「ふぇっ!?」
シオンはそんなリィナを元気づけるために頭をぽんと撫でながら言ってあげると、リィナは一気に赤面した。
「リィナだけずるいです!」
レィナもシオンに可愛いと言ってほしいのか、頭を撫でてほしいのか、あるいは両方か分からないが、抗議の声を上げる。
「レィナも可愛いから大丈夫」
シオンはリィナと同じように頭も撫でてあげるが
「・・・なんか投げやりのように感じます」
今度はレィナがそんな感じで拗ねてしまった。
シオン達は山道をそうやって賑やかに登っていく。
「シオン!」
暫く歩いているとフィーが突然声を張り上げた。
「向こうに大型の魔物がいる!何か追いかけているみたい!」
「なんだって!?」
「行こう!」「行きましょう!」
シオン達はフィーが指し示した方向へと駆けだした。
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「くらえ!」
エルネストはノームの力を借りて、地面から石の槍を放つ。
『グガァー!!』
バキバキン!!
巨人の様な悪魔の魔物『サイクロプス』は魔人族が魔物になったものだ。
大きさは人の形でありながら3mはあり、武器として棍棒を持っている。
表には出していないが、この個体は瘴気も宿している。
そんなことも露知らず、エルネストはノームの力を借りて、精霊魔法で応戦する。
(ダメ!あれ瘴魔!!)
「あれが!?兄様!瘴魔です!!」
エスカリーテはエルネストの後方の方で事の成り行きを見守っていた。
ノームから瘴魔と聞き、慌ててエルネストに瘴魔だと言うことを伝える。
「なんだって!?」
二人は大型の魔物から逃げていたのだが、途中で追い付かれてしまい、エルネストが応戦することになった。
(エリー、僕達にあれは倒せない!逃げて!!)
「でも兄様が!!」
エスカリーテは前方で戦っているエルネストを見る。
どごん!!
「なんてバカ力だ」
エルネストはなんとか避けたものの、先程立っていた場所にはクレーターが出来ていた。
エルネストは攻撃を最小限にしてサイクロプスの攻撃を避け続け、逃げる隙を探す。
しかし、逃げようにもサイクロプスは逃げる隙を与えてくれなかった。
だから一つの決断をする。
「エリー!!お前は先に行け!!」
それはエスカリーテを先に行かせること。
今エルネストが逃げればエスカリーテを守りながら逃げることになる。
それはとてもじゃないが無理な話だった。
「っ兄様!!・・・やだよぅ」
エスカリーテは父親の最後の姿と今のエルネストの姿が重なったように見えた。
エスカリーテの目にはいつの間にか涙が溜まりつつあった。
「っく!」
エルネストは草に足を少し取られて、サイクロプスの攻撃を剣の上から貰ってしまう。
咄嗟に足を宙に浮かせてわざと飛ばされる。
そうすることで出来る限り衝撃を殺したのだが、腕は衝撃でかなり痺れており、剣を持ち上げることが出来なかった。
立ち上がることも身体に貯まった疲労とダメージで厳しくなっていた。
それをチャンスと見たようで、サイクロプスは持っている棍棒をエルネストに向かい振り下ろす。
(ここまでか)
エルネストはそう覚悟し目を閉じる。
しかし、死を知らせる衝撃はやってこなかった。
目を開けるとそこにはエスカリーテがノームの短剣を構えて、サイクロプスの一撃を受け止めている姿があった。
「エリー!?」
「うぅ・・兄様・・・逃げ・・て」
エスカリーテはノームの力を借りて、無意識の内に身体強化と大地の力を剣に込めてサイクロプスの一撃を受け止めていたのだ。
『ガアアァー!!』
サイクロプスは更に力を込める。
その瞬間、エルネストとエスカリーテは一緒に後ろの方まで飛ばされてしまう。
二人はもう立ち上がることも出来ずに踞っている。
身体も服もボロボロで立ち上がることも出来ない。
二人の前にサイクロプスが歩いてくる。
そして、止めとばかりに棍棒を大きく振りかぶる。
(間に合った!!)
「え?」
サイクロプスが棍棒を振りかぶった時に頭の中にノームの声が響く。
ドガン!!
サイクロプスが持っていた棍棒が突然爆発したのだ。
「はっ!」
そして、掛け声と共にサイクロプスに斬りかかる影が見えた。
サイクロプスは棍棒の残った柄でその攻撃を受け止めるが
『グガァア!?』
思ったより強い力だったのか、後ろに吹き飛ばされてしまう。
「大丈夫ですか!?」
サイクロプスを吹き飛ばした少年、シオンはエルネストとエスカリーテに話しかける。
「今傷を治しますね」
いつの間にかすぐ近くに美しく可愛い少女、レィナもいた。
そして、再びシオンの方に視線を向けると、すぐ近くにいる少女と瓜二つの少女、リィナがシオンの隣に立っていた。
「君でしょ?私達を呼んでいたのは」
リィナがエスカリーテにしか見えていなかった精霊ノームの方を向いてそう言うのだった。




