第72話 白霊の子とその後
シオン達が白霊を討伐してから1週間以上が経った。その間は魔物の襲撃もなく、平穏な日々が続いていた。集落の建物の復興もシオン達が手伝うことでかなり進んでいる。
集落の長であるラングからはお礼と言ってシオン達の小屋も建てようと騒いだが、シオン達は旅に出るのでさすがに断った。
リィナとレィナは自分の意思で覚醒に至ることが出来るようになったが、使った後には暫く身体がだるくなるらしい。シオンのようにマナだけではなく、魔力も持っているのでその程度で済んだようだ。
そして、白霊の卵ももうすぐ孵化しそうだとユンクと契約している霊獣が言っているようだ。そしてその日がやってきた。
シオンは外で復興の手伝いをしていた。言葉は通じなくてもお互いにジェスチャーでなんとか意志疎通は出来ている。
(それにしても、最後の白霊様との時にベッフェルは来なかったな)
シオンはその事が気掛かりだった。シオンはここ1週間の間に神殿の遺跡付近や、集落周辺も何かないかと調べたが、ベッフェル等の魔人、瘴魔の痕跡も何もなく、次の行き先が決まらないまま時が過ぎていくのであった。
「シオン君シオン君!」
どこからともなく外で復興の手伝いをしていたシオンを呼ぶ声が聞こえた。
「こっちだよ!」
シオンは声の主、リィナに声をかける。
「いた!シオン君!」
リィナはシオンに気が付くと駆け寄ってきた。
「孵りそうだよ!!」
「孵りそうって・・・卵!?」
「うん!早く行こう!」
シオンはリィナに手を引っ張られて走り出す。
「ごめんなさい、ちょっと行ってきます!」
シオンは言葉は通じない相手に謝る仕草を付けて言うと、集落の住人は手を振って笑って行ってこいみたいな仕草をした。
そして、リィナと一緒に卵が置いてあるユンクの家へと駆けつける。
「シオン!見てください!」
入るとユンクが卵にひびが入っているのを見せてきた。今も卵は動き続けて中から何か出ようとしているのがわかる。
「白霊様の子供ってどんなのかな?」
少し興奮気味のリシアが聞いてきた。
「まぁ・・・白い子蛇?」
シオンは白霊が大きな白い子蛇のような姿だったためそう答えた。
「それは・・・まぁ・・そうだろうけど」
普通に返されたリシアは少し戸惑っていた。
「とにかく!楽しみなの!」
リシアはシオンに向かってそう言うのだった。
「兄妹喧嘩してないで静かにしてください」
「「ごめんなさい」」
レィナに怒られてしまった。
シオンとリシアも皆と一緒に卵の様子を見始める。
そして、卵の殻が割れて一部が落ちた。そこから白い尻尾のような物がが見える。そこから全体にひびが入り、一気に卵が割れた。
中からは太めの白い子蛇が出てきた。子蛇は目が見えているかわからないが、辺りをキョロキョロと見渡し、最後にユンクの方をじっと見た。
「つ!?」
ユンクは目を合わせてくれたのが嬉しいのか、目をキラキラさせて白い子蛇を見ていた。
「可愛いね」
「はい」
リィナとレィナも小声で話している。
「兄さん、名前はどうするのかな?」
「そういえば何も聞いていないな」
シオンはそう言いながらユンクを見た。しかし、ユンクはまだ白い子蛇と見つめ合っていた。
「もう少し待とうか」
「そうだね」
シオン達はユンクが動き出すのを待つことにした。
「皆さん・・・すみません」
ユンクは我を取り戻し謝ってきた。
「可愛いから仕方ないですよ」
レィナが白い子蛇の頭を撫でながら言う。そんなレィナも子蛇を見て目が少しキラキラしている。
「それよりユンク、この子の名前はどうするの?」
リィナが子蛇を見つめながら聞く。
「それなんですが白霊様のままにしようと考えているんです」
ユンクは皆を見ながら言った。
「次期の白霊様として考えているということ?」
シオンがユンクに聞いた。
「はい、私がこの子の親代わりとして育てますが、いつかは白霊様のようにこの土地を見守る存在になるでしょうから」
ユンクは白霊を思い出しているのか少し悲しい顔をしていた。
「・・・ねぇ、シオン」
今まで黙っていたフィーがシオンに話しかけてくる。
「あの・・・この子だけど月のマナを宿しているような気がするんだけど・・・」
『え!?』
フィーがとんでもないことを言った。
