第80話 かつてのクラスメイトと 3
その日の夜、シオン達は皆で畑を訪れていた。
「暗いね」
「でも今日は月が出てますからまだ明るい方ですよ」
相手は魔物と思われる動物なので、明かりを持たずに畑に来ていた。人が来ていると逃げ出すかもしれないのだ。
「シンシア、魔法陣はどんな感じだ?」
「大丈夫そうです」
クロイスとシンシアは慎重な顔持ちで確認をしていた。
「俺は右側でいいんだよな?」
「うん。私は左側ですから」
お互いに壁を作る方向を確認し合っていた。
そんな光景を少し後ろに行った所からフレデリックとシオンとリィナ、レィナは見守っていた。
「うーん、あの大きさの魔法陣なら入るとは思うけど・・・」
フレデリックは魔法陣の大きさを見て呟いた。大きさは直径約3mほどの円だ。広大な畑にその魔法陣一つだと心持たない様に思える。
「そこは少しだけ手伝うつもりですから大丈夫ですよ」
シオンも同じ懸念を持っていた。だから、探知の精霊魔法で相手を補足したら精霊魔法で少し脅かして、魔法陣の方へと誘導するつもりだ。
「すまないな、シオン君」
「いえ」
シオンは苦笑しながらシンシアとクロイスの方を見守り続けた。
暫くして
「ん?」
シオンの探知に何かが引っかかった。
「シオン君」
「来ましたね」
リィナとレィナも探知を使っていたので気付いたようだ。
魔物の大きさも大体1mぐらいだと思うので例の魔物で間違いはないだろうとシオンは踏んだ。
「これだと進行方向が違うかな」
魔物は魔法陣が敷いてある方向と逆へと行きそうだったのだ。
シオンはこっそりと魔物の行く手を遮るように土を隆起させる。
すると魔物は驚いたように逆方向へと逃げ始めた。
シオンの精霊魔法にはシンシアもクロイスも気付いていないようだ。
「かかった!」
魔物が魔法陣の中に入るとシンシアはクロイスに合図を送り、詠唱を始める。
「よし!」
クロイスもシンシアに続き詠唱に入る。
「「アースウォール!!」」
二人の声が重なり魔法陣を囲うように5m四方の土壁が出現する。
魔物はちゃんと壁の内側へと入っているようだ。
「やったー!」
「やったな!」
シンシアとクロイスは手を叩き合い、成功を喜んでいた。
「ここからが本番ですよ」
そう言いながらフレデリックは二人に近付いて行った。
シオン達もそれに続く。
そう、ここから一部の土壁を壊し、中にいる魔物を討伐するまでが依頼内容だ。
「ちゃんと中に入っているようですね」
レィナは探知の魔法で中で魔物があちこちと動き回っているのが分かった。
「逃げ出そうとする前に叩かないとね」
リィナはシンシアとクロイスの二人に少し急がせるように言った。
魔物はいつ壁を壊しに来るのか分からないのだ。
他の出口が作られる前にこちらから作って誘導しなければならない。
「じゃあ、いくぞ」
クロイスは詠唱をして魔物がいる場所から遠い場所に土壁に亀裂を入れて、穴を空けた。
「ファイアショっ!!」
近くで控えてたシンシアも攻撃魔法の詠唱をして穴が空いた途端に覗き込み、魔物の位置を捕えると同時に魔法を解き放とうとした。
しかし、最後の最後で魔法は失敗し不発で終わってしまう。
魔法の代わりに出てきたのは
「いやーーーーーーーーーーーー!!!!」
シンシアの絶叫だった。
叫び声と共に穴から離れた。
「ぐっ!」
後ろに控えていたシオンに正面からぶつかり、シンシアがシオンに抱き付く体制になる。
「「何をしっ!」」
リィナとレィナがシンシアに非難をしようとしたが、二人の声は突然止まり、顔が蒼白になった。
「「いやーーーーーーーーーーーー!!!!」」
二人もシンシアと同じような悲鳴を上げてシオンの左右から抱き付いた。
「な!なに!?」
シオンは三人から抱き付かれて意味が分からない状態だった。
「シオン!そっち行ったぞ!!」
突如、クロイスから声が掛かる。
シオンは何とか首を動かし魔物の正体を確かめようとする。
