第44話 クラーケン
シオン達はものすごい勢いで迫って来る4本の触手を何とか避け、隙あらば精霊魔法で攻撃をしているが
「ダメ!全然効いてる気がしないよ!」
リィナは避けることでなかなか集中できず威力が出し切れていなかった。
「こっちもです!大き過ぎてなかなか凍ってくれません!」
リィナも動きを止めようと凍らせようとしてはいるが、表面が凍るだけで動きを止めることに至らなかった。
「くっ!さすがに相手が悪すぎる」
シオンも2本の触手を相手にしながら呟いた。
クラーケンははっきり言って、今のシオン達に勝ち目なんてほとんどなかった。
海の上で会ったら死と言われるほどの化け物だが、海から地上への攻撃も長過ぎる触手で難なくこなしてきている。
それに相手は本体を見せていない。
「レィナ!やるよ!」
リィナがレィナに合図を出す。
「わかりました!」
レィナも意図を察し答える。
「いっけー!!」「いきます!!」
二人の掛け声でそれぞれの周りに炎の剣と氷の槍が複数現れる。数は約20本ずつぐらい。
それを一本の触手に向かって同時に放つ。
炎の剣は当たると同時に爆発を起こし、氷の槍はその爆発も凍らせる勢いで、炎の剣が当たった場所をピンポイントで当てていく。
高熱と冷気の多段攻撃により表面が崩れてきた。
「そこ!!」
リィナが崩れた場所をめがけてマナの塊を撃ち出した。
傷の中に入るとマナは炎に変化し爆発を起こした。
触手は爆発の部分で切断されてしまい、切られた触手は海へと帰って行く。
「やった!」「やりました!」
二人は触手を追い払い喜びの声を上げた。
しかし
「きゃーーーー!!!」
突如悲鳴が響いた。
シオンが悲鳴がした方を見るとレィナが背後から来ていた5本目の触手の奇襲により絡め取られてしまっていた。
「レィナ!」
リィナは近くにいたので助けようとするが
「きゃ!」
他の触手が邪魔をしてくる。リィナは飛ばされてしまった。その間にもレィナを捕えた触手は海へと帰ろうとしている。
「負けるもんですか!!」
レィナも圧迫されないようにマナを身体強化と障壁に全力で注いで耐えていた。
「シオン君!」
リィナはレィナが捕えられたことで焦っているようだ。
触手の方もレィナを捕えたことでこちらへの攻撃が緩んできた。
「あれ使うか・・・」
シオンはこの状況であることを決意する。
「リィナ!少し無理するから動けなくなったらレィナと僕を頼む!」
「え?シオン君!?」
シオンは自分の中にある鍵を開けるイメージをする。
すると、シオンの体が薄っすらと光を放ち始める。
「シオン・・・くん?」
リィナはシオンのその姿をみて呆然とした。
次の瞬間シオンはその場になくレィナが捕えられている触手の方へ駆けていた。
「邪魔だ」
シオンを止めようと他の触手が襲い掛かって来るが、シオンが振るった剣で打ち払ってしまう。
シオンと触手はお互いに弾かれてしまった。
「っく!これでも切れないのか」
シオンは触手を切り落とすつもりだったが、思いのほか堅く弾かれてしまった。
「それならもっと強く・・・」
シオンは駆けながらマナをもっと集めようと意識する。
シオンは更に加速し、剣に纏わせていた風も密度を増していく。
「シオン君・・・すごい、だけど・・・」
リィナはその光景を遠くから見て、嫌な予感がしていた。
リィナはシオンが風を纏って戦う姿は目にしたことは何度もある。でも、今使っている技は今までの速度も纏っている風の量も桁違いなのだ。
シオンは再び駆け出す。
その速度は通常の目では追うことすら難しい速度で、リィナの強化した目でもやっと追える速度だった。
「これで・・・どうだ!!」
通り過ぎると同時に触手を斬った。切断まではいかなくても、初めて剣で傷らしい傷を与えた。
傷を受けた触手はシオンから逃げるように離れて行く。
(これ以上は体が保つか分からないか・・・)
シオンの体に激痛が走り始めていた。
シオンが使っている技はシオンの体にかなりの負荷がかかるのだ。
他の触手もシオンに対する攻撃が緩んだ。その隙に一気に加速し、今にも海に引きずり込まれそうなレィナを捕らえている触手に追い付こうとするが、間に合わない。
(もっと速度を上げるしかないか・・・。もっとマナを!)
追いつけないと踏んだシオンは激痛に耐えながらも、マナを絞り出そうとする。
レィナはこの短時間で相当な圧迫を受けているのかマナに限界が来ているのがシオンにも解った。
「しお・・んくん」
レィナは耐えるのにも限界がきていた。だがシオンの姿が目に入ると気力を出し最後の踏ん張りを見せる。
「レィナを返して貰うぞ!」
シオンは剣に纏わせた風を更に圧縮する。
それをレィナを捕らえている触手の根元に向けて振り下ろした。
どぉーーん!!
