第73話 王都に向けて
ここから第4章とさせていただきます。
シオン達は森を抜けるまで狼の霊獣に案内をしてもらった。
「ありがとね」
「ありがとうございます」
狼はリィナとレィナに頭を撫でられて満足そうな顔をしている。
「ユンクによろしくね」
シオンも最後に頭を撫でてやる。狼は頷くような仕草をして森へと帰っていった。
「ばいばーい!」
狼に向かってフィーが手を振って見送っていた。
「じゃあ僕達も行こうか」
こうしてシオン達は森を後にした。
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シオン達は最初に街道を目指して歩いていた。
未開の森へと続く街道は無いため、近くの街道を目指さないと方角が分からないのだ。
幸いにも海が見えたので、そこを目指すことにした。
「直接は向かわないのですか?」
海を目指して歩いているので、レィナが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「アルマポールトには寄らないけど、アルマブルクに繋がる街道が海岸沿いからあったはずだから、そこを目指そうかと」
「えー」
シオンは左腕にぴったりとくっついているレィナに歩きながら説明する。右腕にくっついているリィナからはアルマポールトに寄らないと聞いて不満そうな声を上げた。
「そうなんですね」
レィナは納得した顔で頷いた。
「ねぇ、シオン。私が空からどっちに町とか村があるか探すよ?」
フィーがそんな提案をしてくる。
「そうだね。だったら陽が暮れる前に頼もうかな」
「うん!わかった!」
フィーは頼りにされて嬉しそうにシオン達の周りをいつものように飛び回っている。
「じゃあ暫くは海岸に沿って進むのね?」
「そうだね」
シオン達は会話しながらそのまま歩いて行った。
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「ギリアム、今回は貴方の力を頼りにさせて頂きますよ」
ベッフェルは白霊とシオン達が戦い始めた後、魔人アスラと共にベッフェルの研究所を訪れていた。
「相変わらず悪趣味な部屋だな」
アスラは見渡しながら呟いた。
「いいのですよ。私が研究しやすければ」
ベッフェルは吐き捨てるように言った。
「それよりベッフェル!帰ってきて途端、誰に命令しておるのだ!」
ギリアムはまだベッフェルを認めたわけではなかった。ただ魔人として覚醒した自分の場所がなかったから付いてきただけなのだ。
「いいですから話をまずは聞いてください」
ベッフェルは適当に流しながら、話を始めた。
「今回は貴方の魔人としての能力で小国バレスを攻めて貰います」
「バレスだと?」
「ええ、あそこは小国であれどなかなかの強者がいらっしゃるのでね。数で攻めて隙を作ろうかと」
ベッフェルは簡単に作戦を伝える。
「魔人とやらはバレスも落とせぬのだな」
ギリアムはバカにするように言った。
「あそこにも魔人に対する手段を持っている者がいるのでね」
「なら、そいつを始末すればいいではないか。そこにいる男も魔人なのだろう?」
ギリアムはアスラを指しながら言った。
「俺はまだ封印が完全に解けたわけではない。貴様達よりは強いだろうが、国一つとなると流石に厳しい」
アスラはギリアムに対して、誇示するように言った。
「ふん!まぁ、今回は手伝ってやろう。私自身、どこまで操れるかやってみたいからな」
「ありがとうございます。アミラはいつものようにこちらの姿が見えないように、幻影をお願いしますよ」
「わかりました」
ベッフェル達、魔人4人はその場所から更に北にある小国バレスを目指して飛んで行った。
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「疲れたー」「たー」
リィナは宿場町の宿の部屋に着くと直ぐにベッドへ身体を投げ出した。フィーもリィナの真似をしてベッドへ身体を投げ出している。
「もぅ、リィナは相変わらずなんですから」
「まぁ、久々に歩き通しだったからね」
レィナとシオンはそんな様子を見て呆れていた。
「それにしても、フィーちゃんのお陰で野宿しないで済みましたね」
「そうだね」
陽が暮れる前にフィーに空から近くに町がないか探して貰ったのだ。
「でもここはお風呂ないんだよね」
リィナががっかりしたように言った。
「野宿じゃないだけましですよ」
