第43話 会頭の異変
「ふざけるな!!」
シオン達が貿易の会頭ギリアムの家に着いた時に中から、ギリアムの怒鳴る声が聞こえてきた。
案内してくれた冒険者が先頭に立ち、ギリアムの家の扉を開ける。シオン達はそれに続いた。
「そんなこと許されるわけないだろ!!」
ギリアムはギルド長のクラークに怒鳴りつけていた。
「なぜ私が会頭の座を降りねばならんのだ!!」
「あなたは自らの手で密輸を決行し、この国だけではなく他国への脅威になることをした。アルマポールトの町の貿易の代表を任せられる人材ではないと判断したからだ」
クラークはいつもより語調を強めて言った。
「・・・この状況は」
「目撃されたのにまだ認めていないのでしょうか?」
リィナとレィナは呆れたように呟いた。
「それでも認められるか!私がどれだけ苦労していると思っているんだ!」
ギリアムはそれでも怒鳴り散らした。
「「「っ!」」」
その時、ギリアムの懐から黒い靄のようなものが見えた。
その事にはシオン達以外には見えていない。
「シオン、何か嫌な感じが」
フィーがシオンの耳元で囁いた。
「とりあえず、行ってみよう」
シオン達はギリアムの元へ向かった。
「なんだ?貴様ら?ん?・・・前に港にいたガキどもではないか」
どうやらシオン達のことは覚えていたようだ。
「すみません、クラークさん。こちらからギリアムさんに聞きたいことがあるのですが」
シオンはクラークに質問をしていいか聞いた。
「あ、ああ。すまないね、見苦し姿を見せて。質問があるのなら聞いていいよ」
クラークはシオンの顔を見て、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「ギリアムさん」
「・・・なんだ」
ギリアムもシオン相手で声が少し落ち着いた。
「その懐に何か持っているのですか?」
シオンの言葉にギリアムは過剰に反応を示した。
「なぜ貴様がこれを知っている!」
ギリアムは懐のそれを服の上から掴んだ。
「っぐ!」
掴んだ途端にギリアムは苦しそうな声を上げた。
「ギリアムさん?」
シオンは嫌な予感をしつつ、ギリアムに声を掛ける。
「・・・そうだ、簡単なことだ。・・・私の・・・私の言葉なんて・・・誰も聞いてくれない。正しいはず・・・なのに誰も・・・」
ギリアムはぼそぼそと独り言を呟き始めた。
「っ!」
「うわ!」
シオンは隣にいたクラークの手を取り無理矢理下がらせた。
「「シオン君!」」
「わかってる!」
リィナとレィナも近くにいた冒険者を集めた。
シオンは風の精霊魔法で集まって来た人を無理矢理もっと寄せ集めた。
リィナとレィナは集まっている人達の前に立ち、両腕をギリアムに向けて障壁を張った。
その直後
「ッガアアアアアア!!!」
ギリアムを中心に黒い衝撃波が迸った。
それは、家屋も関係無しに破壊したため、家屋の屋根や壁も崩れて来た。
衝撃波を防御した後もリィナとレィナは、ギリアムがこちらに攻撃があってもいいように障壁を張り続けてた。
そのため、崩れてきた家屋に対処してのはシオンだ。
シオンは全員が入るように障壁を頭上に張る。
次の瞬間、辺りは土埃で見えなくなった。
『っ!』
突然起こった衝撃波、そして崩れてきた家屋に対して、シオン達以外は息を飲むことしかできなかった。
暫くして土埃が晴れてくる。
ギリアムがいた場所にはその姿はなく、瓦礫とかした家屋の残骸が残っているだけであった。
「あいつどこいった?」
「何が起こったんだ!」
「いきなり衝撃波がきたぞ!」
周りはいなくなったギリアムと、ギリアムが起こした衝撃波について話していた。
「「「っ!」」」
シオン達三人は辺りを探索するためにマナを周囲に広げていたため気付いた。
遥か頭上から先ほどの衝撃波と同じ気配がしていることに。
防御しようとしたが衝撃波はやって来なかった。
ただ、空中にギリアムらしき人物が佇んでいるだけであった。
「今のは一体?」
シオンが疑問に思っていると
「魔物が海から来たぞ!」
突然外からそんな声が聞こえて来た。
「魔物だと!」
それに反応したのはクラークを始め冒険者達だった。
「シオン君達も手伝ってくれ」
ギリアムのことは気になるが、目の前に来ている魔物も放っておく訳にもいかない。
「わかりました」「「はい」」
シオン達三人も魔物の対処をする事になった。
海から来た魔物は魚やクラゲとかの魔物だけではなく、鳥の魔物も襲ってきていた。
「魔法使える奴は空の魔物を撃退しろ!使えない奴は海から出てきたところを叩け!」
熟練の冒険者が指揮を取っていた。
海の生物は水中だと機動力があるため地上に誘き寄せてから攻撃していた。戦法としてはありなのだが、今回は相手の数が多すぎることもあり、徐々に冒険者達は押され始めた。