海が割れて剣の軌跡を追うように風の刃は見事に触手を切断した。
レィナは触手が緩み、力無く海に落下しようとしていた。
シオンはふらつく体をなんとか支え、レィナを受け止め急ぎその場から離れた。
他の触手は2本目の触手が切り落とされたことで海の中へと逃げていった。
それを見たシオンは一気に力が抜け始めた。
なんとかレィナを地面に寝かせ、そのままレィナの上に倒れた。
「シオン君!」
遠くからはリィナがシオンを呼ぶ声が聞こえてくる。
(さすがにこれはきつかったか・・・)
シオンは指一本動かすのもつらい状態だった。
シオンの頭はレィナの胸の上にあるため、レィナが生きている証拠の音が聞こえてきた。
(レィナを守れたから良しとしようか・・・な・・・)
シオンの意識はリィナがシオンを呼ぶ声とレィナの心音を聞きながら、暗闇に落ちていくのであった。
--------------------------
「シオン君!」
リィナは触手が完全に撤退したのを確認して倒れているシオンとレィナのもとへ向かった。
「えっとええっと!?!?」
いつもはレィナがこのような事態を対処していたが、今はそのレィナまでが倒れている。
「どうしたら!?!?」
その結果、リィナは混乱していた。
「と、とりあえずシオン君をレィナの上から・・・」
リィナはレィナの上にいるシオンを動かすことにした。
身体強化を使えば女であるリィナでも男を動かすことも造作もない。
「えっと・・・二人とも息は・・・・・・・あるよね」
リィナは倒れている二人が息をしているのを確認し、生きていることがわかりほっとした。
「レィナもけがは・・・なさそうだし」
慣れないながらも一つ一つ状態を確認していく。
「リィナー!!」
遠くからフィーが飛んできた。
「フィーちゃん無事だったんだね!」
「うん!レィナがあの触手が来た時に後ろで隠れててって言ったの!」
「そうだったんだ」
リィナはそんなことしているとは気付いてなかった。
「二人は!?大丈夫なの!?」
フィーは倒れている二人の顔の付近に飛んでいき覗き込んだ。
「たぶんね。息はしているし、大きな怪我もないみたいだから大丈夫だと思うけど・・・」
リィナは素人ながらの診断でそう言った。
「っ!」
しかし、フィーはシオンをよく見た瞬間に顔が蒼白になった。
「リィナ!シオンがこのままじゃ危ないかも!!」
「・・・え?」
リィナはその言葉が信じられなかった。
「ど、どういうこと!息はしてるよ!!」
さっきシオンを見た時に息はしていたし、心臓も動いていることを確認した。怪我もないから大丈夫かと思っていた。
「シオンのマナがぜんぜんないの!このままだとマナが足りなくなって動かなくなっちゃう!!」
フィーの説明を聞き、リィナも顔が蒼白になった。
「え・・・ど、どうしたら!?」
危ないと聞きまた慌て始める。
シオンのさっきの技は普段使わないマナにも手を付ける技の一つ。本来、人間族に関わらず生物は魔力とマナの二つを少量ながら宿している。この二つはどっちかが無くなったとしても、片方があれば生命活動を続けることが出来る。
しかし、シオンは生まれつき魔力が無かった。さっきの技は生命活動に使っているマナまでも使用することにより、普段以上の力を発揮する技なのだ。
だが、使いすぎると己の命に関わることになってしまう。
まさに今はこの状況なのだ。
「ねぇ!フィーちゃん!他の人のマナって受け渡すことが出来るのかな!?」
「・・・わからない。やったこともないし、聞いたこともない・・・。でも」
リィナは泣きそうな顔でフィーに聞く。フィーも目に涙を溜めながら答える。
「でもやってみる価値はあると思う。何か体に後遺症が起こるかもしれないけど」
「わ、わかった!」
リィナはその言葉を聞き、覚悟を決める。
「まさか、こんな形でファーストキスをすることになるなんてね」
リィナは自分のマナをシオンに渡すためにシオンの唇にリィナのそれを重ねる。
(絶対助ける・・・・戻って来て・・・)
そんな願いを込めて、リィナはキスをし続けた。
--------------------------
「クラーケンまで呼ぶとはすばらしいですね」
ベッフェルの言葉に驚きながらも振り返るギリアム。
「貴様か・・・」
まだ魔人になったばかりで気分が高揚しているようだ。
「貴方の力はすばらしいですね。どうでしょう?私達と一緒に来ませんか?」
「私達・・・だと?」
ギリアムはベッフェルの後ろにいるアミラに視線を向けた。
「貴様達は何者なのだ」
「私達は魔人と呼ばれる存在です。貴方も人間から昇華し、魔人になりました」
「そうか・・・」
ギリアムは何を思ったのか、黙って目を瞑った。
「どうですか?愚かな人間達を蹂躙するのは楽しいですよ?」
ベッフェルはさらに誘いを掛ける。
「貴様達の目的はなんだ?」
「我ら魔人の主であられる方に世界を提供するため、邪魔な人間や他の生物を排除すること。もちろん、協力体制の者達にはそれ相応に待遇はしますけどね」
ベッフェルは包み隠さずに目的を話した。
「・・・それだけか?」
「はい」
ギリアムはまだ何かありそうな気がしたが、ベッフェルは肯定するだけだった。
「この姿で町に戻るのは面倒だから、貴様達にすこし付き合ってやろう」
ギリアムはそう決断した。
「ありがとうございます。とりあえず、飛び続けるのは少々疲れるので、人がいない場所に降りるとしましょうか?」
「・・・よかろう」
そう言ってベッフェルとアミラは魔人となったギリアムと共に人気のない場所に降りていくのだった。




