第70話 ユンクの決意、白霊の最後
リィナとレィナは同時に動き出した。二人は片目がシオンと出会った頃のように輝いていた。
その動きも先程と比べると歴然とした差があった。
白霊の方も氷の束縛を破壊してから、体に黒い瘴気が先程より濃くなっているように見える。
その体にリィナとレィナの後方から、風の砲弾が飛んで来た。その砲弾は頭と胴体の中心の丁度真ん中辺りに当たる。そして、風の砲弾は霧散してしまった。
「「あそこね(ですね)!」」
二人はユンクが教えてくれた白霊の弱点の部分を把握した。
この風の砲弾はユンクが放ったものだ。白霊は大蛇だ。大蛇の弱点の場所は口で説明が難しかったため、一度その場所を攻撃で教えたのだ。
リィナとレィナはそれぞれジグザグに動きながら白霊の攻撃を避けながら接近する。白霊は湖の水を使い、水の弾丸として二人に攻撃を仕掛けていた。
二人が肉薄しようと飛び掛かろうとしたその時、湖の水が白霊を守るように壁を作った。
「無駄です!」
レィナはその水の壁に干渉し凍らせてしまう。
「いっけー!」
リィナは氷の壁に向かって炎を纏わせた短剣を振り下ろす。その炎の斬撃は氷の壁を破壊し、白霊を纏う瘴気を燃やした。
白霊は苦しみながら、尻尾を振り始める。そして
-------------------------
「ちっ!また魔物か!」
後ろの方でそんな声が聞こえた。
「・・・いつもの音と違う!」
音が聞こえているフィーは叫んだ。
「どういうこ・・と・・・っ!」
シオンはフィーに聞こうとしながら、白霊の方を見た時に絶句してしまった。
白霊の周りに瘴気と水の弾丸の壁が出来ていたのだ。
「リィナ!レィナ!」
シオンはその壁の近くにいる二人の名前を呼ぶ。だが、その時にはその弾丸の壁は二人を飲み込もうしていた。
シオンはユンクの前に出て強めに障壁を張る。カイとルシルもシオンと重なる位置に移動していた。
そして
ガガガガガガガガガガガン!!!
障壁に無数の瘴気と水の弾丸が叩き付ける。
シオンは何とか耐え、後ろいるユンクやカイとルシルの確認をする。何とかシオンの障壁に隠れることができたようで無事だった。
シオンは前方を見る。至近距離からその攻撃を受けた二人の姿は何処にもなかった。
「・・・そんな」
ユンクは二人の姿がないことに気付き、声を漏らした。
「・・・・・・・」
シオンは何かを感じ取ったのか白霊の後ろの方を注視していた。
「ユンク、大丈夫だよ」
シオンはユンクに安心するように声を掛けた。
-------------------------
「あぶなかったー!」
「ぎりぎりでしたね!」
リィナとレィナは白霊の後ろの湖の中から出てきた。
二人は当たる寸前に湖に自ら落ちたのだ。水中で精霊魔法を使い、白霊の後ろまで気配を隠しながら、水の中を移動していたのだ。
二人はびしょ濡れになっていたが、怪我はないようだ。
「お返しですよ!」
レィナの左の瞳が更に強く輝き始める。レィナの頭上に掲げた右手に青白く輝く1m位の大きな針のような物が現れる。
レィナはそれを白霊の目の前の湖に着弾させた。そして、その着弾部を中心に白霊を巻き込みつつ凍り始める。
白霊はその場所から離れようと氷を砕きながらレィナから距離を取ろうと動いた。
「逃がさないよ!」
リィナが逃げようとした白霊の前に回り込み、白霊の目の前に小さな太陽のような輝きを持つ球体が現れる。
本能的にまずいと感じたのか、レィナの氷の領域まで下がろうとする。その直後
ドゴオォォォーーン!!!
小さな太陽は巨大な炎の球体に膨れ上がった。その大きさは5m程だったが、巻き込んだ湖の水は全て蒸発し、地面はその炎の球体と同じ形に抉れていた。
『・・・・・・』
後ろで見ていたシオン以外の面子は口を大きく開け、呆然としていた。
「シオン・・・あいつらはあんなに強いのか・・・」
「私達の試験の時は本気ではなかったということ?」
カイとルシルは二人の評価を改めていた。
白霊は炎の球体がかすっただけだったが、体の表面は瘴気が消え、焼け焦げていた。
白霊は少し戸惑いが生じたのか、その場で動きが止まった。だが、止まってしまったのがいけなかった。
レィナの氷の領域は広げつつあり、尻尾が凍り始めていた。
そして、その氷をどうにかしようと動こうとした時、弱点の部分がリィナから攻撃しやすい位置に来ていた。
「ユンク!いくよ!」
「はい!」
リィナは大きな声でユンクに知らせた。
リィナは炎を密集させた赤く輝く短剣を弱点に目掛けて突き出す。赤く輝く短剣が伸びるように、ものすごいスピードで白霊の弱点を穿つ。そして、白霊の体に穴が開いた。その中に黒く染まった大きな核のような物が露出した。
ユンクは両手を前に突き出し、霊獣達の力を一つにさせ、1m位の白く輝く光の球体を作り出していた。
-------------------------
(我を完全に消滅させるには霊獣の力が必要だ)
「霊獣の力・・・ですか」
白霊は自らを殺す手段をユンクに教えていた。
(だか、我の弱点は体の中にある。そこまでは瘴気があり、霊獣の力は届かない。他の巫女の力を使い、弱点までの道を開いて貰うのだ)
「巫女?」
(お前の友人の二人は巫女であろう?)
