第79話 かつてのクラスメイトと 2
馬車に揺られてシオン、リィナ、レィナと、先生であるフレデリックにシオン達のかつてのクラスメイトのシンシア、クロイスの合計6人と姿を消してシオンの肩に乗っているフィーは王都から一時間ぐらいにある農村にきていた。村の住人が50人ほどの小さな村で広い畑をあちこちで耕しているのが見える。
「確かこっちの方に依頼者がいるはずだが・・・」
フレデリックは煙突が付いている家の方に向かって歩きながら呟いた。
「おお!君達がギルドからの冒険者か」
家に近付くと一人の農作業の途中でやってきたと思われるおじさんが話しかけてきた。
「はい、そうです。ギルドから依頼を受けてきました」
「遠いところすまないね。ところであんた以外はかなり若く見えるのだが」
おじさんはフレデリック以外の面子を見渡しながら言った。
「ええ、若いですが実力はあるのでご安心ください」
「そうかい。それならひとまず被害にあった畑まで案内するからついてきておくれ」
おじさんに付いていくと、作物が荒らされた畑が目の前に広がっていた。
「これは・・・」
「酷いですね・・・」
リィナとレィナは畑の惨状を見て呟いた。
「この畑は芋類を育てていたんだが、寝ている間に例の魔物に食い荒らされてしまったんだ。最初は動物かと思ったんだが、夜に見張りをしていて見つけたのは1m以上はある動物だったんだ。そいつはデカイわりにすばしっこくてな」
話を聞くと、その動物とやらは人に見つかったらそのまま逃げて行ったらしい。
「他の者に聞くとそいつは魔物に違いないと言い出したんで、ギルドに依頼したんだ」
「その魔物は夜行性なんですか?」
シンシアが率先して魔物の特徴を聞こうとする。
「昼間に見たことがないから、恐らくは夜行性だろうな」
「そして、動きが速かったと」
「そうだ。人間が普通に走って追いかけてもあれには追い付けん」
「なるほど・・・」
シンシアはどこからか取り出したメモ帳のような物に特徴を書いていた。
「いい傾向だ」
「フレデリックはそんなシンシアの様子を見て嬉しそうに笑った。
「聞く限りでは人には被害は出ていなそうですね」
隣にいたシオンはフレデリックに話しかけた。
「みたいだな。ただ夜行性となると灯りをどうするかだな」
「灯りを付けると魔物は近寄って来ないかもしれませんからね」
「じゃあさ、罠を張るってのはどう?」
話を聞いていたリィナが入ってきた。
「それぐらいのことなら村の誰かがやっているのでは?」
「普段使っている罠は壊されてしまったよ」
レィナの言葉に答えたのはいつの間にかこちらに来ていた農家のおじさんだ。
「何か体毛が硬いらしいです。これを見てください」
シンシアが見せてきたのは1本の動物の毛だった。
「なにこれ!」
「硬いですね」
リィナとレィナがその毛を手に持つと驚いて目を丸くしていた。
「ほら、シオン君」
リィナがシオンにその毛を渡してきた。
確かに普通の動物の毛にしてはかなり堅かった。だが、堅さの割にはしなやかさももっている。
「この毛って・・・」
「とりあえず魔法で罠を張ってみて夜を待つって形でいいんじゃねぇか?それで見張りをすると」
シオンの声を遮ってクロイスがそう結論を付けた。
「最初はそれでいってみましょう」
シンシアもクロイスの案に乗るようだ。今回の依頼はシンシアとクロイスが中心だ。シオン達が下手に関わらない方がいいだろうと思い、意見は言わないようにしていた。
「なにするかわからねぇが、疲れたらウチに来い。狭いが休むことぐらいなら出来るから」
おじさんが指を差した方向には家が建っていた。
「わかりました。ありがとうございます」
フレデリックがお礼を言うと、おじさんは他の畑の方へと歩いて行った。
「で、お前達はどんな罠を張るつもりなんだ?」
おじさんが行ったのを見送った後にフレデリックがシンシアとクロイスに聞いた。
「それは・・・ほら!あれだ!」
クロイスは罠と言ったものの何も思い付かなかったようだ。
「体毛が硬いと言うことは押さえたり挟んだりする罠では捕まえることは難しいと思います」
「そうだな」
「だから、そこに入ると囲うように地面を隆起させたりしようかと考えているのですが」
