第74話 クラレクの町
アルマブルクより東へ行くと、高くそびえる険しい山がある。さらにその先に行くと荒野と砂漠が広がっている乾燥地帯に入る。そんな環境の中でもオアシスを中心として国がある。それが小国バレスである。小国とは小さい国という意味ではなく、遙か昔の少数民族が集まった国という意味だ。そんなバレスの国の城から建物から煙が上がっていた。
「陛下!エルネスト様!エスカリーテ様!お逃げ下さい!」
兵士が謁見の間に傷付いた一人の兵士が駆け込んで叫んだ。
「エスト、エリー。お前達はこれを持って逃げよ」
そう言ったのは小国バレスの国王のエスカーン・フォン・バレスだ。
「しかし父上!」
「逃げよと言っている!」
この国の王子で成人である18歳を先日迎えたエルネスト・フォン・バレスは父を残して行けないと反論する。だが、それを一喝で制してしまう。
「ぐすっ!父様・・・」
泣きながら父を呼ぶのは、この国の王女で13歳のエスカリーテ・フォン・バレスだ。
「エスト、エリーを頼むぞ。お前が頼りなんだ」
剣を持ち立ち上がったエスカーンは振り返らずに言った。
「恐らく奴らはそれを狙っている可能性が高い。もしくは王族の血を受け継ぐ者かもしれん。その二つを守るにはお前達が逃げなければならん。わかってくれ」
エスカーンはエルネストが持つ2本の剣とエルネストとエスカリーテを最後に見て言った。
「っ!どうかご無事で!」
留まりたいと言う気持ちが込み上げるのを我慢してエルネストはエスカリーテの手を引き玉座の裏にある隠し通路へと駆け込んだ。
「・・・陛下」
「相手は恐らく魔人とやらだ。以前ギルドから魔人の出現報告を受けている」
「魔人ですか!?」
「そうだ」
魔人と聞き、兵士は愕然とした。
「それでも私たちは最後まであなたと戦います!」
兵士の一人がそう言うと他の兵士も皆同じようなことを言いだす。
「お前達の気持ちは確かに受け取った。私も最後まで戦おう!」
エスカーンは兵達を鼓舞するように叫ぶ。
「それにただじゃ死なんさ」
エスカーンは懐を触りながら最後にそう呟いた。兵士が見たエスカーンの目は覚悟を決めた目をしていた。
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「後、王都までどれくらいかかりますか?」
シオンの左腕に抱き付きながらレィナが聞いてきた。
「このまま何もなければ後3日ぐらいかかるかな」
シオン達が未開の森から出発してから1ヵ月ほど経っていた。今は王都から南西へと伸びる街道を歩いている。
「途中色々あったもんね」
シオンが何もなければと言ったのには理由があった。ここまで来るのにトラブルが何回かあったのだ。最初の村で起こったような魔物退治から薬草の採集等のお願いを聞きながらやって来たのだ。
「まさか全部やるとは思わなかったけどね」
シオンは呆れながら言った。
「困った人がいたら助けてあげたいじゃないですか」
「ほっとけないもんね」
「うん!」
リィナとレィナだけではなくフィーまで言ってきた。シオンはそんなところが二人の魅力だと感じているので、特に何も言わなかった。
「それにしても魔物退治が多かったですね」
「こっちの方まで騎士や冒険者が来ないのかな?」
二人が言うように魔物退治が多かったが、採集も魔物が出て出来ないから頼んで来る人が多かった。
「魔物が増えているとかあるのかもしれないね」
「やはり瘴魔の影響でしょうか」
レィナが言う通り、シオンもその可能性が大きいと見ている。瘴魔が出てきてから、魔物が凶暴化して、人里へと出てきていることも関係しているだろう。
「瘴魔に影響されていると言うことは、その近くに瘴魔がいるってこと?」
「その可能性はあるね」
ベッフェルがどれくらい瘴魔を作ったのかわからないが、まだ瘴魔自体とは出会っていなかった。