「ちょっとごめんね」
シオンは子蛇にそう言って軽く頭を撫でながら子蛇のマナを調べてみる。
「シオン君、どうなのですか?」
同じ月のマナを宿しているレィナがシオンの横にぴったりと密着してきながら聞いた。
「む!」
リィナも密着しようとしたがシオンの反対側は壁だったため密着することが出来なかった。
「・・・うん、確かにレィナと同じようなマナだね。もしかすると瘴気の影響をレィナが調べている内に月のマナをこの子が覚えたのかもね」
シオンは考えた憶測を皆に説明する。
「でも私も少しは調べたよ?」
リィナが首を傾げながら聞いてくる。
「恐らく白霊様自体が月のマナの方に近い特性があったからじゃないかな?白霊様と戦った時って水属性の攻撃ばっかりだったし」
「そういえばそうですね」
同じ水属性が得意なレィナは納得するように頷いた。
「この子が成長すれば瘴気に対抗出来るようになるんでしょうか?」
「どれくらいになるかは実際に成長しないとわからないけど、白霊様みたいにはなりづらいはずだよ」
この子蛇が月のマナを宿している以上、ベッフェルは手出しが出来ないはずだ。
「お?孵ったのか?」
そこへカイとフィルジアがユンクの家に入ってきた。
「はい、先程孵りました」
シオンは二人に簡単に説明する。
「そうか、二代目白霊様ってところか」
シオンの説明を聞き、カイが子蛇の頭に触れようとすると、するりと避けて、ユンクの近くに逃げて行った。
「なんでだよ!」
カイが叫ぶ。
「お前は威圧的だからじゃないのか」
フィルジアもカイに言いながら子蛇に触れようとする。しかし、またもやするりと避けて、レィナの方へと逃げて行った。
「・・・・・・・」
「おめぇもじゃねーか」
どうやら子蛇は二人のことがお気に召さなかったようだ。
そんな様子を見ていた周りにいる人達は笑いを堪えるのに必死だった。
「そうだ、リシア」
「何ですか?」
フィルジアがリシアに呼び掛けた。
「俺達はそろそろこの集落を出発しようと思うのだが、お前はどうする」
「・・・・・・・」
リシアはフィルジアに聞かれ、シオンの顔を見た。
「シオンに付いていきたければ別に構わない。俺達に付いて来てもいい。判断はお前に任せる」
「私は・・・・」
リシアは本音を言えば、シオンに付いていきたい。しかし、このまま一緒に付いていっても、その場所に居続けることが出来るかはわからなかった。
リシアはリィナとレィナの顔を見る。恐らくシオンも二人のことを好いている。自分はあくまで妹、家族としてシオンから好かれているだけなのだと考えた。
「私はフィルジアさん達と一緒に行きます」
リシアは静かに言った。
「いいのか?」
「はい。このまま付いていっても辛いだけですから」
リシアは少し寂しそうな顔で言う。
「「リシアちゃん・・・」」
リィナとレィナは自分達のせいで、リシアが辛そうな顔をしているのが嫌だった。
「二人は気にしないで下さい。兄さんのことを好きでいることは知っていますし、兄さんも二人のことが好きみたいですから」
リシアはやはり辛そうな顔で言った。
「だから、私はフィルジアさん達に付いていって自分を磨きます」
リシアは決意を決めたようだ。
「わかった。出発は明日の予定だから、準備をしておいてくれ」
「わかりました」
フィルジアはカイと一緒に出ていった。
「兄さん、勝手に決めてごめんなさい」
「いや、こちらこそごめん」
二人はお互いに謝った。
「兄さん、私は兄さんと一緒にいたい。けど、きっと兄さんの邪魔になる。だから私はフィルジアさん達と一緒に行って強くなる。隣で戦えるように」
リシアは自分の決意をシオンに告げた。
「わかった。僕も負けないように修行しないとだね」
「そんなのすぐに追い抜いちゃうからね」
二人はそう言って笑い合った。そしてリシアは旅の準備を始めるために小屋に戻っていった。
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その日の夜
「シオン君、私達もそろそろ出発するの?」
リィナが敷き布団の上でゴロゴロしながら聞いてきた。
「そうだね。白霊様の子供も異常はないみたいだし」
「でもここからどこに行きますか?魔人の情報ないですけど」