「いい案だと思う。だが、その罠を魔法で作れるのか?」
「・・・やってみます。ほら、クロイス君、行くよ」
「お、おう」
シンシアとクロイスは畑でまだ作物がある場所の方に歩いて行った。
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「あの二人、いいコンビなのかもね」
「それよりシオン君、さっき何か言いかけませんでしたか?」
「ん?ああ、あの毛だけど」
「リィナ様!レィナ様!ちょっといいですかー?」
シンシアが大きな声で二人を呼んだ。
「ちょっと行ってきますね」
「その話はまた後で聞くね」
二人はそう言ってシンシアとクロイスの方に歩いて行った。
「ねぇ、シオン。何か気になるの?」
フィーがシオンにだけ聞こえる声で肩に座ったまま話しかけてきた。
「うん。気になるというか・・・」
シオンは手元にある毛を見て、ある動物が思い浮かんだのだ。
その動物は
「あの二人が苦手だったような気がするんだよなー」
「ん?」
シオンが呟くような声で言った。
フィーは意味がわからなかったので首を傾げるだけだった。
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「それでどんな罠を作ったんだい?」
小一時間程で作業を終了し、家の前にある椅子や机にお茶を貰い、休憩をしていた。
「えーとですね。土壁で囲う罠にしました。ただ私やクロイス君の魔力で設置型の魔方陣だと、そこまでの力や時間が持たないので、踏んだらこちらに知らせるだけの魔方陣を敷きました。知らせが鳴ったらクロイス君と同時にアースウォールを使って閉じ込めてしまおうかと」
シンシアの言った魔方陣とは魔道具を作製する時の方法と酷似している部分がある。シオンが作る魔道具は精霊魔法を基本としているためイメージの焼き付けでしかない。
しかし、本来の魔法は詠唱を必要としているので、魔法と同じ効果をもたらす魔道具を作製する際には、詠唱を道具に焼き付ける形になる。
魔法陣とはこれを紋様にして道具に焼き付けないで、直接その場に設置することができることだ。
魔道具の違いと言えば離れた場所でも条件さえ揃えば、発動してくれるところだ。
ただし、それを維持するために魔力を消費し続けなければならない。
今回のように長い時間張らなければならない場合は出来るだけ簡単な魔法陣の構成が必要となったのだ。
因みに精霊魔法ではこの魔法陣と同じことをするのは難しい。
魔法陣は一度設置さえしてしまえば、魔力消費する以外は他の作業をしていても問題がない。だが、マナを直接操り続けなければならない精霊魔法はマナの操作をし続けなければならないからだ。
「なるほど。では今も魔力を消費しているということか」
「はい。ですが、この程度であれば明日の朝までは余裕で持ちます。それにクロイス君が魔力ポーションも用意してくれていたみたいなので」
魔力ポーションは名の通り魔力を回復させるものだ。
実はこれも精霊魔法を使う人たちにはあまり効果がない。
なぜなら使っているのは魔力ではなくマナだからだ。
魔力の大元はマナだが、魔力回復のポーションだと効果がそこまで現れないのだ。
「それならこのまま休憩しつつ夜になるのを待機するとしよう」
フレデリックはそう言うと家の中に入っていった。
「私達も少し休憩してますね」
「そうだな。夜は徹夜になるから少し寝ておくか」
シンシアとクロイスも家へと入っていった。
「私達も休む?」
「僕はちょっと作りたいものがあるからここで作業するよ」
「何を作るのですか?」
二人はシオンの作る物に興味が湧いたようだ。
「ちょっとこれを魔道具にしようと思ってね」
シオンは異空間袋からアルマポールトでフィーに買ってあげた小さな笛を取り出した。
「私の笛だ!」
フィーはシオンの肩から飛び、シオンの目の前にやってくる。
「これを魔道具にするのですか?」
「でもこれってイメージとか描き込めるの?」
「これは風竜の角を素材にしているから、この大きさでもそれなりに描き込めるはずだよ」
シオンはアルマポールトでの行商のお姉さんの話を思い出しながら説明する。
「ねぇねぇシオン。何が出来るようになるの?」
「その前に確認をフィーにしたいんだけど」