「うーん・・・探してこなかったけど大丈夫かな?」
「全部探していたらいつになっても王都に帰れないよ」
リィナはまた魔物が出てこないか心配のようだった。少し暗い顔をしている。シオンも気にはなるが、気にしていたらいつまでも経っても進めないので、探さないでいる。
「早く魔人騒動を終わらせれば、その分早く収まります。だから今は王都へ早く帰ることを優先しませんと」
「・・・確かに」
レィナはリィナを説得しようとしていた。
「もし王都で情報が入らなかったら、ギルドの依頼とかで人助けすればいいんじゃないかな」
シオンはリィナにそう提案してみる。
「うーん・・・そうだね。そうする」
リィナはいつもの明るい顔に戻った。
シオン達はそのまま街道を歩き続けた。そして、暫くすると遠くに大きな町のような物が見えてきた。
「あれは町かな?」
リィナが首を傾げながら言った。
「クラレクの町じゃないかしら?」
レィナが答えた。
「クラレクって周りの小さい農村とかから王都への物流の中継させる町だっけ?」
シオンが学園で習ったことを思い出しながら言った。
「ええ、そうです。でもなんでシオン君は覚えているのに、リィナは覚えてないのですか?」
「えへ」
レィナはリィナに呆れつつ答えた。それに対してリィナは可愛く笑い誤魔化した。
「じゃあ、今日はクラレクで休んでいこうか」
「うん」「はい」
シオンの提案に二人は頷いて答えた。
クラレクは王都アルマブルクから馬車で半日ぐらいの場所にある町だ。元々は農村だったので、周りには畑が広がっている。町の外壁は石を積み上げて造られているだけなので、この町から王都への納品が殆どなので、町には王都から騎士が派遣され常時警戒に当たっている。
「ねぇ、レィナ」
「何ですか?リィナ」
「町の周りってこんなに騎士の人いたっけ?」
「以前来たときはこんなにいなかったと思います」
シオン達はクラレクの町に到着していた。今は町の入り口を目指して外壁に沿って歩いている。
「何かあったとか?」
シオンは来たことないのでわからないが、騎士の数が多くなっているようだ。
「そうかもしれませんね」
「ねぇねぇ、シオン」
レィナと話していると、フィーがシオンに話しかけてきた。因みにフィーは今、シオン達以外の人からは見えないようにしている。妖精族が姿を現すと騒ぎになるからだ。
「何か気が付いた?」
フィーは人の感情が何となくわかるので、シオンはフィーに尋ねた。
「町の人達は怒ったり、悲しんだりしている人が多いみたいなの」
「怒ったり悲しんだりって事件か何か起きたのか?」
フィーの言葉にシオンはそう考えた。
「それならこの町の騎士の詰所に行ってみませんか?確か私達が以前父上と訪れた時と同じ隊長だったはずです」
レィナが騎士なら何か知っていると考え提案した。シオンも特に異論はなかったので、レィナの提案に乗ることにした。
「その前に宿取ってからにしない?」
先に寝る場所を確保したかったリィナはそんな事を言ってきた。
「確かに暗くなってから探すよりはいいか」
「そうですね。なら、宿を取ってから詰所に行きましょうか」
シオン達は宿を取ってから騎士の詰所に行くことになった。
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「詰所の近くに宿を取れてよかったね」
「そうですね。でも町の中に人が以前より少なく感じたのですが」
レィナは町の中に人が少ないことが気になったらしい。
クラレクの町は周辺の農村の作物を集まるのだ。この町に運ばれた物全てを王都へ運ぶ訳ではないので、一部はこの町や他の場所へと売りに行く商人で賑わっているのだ。
だが、この宿に来るまでも小さな市場のような商店はあったが、人が殆どいなかったのだ。
「それも詰所に行けばわかるかもしれないね」