今度はレィナが聞いてくる。レィナの言う通り、魔人の次の出現する場所や何をするのか等の情報が何も無いのだ。
「それなんだけど、一度アルマブルクに戻ろうと思う」
「「え?」」
シオンの言葉に二人は首を捻った。
「アルマブルクのギルド長のウェルさんが何か情報を掴んでいるかもしれないし、アルバルトさんにも今回までのことも報告したいからね。それに」
「「それに?」」
シオンはリィナとレィナを見た。
「二人とも少しホームシックになっているでしょ?」
「「っ!?」」
シオンの言葉に今度は顔を真っ赤にする二人だった。
「気付いていたの?」
「まぁ、寝るときとか少しいつもより甘えて来るようになったからね」
白霊の問題を解決してから二人は、寝るときだけ妙に甘えてくることが多くなったのだ。
普段は手を繋ぐ程度で、寝惚けて腕に抱きついてくることが何回かあったぐらいだったのが、最近は腕ではなく寝る時からシオンの体に触れるような場所で二人は寝るのだ。シオンはその体制だと腕が二人の身体の下を通り、二人を抱き寄せるような感じになってしまい、寝辛かったのだ。
恐らく、ユンクとラングや白霊とのやり取りを見て家族が恋しくなったのだろうとシオンは見ていた。
「ま、まぁ、私達のホームシックは置いておくとして、向こうで情報を手に入れている可能性はありますね」
レィナは頬を赤くしながら言った。
「それって王様がいる町?」
「そうだよ」
「王様に会える?」
「二人の父親が王様だからね」
フィーの質問にシオンが答えていく。
「あれ?港にいたバルトさんが二人のパパじゃないの?」
変装してアルマポールトに来たアルバルトのことを言っているのだろう。
「そうだよ。あの人がこの国の王様だから」
「そうだったの!?」
フィーが珍しく声を出して驚いた。
「まぁ・・・普通そんな反応するよね」
「ですね。あんなのがよく王様なんてやってますよ」
リィナとレィナのアルバルトに対する評価は低いようだった。
「でも、国民のことはよくわかっているよね」
「自ら変装して旅するぐらいですからね」
でも、以外と認めている部分もあるようだった。
「だから今日は寝る前に旅の準備をしておこうか」
シオン達は洗濯物等の日用品の片付けをするのだった。
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翌日、シオン達やカイ達は集落の入り口にいた。
「皆さん、本当にありがとうございました」
「今、私の命があるのはシオン達のおかげだ。本当にありがとう」
「こちらこそお世話になりました」
シオン達はユンク、フレンと別れの挨拶をしていた。
「本当に世話になった。もし近くに来るようならまた寄ってくれ」
長のラングは深々と頭を下げお辞儀をしてきた。
「お前達も頑張れよ」
「お互いにね。それとリシアをよろしくお願いします」
カイとシオンも挨拶をしあう。
カイ達は森を東に抜け、北へ向かうらしい。その方角に小国バレスに行くための中継町があるらしい。
「兄さん達は一度アルマブルクに戻るのですよね?」
「はい、父上やギルドの方で何か情報を掴んでいるかもしれないので」
「では、こちらでも何かわかったらギルドに伝えておくようにしよう」
「ありがとうございます」
リシア、レィナ、フィルジアの三人で話していた。
「皆も元気でね」
「リィナさんはいつも元気ですよね」
こちらはリィナとルシルが話している。
「皆!ありがとね!」
少し離れたところではフィーと霊獣達が話していた。
「森を抜けるまではこの子達が案内しますので」
ユンクがそう言うと狼と狐の霊獣が姿を現す。
「最後までありがとうございます」
「友達ですからこれぐらいは当然です。もし、何か力になれるようなことがあったら来て下さいね」
ユンクは最後に皆にそう告げた。
そして、シオン達は狼、カイ達は狐の霊獣に案内して貰う形で集落を後にするのだった。
(皆・・・本当にありがとう。これからも頑張ってくださいね)
ユンクはそれぞれの背中を見ながら、旅の無事を祈るのだった。
今回の話で第3章は終わりとなります。
次話からは第4章となります。
これからも頑張って書き続けていきますので、最後まで読んでくれたら幸いです。