「うーん・・・出来るとしたらお湯で身体を拭くぐらいしか出来ないか」
「そうですね。近くで水やお湯を魔法で出すと驚かれるかもしれませんし」
1日中ずっと歩いていたので汗がすごいのだ。せめて拭いてから休みたい。この宿場町は町というより村に近い。水も少し離れた川から取っているような場所だ。魔法で大量の水を出すと色々と後始末が大変そうなのだ。
「じゃあ僕は外に出てくるから、二人で最初拭いていいよ」
シオンはそう言いながら部屋を出ようとする。
「一緒に拭きませんか?シオン君一人だと背中とか拭けませんし」
「そうだよ。お互いに背中合わせで拭けば見えないし、シオン君は信用できるから」
リィナとレィナはそんな事を言ってくる。確かに一人だと背中を拭くのは少し大変だが。
「ほら、シオン君」
「早くこっちに」
二人は桶を用意して水を張り、お湯にし始めた。仕方なくシオンもタオルを用意して二人に渡した。
そして、お互いに背中合わせで服を脱ぎ始める。シオンは下着姿を見られても問題はないので普通に脱いだ。しかし、リィナとレィナは下のスカートは残し、上半身だけ裸になる。もちろん、シオンはその様子を見ていない。
桶は三人の真ん中に置いてあるので、タオルを濡らす際はどうしても少し振り向いてしまう。その時、二人は胸を片手で隠しながらタオルを濡らしていたので、妙に艶かしかった。
「シオン君、あまり見ないで下さい」
「ごめん」
シオンがその姿に見とれていたので注意されてしまった。
最初のその注意以降は特にそのまま何事もなく、シオンは拭き終わって服を着た二人に背中を拭いて貰い、無事に終わることが出来た。
その後、夜が開けるまで何事もなく、時は過ぎていくのであった。
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翌日の朝に事件が起きた。
シオン達は起きて外へ出ようとすると宿屋の店主に止められた。
事情を聞くと村の近くに魔物が現れたというのだ。冒険者や騎士がいれば特に問題無いのだが、シオン達を除いて誰もいなかったのだ。
「よろしければ僕達が討伐しますが」
シオンが店主に申し出た。
「いや、あんた達旅人のようだが、まだ子供だろう。あいつを討伐なぞ出来るはずがないさ。なんせ以前大人の冒険者でさえ返り討ちにあったんだからな」
背が高いシオンはともかく、背の低いリィナとレィナを見て店主は言った。
「失礼ですね」
「そうだよ。これでも冒険者登録してるんだから」
レィナとリィナは店主に向かって言った。
「登録しててもまだ子供だろ?」
「それは・・・」
「そうですけど・・・」
二人は子供ではあるので反論が出来なかった。
「とりあえず倒してくるから!」
リィナはそう言って店主の横を通り過ぎていった。
「失礼します」
レィナもそう言ってリィナに続いた。
「本当に大丈夫なのか?」
まだ残っていたシオンに店主は聞いてきた。
「大丈夫だと思いますよ」
シオンはそう言って二人に続いた。
外へ出て周囲を索敵すると、村の近くに大きな気配を感じた。
「大型の魔物かな」
「多分そうでしょうね」
二人はすぐに魔物の方へと走り出す。シオンも二人の後に続いて行く。
その場所には5mは越える黒い毛皮の大きな熊が2頭いた。
「ねぇ、あれって瘴魔?」
リィナがシオンに聞いてきた。
「多分瘴魔の近くにいて影響を受けたって感じかな」
シオンはそう分析した。瘴魔ならもっと瘴気を出しているはずなのだ。今目の前にいる熊は2頭共瘴気を散らかせている程度なのだ。
「でも瘴気に侵されているなら私達が戦った方がいいですね」
レィナはマナを身体に纏い始める。
「そうだね。私達の修行にもなるし」
リィナもマナを纏い始めた。
「何かあったらフォローはするね」
「私は応援する!」
シオンはどちらにもフォロー出来る位置に立つ。
『グォー!!』
皆で話している最中に熊の魔物はリィナとレィナにそれぞれ襲い掛かってきた。
リィナは振り下ろされる腕を横跳びで避けた。リィナがいた場所には小さいがクレーターが出来た。
「何すんのよ!」
リィナは振り下ろされた腕の肘辺りに炎を纏わせた短剣を走らせた。短剣自体は魔物の皮の表面を撫でるように走ったが、炎の軌跡は腕を両断するように走る。そして、肘から先は焼き切ってしまった。
片腕を失った魔物は残った腕でリィナに襲い掛かる。
「遅いよ」
リィナは跳躍して襲い掛かる腕を避けた。そして、魔物の体を台にして顔の目の前まで行く。
「とどめ!」
ドゴン!!