シオンはそう言って、リィナとレィナに腕を取られながら案内されるのであった。
「これは・・・」
「酷いですね」
「ぼろぼろだね」
シオン達の目の前には窓ガラスが割れ、壁もぼろぼろにされた詰所があった。中から声が聞こえるので、人はいるようだ。
「中に入りましょう」
レィナが敷地に入り扉を開けた。
「ごめんください」
レィナは中を覗き込みながら言った。
「また出たのか?場所、被害をそこの用紙に書いてくれ」
何かと勘違いしたのか、そんな事を言ってきた。
「いえ、そうではないのですが・・・」
レィナが戸惑いながら返すと
「なら何のよ・・・う・・だ・・・・・」
騎士の人はレィナの方へと視線を向けて固まった。
「れ!レィナ様!?」
騎士はものすごく驚いていた。いきなり王女が目の前にいたら当然の反応だろう。
「私もいるよ」
「り!リィナ様も!?」
騎士はまた驚いた。
「貴方はマーカス隊長でしたよね?」
レィナが騎士の名前を言った。
「はい!名前を覚えて頂き光栄です」
騎士は敬礼しながら喜んでいた。
「それとそちらの御方はもしや」
マーカスはシオンの方を見ながら尋ねた。
「私達の婚約者のシオン君だよ」
「おお!やはりそうでしたか!私はマーカス・ランドと申します。シオン殿、宜しくお願いします」
「ええ、こちらこそ宜しくお願いします。マーカスさん」
シオンはマーカスが手を差し出してきたので、握手をした。
「マーカス隊長、この町に何があったのですか?詰所が大変なことになっておりますが」
レィナが外の悲惨さについて尋ねた。
「ここ一月ほど前から盗難事件が多発しておりまして」
「盗難事件ですか」
「はい、騎士の方でも巡回人数を増やしたりしているのですが、姿すらまだ見たことがないのです。それで無能騎士と呼ばれるようになり、今に至るわけです」
マーカスは悔しそうな顔で説明した。
「目撃情報もないのですか?」
シオンが尋ねてみる。
「はい、ほんの数秒目を離した隙にやられたという情報はありますが、姿は見ていないそうです」
「何か奇妙な話ですね」
シオンは数秒の間なら視界に少しは入ると思った。
「後、奇妙な点といえば、盗難されているものは食材ばかりなのです」
「え?宝石とかお金とかではないの?」
「はい、どれもこの町に集められた作物ばかりです」
暫くの間、事件の内容の話しが続いた。まとめると作物ばかりが盗まれる。姿を見た人がいない。一月の間に50件以上の被害が出ている。盗まれる時間帯は早朝と夕方に集中していることぐらいだろう。
「明日にでも事件が発生した場所に案内して頂いてもいいですか?」
シオンはこれだけの事件を起こしているのに、姿が目撃されていないことを考えると魔法的な何かが絡んでいると考えた。それならば、事件があった場所に魔法的ね痕跡がないかと考えたのだ。明日と言ったのはもう陽が暮れて暗いからだ。
「わかりました。それでは明日の朝にまたこちらにいらしてください」
そして、シオン達はその場を後にした。
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「シオン君も魔法的な何かと考えているのですか?」
宿の部屋に入るなりレィナが尋ねてきた。
「まぁね、ただ僕は魔法というより精霊や妖精の類いかと考えてる」
「精霊や妖精ですか?」
「もし人が魔法で姿を消せるのだとしたら、金目の物を盗むと思うんだ。精霊はともかくフィーのような妖精はマナだけでは生きていけない。だから、花や木の実といった物が自生している場所に住んでるんだ。もし、その場所に住めなくなったら」
「他の場所に行って」
「食料を取る・・・と」
途中からリィナも話に加わって来ていた。
「フィー」
「なに?」
「明日は少し力を貸してもらうかもしれない」
「うん、わかった!」
その日は翌日に備えて早めに眠りに就くのであった。




