第75話 盗難事件
シオン達は早朝から騎士の詰所に来ていた。
「お早う御座います」
朝からハキハキとここの騎士隊長であるマーカスが挨拶をしていた。
「「「おはようございます」」」
シオン達もマーカスに挨拶を返す。
「マーカス隊長、他の騎士達はどこに?」
詰所にはマーカスしかいなかったのだ。
「他の者は大体は巡回に行っています。なので、私目が案内させて頂きます」
「では詰所にはどなたが残るのでしょうか?」
「上の階に休憩している者がいるのでご安心を」
「そうですか。それなら案内を宜しくお願いします」
今回はレィナが色々聞いているので、シオンは詰所の中を見渡していた。
中は大分整理がされているが、やはり窓際や入り口辺りは外から投げ込まれただろう石やゴミ等が散乱していた。
「では、案内致します」
マーカスの掛け声でシオン達は外へと出ていった。
--------------------------
「近い場所だとここです」
マーカスが最初に案内したのは、外で店を開いている市場のような通りだった。売っているものは野菜中心で卵や肉類も売っている。今は早朝なので店の人が世話しなく動いている。
「ここは毎朝こんな感じです」
「そうなんですね」
シオン達は見渡していたのでマーカスが説明をしてくれた。
「ここでは何が無くなったのですか?」
「ここでは・・・野菜類が1kgほどが籠ごと無くなったそうです。時間にして1分も離れていなかったと聞いています」
レィナがマーカスと話している間にシオンとリィナはフィーと話していた。妖精がいるとわかると色々と言われそうなので、黙っていることにしたのだ。なので、マナを見ることが出来るシオン達にしかフィーの姿は捉えられていない。
「フィー、どう?」
シオンがフィーに聞くとフィーは周りをキョロキョロと見渡し始めた。
「うーん・・・何か変な感じ」
「変?」
「うん。何かはいたような感じがするんだけど」
フィーもよくわからないそうだ。
「シオン君は何か気付いた?」
「僕は何もわからないな」
フィーもシオンもお手上げ状態だった。
「じゃあ次に行く?」
「そうだね」
この場ではこれ以上は何も得られないと判断し次に行くことにした。
「そういえば事件とは関係ないかもしれませんが、最近幽霊騒動も起きています」
「幽霊騒動って・・・その・・お化けが出るんですか?」
レィナが挙動不審になりながら聞いた。
「まあ、噂程度と考えて頂ければと」
マーカスもレィナの様子を見てそう言った。怖がっているのがわかったのだろう。
「レィナって幽霊とか駄目だっけ?」
「うん。昔から弱いね」
「精霊とか霊獣は平気なのに?」
「不思議だよね」
レィナとマーカスの後ろではシオンとリィナがそんなことを話していた。
「・・・・・ねぇ、シオン」
シオンの肩に座っていてフィーが耳元で話しかけてきた。
「なに?」
「あそこの建物・・・」
フィーが指を差した方向を見ると、古い大きな屋敷があった。
「マーカスさん、あの建物は?」
シオンは前を歩いているマーカスに問いかけた。
「あの屋敷は数年前まで商人の方が住んでいましたが、今は見ての通り廃屋となっています」
「ここは調査したことはあるのですか?」
「巡回の時に一応は中を覗いてはいますが、入ってはいません。誰かが入った形跡もありませんので」
「わかりました。ありがとうございます」
「もしかして何かお気付きになられましたか?」
突然屋敷のことを聞いてきたから気になったようだ。
「ええ、まぁ」
シオンはフィーが気になったと言えないので適当に誤魔化した。
「それなら中をご覧になりますか?」
マーカスは立ち寄っても構わないそうだ。
「それでは寄らせて頂いてもいいですか?」
「わかりました」
シオン達は古い屋敷の門を開け中に入って行った。
--------------------------
「ねぇねぇ、誰か入ってきたよ」
「ほんとだ」
「追い出す?」
シオン達が入った屋敷の中の影ではそんな会話がされていた。
「でもいつもの人はちがうみたいだよ」
「いたずらしちゃおっか!」