「何?」
「フィー達妖精族は大まかな感情がわかるよね?」
「うん」
「他に何かできることはあるのかな?」
「んーとね。妖精の種類とかで違うと思うんだけど、植物とかの自然の物とお話が出来たりするよ」
「え!そうなの!?」
「フィーちゃんも出来るのですか?」
リィナとレィナは驚いているようだ。シオンは前に別の妖精族からそんなことを聞いたなと思いだしていた。
「ううん、私はお話はしないよ。なんか私は感情とかを感じ取る力が大きすぎるみたいで、お話しなくても通じ合っちゃうから」
何気なくすごいことを言っているが本人は軽い感じで話している。
「実はフィーのその感情を感じ取る力を上手く使えないかって考えているんだけど」
「感情を感じ取る力を?」
「うん、例えばだけど幻術とかどうかな?感情が解れば、相手に怖いと思わせたり、もっと上手く使えればこっちの姿を認識できなくすることもできると思うけど」
「でもそんなイメージをシオン君は描き込めるの?」
「簡単な物なら出来るからね」
そう言って実験で使っている精霊石を取り出してマナを込める。
すると、何もない場所に花が一輪見え始めた。
「あれ?そこに花なんかあったっけ?」
「・・・もしかして幻術ですか?」
レィナはそう言って手を伸ばす。しかし、花は掴むことが出来なかった。
「まぁ、こんな感じの魔道具は出来るんだけど、僕のイメージだと人を魅了したりするものや、大きく感情を動かす幻は作れないんだ」
「フィーちゃんみたいに人の感情を感じ取る力と合わせて使うことで、相手の心を意図した通りに動かせるようになるってことですか」
聡明なレィナは直ぐにシオンの考えが分かったようだ。
「そういうこと。それにこれを使えばフィー自身の姿を魔物相手でも隠せるようになるから防衛的にもいいと思うんだ。どうかな?」
シオンは一通り説明をしてフィーの意見を聞く。
「うーん・・・これがあれば私もっとシオンの役に立てる?」
「使えるようになれば色々と助けにはなるかな」
「今みたいな花を出したりすればいいの?」
「それでもいいけど、相手の感情をこちらが有利になるように動かせたらって言ってわかるかな?」
「うーん、何となくは分かる」
「それなら作ってみようか。フィーのマナに呼応するようにするからこっちに来て」
「うん」
そう言ってフィーはシオンの手に小さな手を重ねる。
「フィー、少しくすぐったいかもしれないけど我慢してね」
シオンは一言かけてから自分のマナをフィーに流し、フィーのマナに染める。
「あははは!くすぐったいよ」
フィーは手を動かしてはいないが大きな声で笑っていた。
シオンは集中して染まったマナを使い笛にイメージを描き込む。
作業自体はほんの10数秒で終わった。
「もう出来たの?」
「うん、出来たよ。ほら」
シオンはそう言って笛を渡してあげる。
「わぁー!使ってみていい?」
フィーは目を輝かせながらシオンに聞いた。
「うん。いいけどあまり僕達には驚かせたりしない奴でお願いね」
「うん!」
そう言ってフィーは思いっきり息を吸い込み笛を吹いた。
するとシオン達がいる場所中心に花畑が広がっていった。
それはおとぎ話等で出てくる幻想的な花畑だった。
「え!?なんです?これ!?」
「すごいすごい!!」
「こんなに違うのか・・・」
レィナとリィナもすごく驚き、シオンは一輪の花を出すのがやっとだったのにと感嘆の声を出した。
「シオン!これすごいよ!」
フィーの人の感情に共鳴する力が凄いのだが、本人はシオンの作った笛が凄いと思っているようだ。
そして、1分もしないうちにその花畑は消えていった。原因は
「はぁはぁ・・・結構疲れるね」
最初は元気だったフィーも幻を見せ続けたことでマナをかなり消耗したようだ。
「これからはこんなに大きな幻を見せないようにした方がいいかもね。それだけで使うマナの量も抑えられるはずだから」
「うん・・・そうする」
そう言って笛を持ちながら座っていたシオンの膝の上に行き寝始めてしまった。
「ふふ、本当にすごかったね」
「ですね。使い方次第ではかなり役に立ちそうですね」
「僕もここまですごい幻を見せられるなんて思ってなかったよ」
そう言ってそのまま、その場所で4人は休むのであった。