幸いにも三人は背がそこまで高くないので、姿を捕えることが出来た。
「やっぱりか」
シオンは予想通りだったのでそんな感想が出た。
魔物の正体は巨大な灰色のネズミだったのだ。
「クソ!速い!!」
クロイスは魔法を放つがネズミの魔物に回避され続けていた。
暫く逃げ回っていたネズミの魔物はさすがに怒ったのか、ぢゅうぢゅうと野太い声で威嚇し始めた。
「へっ!そんな威嚇怖くねぇぜ!エアーハンマー!!」
クロイスは風の中級魔法のエアーハンマーを放った。
先程まで連続で放っていた初級魔法のファイアボールより詠唱に時間は掛かるが、風の魔法のため目視は難しく、範囲もファイアボールよりは広いので避けにくくなっている。
エアーハンマーはネズミの魔物に当たり、ふっ飛ばした。
魔物は地面を転がりながら体制を整えようとする。
「させねぇ!ファイアランス!!」
中級魔法にあたるファイアランス。上級魔法のクリムゾンランスの劣化版だ。
ファイアランスは立ち上がろうとしているネズミの魔物に当たろうとした瞬間。
『ぢゅーーーー!!!!』
同じ大きさぐらいのネズミの魔物が多数、そのやられていたネズミの魔物を庇った。
「うそだろ!!」
ネズミの魔物は暗闇からどんどん集まってくるのが分かった。
「「「あわわわわわ」」」
シオンに抱き付いた三人はその光景に顔を更に青くして怯えていた。
「さすがにあれは一人だとまずいな」
シオンは三人を安心するように背中や頭を撫でながら観察していた。
「シオン君!私も出よう!」
フレデリックはさすがにまずいと判断してクロイスの方へと向かおうとする。
「フレデリック先生!クロイスに下がるように伝えて一緒に戻って来てください!」
それをシオンは止めて、クロイスを連れて戻るように言った。
「シオン君!しかし!!」
「僕がやりますから」
「・・・わかった。頼む」
そう言ってフレデリックは直ぐにクロイスをシオンの近くまで連れてきた。
ネズミの魔物は怒っているらしく団体でシオン達を囲むようにしてぢゅうぢゅうと威嚇している。
「どうすんだ?シオン」
クロイスもさすがにこの数はまずいと思っているらしく、少し顔を青くしていた。
「こうして一掃するんだ!!」
シオンは以前未開の森の遺跡から逃げる際にリィナとレィナでやった雷の精霊魔法と同じように、周りに雷の波状攻撃を仕掛けた。
中心にいるシオン達を除いて、ネズミの魔物達だけを焼け焦がしていく。
雷は数秒で収まったが周りからはネズミの魔物が焦げた異臭が漂っていた。
「・・・・・・生きている魔物はいなそうですね」
シオンは探知の精霊魔法を使い、生き残りがいないか確認した。
「「・・・・・・・・・・・」」
フレデリックとクロイスはシオンの雷の魔法を見て唖然としていた。
因みにリィナ、レィナ、シンシアはシオンの体に顔を埋めて音とかも聞かないようにしているのか、じっとしている。
「ここまですごいのか」
「これは・・・」
やっと思考が戻ってきたのか二人はそんな呟きを漏らした。
「ほら、三人共。終わったよ」
シオンが呼びかけて三人はやっとのことで顔を上げた。そして、辺りを見回すと三人はそのままシオンへと体を預けるようにして気を失った。
「え!?なんで?」
「シオン、苦手なネズミの死体に囲まれてんだ。無理はないと思うぞ」
「あ」
クロイスに言われてシオンはそのことに初めて気付いた。
「取り敢えずここから離れようか」
フレデリックの言葉にシオンとクロイスは頷き、それぞれ一人ずつ抱えて小屋に戻った。
途中シンシアがクロイスに背負われていることに気付いてあわあわしていた。
だが、腰も抜けているということでそのまま背負われていった。
「いやー、あんなに数がいるとは思わなかったな」
リィナとレィナを寝かせて、床にシオン、フレデリック、シンシア、クロイスは座って話していた。
「クロイス、少しは静かにした方がいいぞ」
「でも今はこの小屋には俺ら以外いないだろ?」