リィナは魔物の目の前に手を突き出す。その手からは前方にだけに赤い光が走り爆発を起こした。爆発の後は顔の無い熊の魔物が立っていた。そして、顔を失った魔物は地響きを発てて倒れるのだった。
レィナも最初に襲い掛かってきた腕をリィナとは逆方向に跳躍で避けていた。
「礼儀がなっていないですね」
レィナは魔物の足を狙って青く輝く細い針のような物を1本放った。その針は魔物の足を地面に縫い付けるように刺さる。魔物はすぐに足を動かそうとするが、動かすことが出来なかった。その足は白く染まって凍結していた。凍結は徐々に足を伝い身体にへ到達しようとしていた。
「いつまでそっちを気にしているのですか?」
レィナは足の凍結に気を取られている魔物に向かって水の塊を出し、熊の顔に固定させる。突然息が出来なくなった魔物は慌てて顔の水を取ろうとするが、水のため掴めないでいた。
「このような使い方も出来ますか」
レィナは精霊魔法の使い方の種類を増やそうと実験を兼ねているようだ。
「もう楽にしてあげましょうか」
魔物の顔に被せている水を完全に凍結させる。魔物はレィナのマナの水を飲んでいたため、体内まで凍結してしまいそのまま絶命してしまった。そして、重みに耐えられなくなり身体が砕けていった。
「二人ともかなり安定した戦い方になったね」
シオンは二人の戦い方が以前より良くなっているのがわかった。
未開の森では戦いの機会が多かったのもあるが、やはり覚醒を使えるようになったのが一番大きいだろう。
「ありがとう」「ありがとうございます」
二人はシオンに誉められて嬉しいようだ。
「あんた達強いんだな!」
村人らしき男がこっちに歩きながらやって来た。村の入口には先ほどの宿屋の店主もいた。口をポカーンと開けてリィナとレィナを見ていた。
「えーと・・・あなたは」
「これは失敬。この村の自警団のような者です」
男は30歳過ぎぐらいだろうか、腰に剣を差していた。
「いやー、ありがとうございます。以前ギルドに依頼したのですが返り討ちに遭ったみたいで」
どうやら宿屋の店主が言っていたことだろう。
「本当にありがとうございました。これは報酬として差し上げましょう」
そう言ってお金が入った袋を渡してきた。
「でも依頼を受けたわけではありませんし」
「いえ、以前の冒険者の方々に討伐後に渡す予定だった物ですから気にしないで下さい」
シオンが迷っていると
「シオン君、そこまで言っているんだから、受け取らないと逆に失礼だよ」
「リィナの言うとおりです。ここは受け取っておきましょう」
後ろからリィナとレィナが言ってきた。
「そうだね。ならこれは報酬として頂きますね」
「はい、ありがとうございます」
男はシオンに袋を渡し去っていった。
「良いことすると気持ちがいいね」
「シオン君、あの熊の魔物の素材で使えるところは取っていきましょう」
「だね。じゃあ始めようか」
シオン達は素材で使えそうな部位を剥ぎ取り、異空間袋に入れていった。
「もう出発するの?」
剥ぎ取りが終わったらリィナが聞いてきた。
「その予定だよ。明るい内に進みたいからね」
今回は走ったりせずに普通に歩いて移動しているためけっこう時間が掛かる予定だ。少しでも進んでおきたいのだ。
「また陽が暮れる前に私が空から探すね」
フィーが自分の役目だと言わんばかりに主張してくる。
「その時は頼むね」
シオンもそれは助かるのでお願いした。
その日は陽が暮れる頃には近くに宿場町のようなものがなかったので野宿となった。