こうして声の主は消えていった。
--------------------------
「結構中もぼろぼろだね」
リィナが中の様子を見て呟いた。
フィーは中に入ってからキョロキョロと見渡していた。
「・・・・・・」
フィーに声を掛けようかと思ったシオンだが、すぐ近くにマーカスがいるため、フィーの様子を見守ることにした。
「シオン殿、何か見つけられましたか?」
マーカスは虚空を見ていたシオンに声をかけてきた。シオンはフィーを見ていたので、マーカスからは虚空を見ているように見えたのだろう。
『出ていけ』
「きゃーっ!」
謎の声が響くと同時にレィナがシオンに抱き付いてきた。
「これが幽霊ってやつか?」
シオンはレィナを抱き止めながら、周りを警戒した。
『出ていけ』
また同じ声が聞こえてきた。
「見つけた!」
フィーが突然、屋敷の奥へと飛んでいった。
「レィナ、大丈夫だから」
シオンはレィナを落ち着かせながら、リィナとマーカスを引き連れてフィーの後を追った。
フィーが辿り着いたのは地下の倉庫のような場所だった。シオン達が追い付くとフィーは奥の方を見ていた。
「大丈夫だよ!敵じゃないよ!」
フィーがそう言って自分達は敵じゃないと知らせる。すると
「本当?」
奥からフィーに似た妖精が出てきた。恐らく同じ妖精族だから警戒が薄まったのだろう。
「マーカスさん、驚かないで下さいね」
シオンはマーカスに一声かけた。
「フィー、姿を現していいよ。出来れば奥の妖精の子も姿を現してくれると嬉しい」
シオンはフィーと奥から出てきた妖精に声をかける。フィーは直ぐに実体化した。奥の妖精もフィーが実体化したのを見て実体化した。
「なんと!」
案の定、マーカスは驚いていた。
シオンはフィーの隣に立ち、妖精と向き合った。
「こんにちは、君は妖精族だよね?」
外見はほぼフィーと似た感じなので間違いはないだろうが、一応聞いておいた。
こくこく
妖精は声には出さなかったが頷いてくれた。
妖精の近くに行くまでわからなかったが奥には盗んだ野菜と思われる物が置かれていた。そして、その脇からたくさんの妖精達が顔を出していた。
「君達はどうしてここにいるの?」
シオンは出来るだけ優しく問いかける。
「・・・住んでた場所・・・無くなった」
妖精は少し怯えながら答えてくれた。
「無くなったって何かあったの?」
「黒い霧が森・・・壊した」
「黒い霧!?」
シオンはつい大きな声を上げてしまった。妖精はビクッとして奥へと隠れてしまった。
「「・・・シオン君」」
いつの間にか回復していたレィナからも呆れた声が聞こえた。
「あ、皆、ごめんね。それより君達はどこから来たのかな?」
シオンは妖精達に謝ってからその場所を尋ねた。
「・・・向こうの山を越えた先」
妖精が指を差した方向は東の方向を向いていた。
「山を越えたってことはバレスの方かな?」
「向こうは乾燥地帯で砂漠や荒野があると聞いていますが?」
リィナとレィナが考えながら問いかける。
「森・・・山に近い場所にある」
妖精はやはりまだ怯えていたが、答えてくれた。
「ねぇ、ここにある野菜はどこから持ってきたの?」
フィーが隠れている妖精達の側まで行って、聞いていた。
『・・・・・・・』
「ここにあるのは人間から取ってきたのでしょ?ダメだよ。いたずらじゃなくなっちゃう」
フィーは皆に説教をしているようだった。だが、いたずらはいいのかという疑問が残ったが。
「でも、食べ物・・・なかったから」
「うーん・・・。ねぇ、シオン」
フィーはシオンの方に飛んできた。
「前にリシアが持ってた指輪を貰った場所を教えてもいいのかな?」
フィーはここから西の方へと言った場所にあるシオンの故郷の精霊の森を指しているのだろう。
「妖精族ってどういうふうに暮らしているかわからないからなんとも言えないけど、フィーの紹介だって言えば、何とかなるかもしれないね」
シオンはリシアからフィーはお姫様的なことを聞いていたので、大丈夫だと考えたのだ。
「なら教えてくるね」
フィーはそう言って妖精達の中に入って行った。
「シオン殿、これで解決はするのでしょうか?」