「っ!?」
ユンクは二人の巫女と聞いて、リィナとレィナの顔が浮かんだ。あの二人は何の巫女かは分からないが、瘴気に対抗出来る唯一の力と聞いていたので、その事だと考えた。
(その巫女達と力を合わせ道を開き、そこにある核に霊獣の力を破壊の念を込めてぶつければ我を殺すことが出来る。では、我の子供を頼むぞ)
「・・・・・・・わかりました。白霊様、今までありがとうございました」
そしてユンクは精神の世界から現実へと帰って行った。
-------------------------
(白霊様・・・さようなら)
ユンクは心の中で白霊に別れを告げた。
「皆!力を貸して!!」
ユンクの叫びと共に光の球体は、露出した核に向かって飛んで行った。しかし、それに気付いたのか、白霊は身を捩るような動きをしようとする。
「っ!?」
ユンクはその光の球体は細かな操作は出来ない。外せばまた弱点を露出させるところから始めることになる。現にリィナが開けた白霊の体の穴は再生しつつあった。
「止まってなさい!」
レィナは身を捩った白霊に氷針を突き刺し、表面を凍らせて動きを遅くさせる。しかし、光の球体はこのままでは核に当たらない。
「なっ!?」
次の瞬間、ユンクはその光景を見て絶句してしまう。
その光の球体をシオンが両手で持ってしまったのだ。
シオンはその光の球体の軌道を白霊の核へと向けた。そして
カッッッ!!
核に当たった光の球体は眩しい光を放った。光が収まるとそこには綺麗な結晶があった。そして、その結晶にひびが入り、最後には粉々に砕けてしまった。
(皆の者、感謝する・・・)
砕けた瞬間にシオン達含め、頭の中に白霊の言葉が響いたような気がした。
「・・・ぐす・・・はくれい・・・さま・・・」
ユンクはその場に崩れ落ち、ボロボロと泣いていた。
シオンはそんなユンクを見ていたが、やり忘れていることを思い出し、直ぐに実行した。
シオンはマナを視認かして白霊の体を見ていく。白霊の体からは瘴気が消えつつある。その白霊の体の中に瘴気でも白霊でもない、何か反応を見つけた。
「そこか」
シオンは見つけた物の場所に近付き、剣で一閃する。白霊の中から1m程の大きな卵が出てきた。その卵は透明のようで透明ではなく、ぼんやりと光を放っていた。シオンはその卵を優しく持ってユンクの傍に行く。
「ぐす・・・ううぅ・・」
ユンクは座り込んで俯きながら泣いていた。
「ユンク」
シオンは優しく声を掛けた。
「ほら、ユンク。これ」
シオンはユンクに卵を見せた。
「・・・シオン。これって・・・」
「そうだよ。白霊様の卵」
泣き顔で見上げてきたユンクの瞳に輝きが戻る。
「これが・・・」
ユンクはシオンから卵を受け取った。卵の中で命が脈動しているのが分かった。
気が付くとシオンだけではなく、リィナやレィナ、カイやルシルもユンクの近くにやってきていた。
「その卵を育てるんでしょ?」
「私達もできる限りは手伝いますから」
「私も手伝うよ!」
リィナとレィナは片目の輝きは収まっており、ユンクに卵を一緒に育てようと進言した。フィーも一緒に卵を見てくれるそうだ。
これはシオンも懸念していることだが、瘴気の身体の中にあった卵だ。もしかしたら瘴気の影響を受けているかもしれない。もしそうだとしたらリィナとレィナがいないと対処出来ないからだ。
「二人ともありがとう」
ユンクも二人にお礼を言う。
「オレ達もしばらくは残るぜ。そいつも気になるが集落も復興させねぇとな」
「そうですね。私達も微力ながらお手伝いしますよ」
カイとルシルも暫くの間集落に残るようだ。
「皆さん・・・。本当にありがとうございます」
ユンクは卵を抱えながらゆっくりと頭を下げた。
「さぁ、ユンク。集落に帰ろうか」
シオンは卵を抱えて座り込んでいるユンクに手を貸して立ち上がらせる。
「はい!」
ユンクは大事そうに卵を抱えてシオン達とゆっくり歩き始める。
シオン達とはまだ数日しか共に過ごしていないはずなのだが、ユンクは昔から一緒にいるような不思議な感覚を覚えていた。