クロイスの言う通り、この小屋の持ち主で依頼主のおじさんはシオン達に小屋を貸すため、友人の家で寝泊まりするそうだ。
「そうだが、そこに王女様二人が寝ているんだからな」
「そういえばそっか」
二人はショックで気絶しただけのようで、呼吸とかは落ち着いていた。
シオンが見た限り、マナの流れも問題は無さそうだった。
「それにしてもシオン君は強くなったな。いや、前からあのような魔法は使えていたのか?」
フレデリックはシオンとリィナ、レィナの模擬戦を過去に見ている。
あの時のシオンはバランスを考えて、精霊魔法ではなく、近接戦闘主体で戦っていたので、先程のような大きな精霊魔法は使っていなかったのだ。
「使おうと思えば使えるでしょうが、さっきの魔法は元々リィナとレィナが使った魔法を模倣してだけですから」
「え!リィナ様とレィナ様が?」
「はい、実は・・・」
シオンは隠さずに未開の森での二人の活躍を話した。
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「お二人がそこまで成長しているとは」
「去年までは俺らと大差なかったのにな」
「その精霊魔法というのはそんなに凄いのですね」
シオンの話を聞き終わった三人はそれぞれの感想を述べた。
「そろそろ眠たくなってきたから寝ようぜ」
「そうですね。リィナ様とレィナ様の方は女性で反対側に男性でいいですよね?」
「そうだな。それでいこう」
一同は男女で部屋の隅に別れて就寝することになった。
シオンは入り口に一番近い場所に毛布を敷き、眠りに就くのだった。
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「ちょっとずるいよ!」
「リィナだってしてるじゃないですか!」
なにやらごそごそとしている気がしてシオンは少しだけ意識が眠りから覚めた。
「それと静かにしないと起きちゃいます」
「わかってる」
暫くの間話し声が聞こえていたが、暖かな温もりがやって来ると共に、静かになった。
シオンはいつもの暖かな柔らかい感触に安心を覚えて、そのまま眠りに就いた。
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「リィナ様!レィナ様!」
翌日の朝、シンシアの二人を呼ぶ声で目が覚めた。
シオンは目を覚まし、起き上がろうとしたが、両側から抱き付くように眠っているリィナとレィナによって起き上がれなかった。
「えーと・・・シンシア。おはよう」
「・・・おはようございます。で?これはどういうことですか?」
シンシアは妙な気迫を放ちつつシオンに聞いた。
「おはよ・・う・・・」
「・・・これはいったい」
クロイスとフレデリックも起き、シオンが寝ている方を見て、妙な気迫を放っているシンシアに気付き、言葉を失った。
「これは・・・」
いつものことだからと、説明しようとしたが、言っていいものなのか分からなくなり、言葉が続かなかった。
「んー?シオン君?」
「どうしたんですかぁ?」
回りがうるさかったのか、リィナとレィナが目を覚ました。
「リィナ様、レィナ様。これはいったい何があったのですか?」
シンシアはシオンが二人を連れ込んだと認識しているようだ。
「いつもと同じ様に寝てただけだけど」
「ですね。シオン君が近くにいた方が安心出来ますので」
二人は当たり前のように言った。
「いつも・・・寝てた?」
「シオンのやつ、王女様に挟まれていつも寝ているのか」
「噂通りなのだな」
シンシアとクロイスはそれぞれの反応を示し、フレデリックは国王であるアルバルトから話を聞いていたのか納得していた。
その後、シンシアからの質問が続き、シオンを自慢するようにリィナとレィナは答えて言った。
本人が目の前にいるからそのようなことはやめて欲しいのだが、シオンはその場で居たたまれない気持ちになりながら、耐えていた。