「幽霊騒動と盗難事件は無くなると思います。妖精達は生きるために野菜を盗っていたようなので」
「そうか。なんか追い出すようなことになって申し訳ないですな」
マーカスは妖精達を見ながら言った。
「シオン・・・だっけ?ありがとう」
先ほど話をしていてくれていた妖精がシオンにお礼を言ってきた。
「僕は何もしていないよ。・・・もし元の暮らしていた森に帰れたら帰りたい?」
「・・・帰りたい」
「そっか」
シオンはその森に行くことになったら何とかしようと心に決めた。
「じゃあ、皆、気を付けてね」
「フィーちゃん、ありがとね」
何人かの妖精と友達になったようだ。
妖精達と一緒にシオン達は屋敷を出た。そして、その妖精達はマーカスに謝ってから姿を消し飛んでいった。
「まさか妖精に謝られる機会があるとは」
マーカスは少し笑いながら呟いた。
「私達も行きましょうか」
「そうだね」
レィナとリィナが妖精達が飛んでいった方を見ながら言った。
「マーカスさん、僕達も出発します。王都に向かう途中でしたので」
「リィナ様、レィナ様、そしてシオン殿、本当にありがとうございました。どうか道中お気を付けて」
シオン達もマーカスと挨拶を交わし、出発する事にした。
--------------------------
「まったく・・・結構思ったより抵抗してくれましたね」
ベッフェルは小国バレスの国王のエスカーン・フォン・バレスに向かって言った。
「こちらもただでやられるわけにはいかないのだ」
エスカーンは強がりのように言った。現に兵士は全て倒れていて、エスカーンも傷を負って立っているのがやっとな状態だ。
「強がりもそこまで行くとすばらしいですね」
ベッフェルは薄気味悪い笑いをした。
「で?ここにあるあの剣はどこです?我らが主を封じる鍵の剣は?」
「貴様に教えるわけなかろう!」
「そうですか・・・それなら貴方を殺してからゆっくり探させてもらいますよ」
ベッフェルはそう言ってエスカーンに向かって手の平を向ける。そこに瘴気が集まり、人を飲み込むほどの大きな球が出来上がる。
「さよなら。バレスの王」
ベッフェルはその瘴気の球をエスカーンに向かって打ち出した。
「すまぬな・・・エスト、エリー・・・後は頼むぞ」
エスカーンは懐から短剣を取り出した。それを向かって来る瘴気の球ではなく、自らの心臓に突き立てた。
「けい・・やく・・・・しっ・・・こう」
その言葉を最後にエスカーンは瘴気の球に飲み込まれた。
ゴゴゴゴゴ!!!
「何事です!?」
突然鳴り響いた大きな音にベッフェルが叫んだ。
「おい!ベッフェル!!何をしやがった!?」
そこへギリアムが叫んで入ってきた。
「私は何もしておりません」
「ならなぜ外を結界で覆った!?」
「結界ですって!?」
ベッフェルは慌てて外に出た。
そこには王城だけではなく、町全体を覆うほどの大きな結界が作られていた。空を飛んでいる魔物はその結界の外に出ようとしているが出られない様だった。そして、触れた魔物はそのまま落ちて消えていった。地上の魔物も瘴魔でさえ、同じような結果になっていた。
「ベッフェル様、これはいったい?」
そこにアミラがアスラと共に飛んできた。
「・・・おのれ・・・・・最後の最後に禁術の類を使いましたね。バレスの王め」
ベッフェルは最後に自分が放った瘴気の球の向こうで何かをしたのを見ていなかったのが敗因だと、自分自身を責めた。
エスカーンが最後に使ったのは禁術と言われた魔法が封印されていた短剣だ。禁術は生贄などを使用することから現代では使われなくなった古代魔法だ。今回エスカーンが使用した禁術は自分の命を引き換えに触れた者の生命を奪い取る結界を作る魔法。結界による牢獄を作る魔法なのだ。
「ベッフェル、どうする?」
アスラは冷静にベッフェルに問いかけた。
「・・・禁術の結界はそう長期間張れるものではないはずです。解けるのを待つしかないでしょうね。その間に例の剣を探しましょう。解かれた後にもう一度使われると厄介ですから」
ベッフェルはいまだに悔しそうにそう言うのであった。