「街道の方からも魔物らしき影が来ている!人を回してくれ!」
「なんだと!」
そこへ街道からも魔物が押し寄せてくるという事態に誰もが絶望を覚えた。
「シオン君、リィナさん、レィナさん。君達なら海の魔物や空の魔物を同時に相手にできますか?」
クラークはシオン達に質問をしてきた。
「一応出来ますけど、この数相手なら船や一部の建物に被害が出るかもしれません」
シオン達は精霊魔法を使えば空の魔物も海中の魔物も同時に相手をすることは可能だった。
「できれば被害は押さえて欲しい。でも、緊急事態だ。多少は目を瞑ろう。僕はここにいる冒険者達を連れて、街道の魔物を対処してくる」
クラークはシオン達の強さをグリフォンの討伐という形で知っている。カイという上位の冒険者にも付いていけるほどの実力者だ。この魔物なら任せられると判断してのことだ。
「確かにこの数相手では範囲攻撃しないときついですね」
「今使ったら仲間も巻き込んじゃうもんね」
レィナとリィナは目の前の光景を見ていった。
「それは心強い言葉だ」
クラークはリィナとレィナの言葉を聞き、任せても大丈夫と確信した。
「今から街道の方の敵に当たる!合図をしたら街道まで走れ!!」
『おおぉーーー!!』
クラークは声を上げ皆に周知した。
「上空の魔物を一掃しますので、できるだけ気を付けますが、飛ばされないようにしてください!」
シオンは人のいない上空を風の精霊魔法で一掃しようと考えた。
「上空の魔物を一掃する!吹き飛ばされるな!」
クラークも冒険者達に周知させるために叫んだ。
シオンは普段の戦いで使うマナより多くのマナを放出する。
両隣にいたリィナとレィナはシオンが扱うマナの量に驚いている。
それもそうだ。シオンは二人と会ってからは基本前衛、翼竜の魔物の時は二人とは別行動をしていたのだ。
「行きます!」
シオンはクラークに知らせるために発動前に叫んだ。
シオンが起こしたのは今回竜巻ではない。魔物がいる空域だけを薙ぎ払うような暴風を起こした。
それもただの暴風ではない。空気を圧縮し、空気の壁を叩き付けるような暴風だ。
そして、叩き付けながら魔物の群れの中心辺りで圧縮した空気を解放する。
圧縮していた物がなくなった途端に真空刃となって周りを切り刻んだ。
「・・・い、今だ!引けー!」
シオンの起こした殺戮の暴風を見て、思考が少し止まっていたが、下がるチャンスとみて号令をかけた。
「私たちも行こ!」
「フィーちゃんはしっかり捕まっていて下さいね」
「う、うん!」
リィナとレィナ、フィーは港から下がっていく冒険者達とは逆に、魔物へと突っ込んで行く。
二人はまだ冒険者が残っているので広範囲の攻撃は控え、冒険者の後ろから飛び掛かろうとしている魔物を中心に攻撃をしていく。
「やぁ!」
リィナは短剣に炎を纏い近くにいる魔物を斬り付けていく。
「そこ!」
レィナは走りながら水の槍を形成し、離れたところにいる魔物を貫いていく。
シオンも他の冒険者が逃げやすいように、剣で斬ったり風の魔法で撃ち抜いたりした。
少しの間、三人の攻撃は続き
「シオン君!後は頼んだぞ!」
「はい!」
どうやら冒険者達は撤退することが出来たようだ。
それからは範囲攻撃も使い、魔物の数をどんどん減らしていった。
「シオン君!何か来るよ!」
リィナから声が上がった。
海を見ると魚ではなく、大きな触手のようなものが海から出てきた。
「あれはクラーケンの!?」
シオンは本で読んだことがあったのである程度は知っていた。
クラーケンは海で出会ったら絶望と死の象徴ともで呼ばれる化け物だ。本体は姿を見せず、巨大な触手のみですべてを海に引きずり込んでしまう。引きずり込まれた者はだれも助かった者はいないと言われているほどだ。
まだ頭がある本体は出て来ていないようだが、腕だけを見ても相当大きいのがわかる。
「リィナ!レィナ!下がって!!海に引きずり込まれる!!!」
シオンは触手が二人の方へ伸びてきていたので、咄嗟に下がるように声を上げた。
二人もシオンの言葉を聞き咄嗟に下がった。
「どうやって倒そうかな・・・」
今出ている触手は4本、シオンはクラーケンという化け物相手にどう戦うか考えるのであった。
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ギリアムが黒い衝撃波を放った頃
「おお、やはり覚醒しましたか!」
ベッフェルはギリアムが放った衝撃波を見て言った。
ギリアムは空中に佇み、黒い瘴気を纏い始めている。
そしてそれを水の波紋のように薄く拡げた。
「あれは・・・。なるほど、面白い能力ですね」
黒い波紋が消えたと思ったら、遠くから魔物が海からも陸上からも波紋の中心を目指して近寄って来るのが分かった。
「あれはなんでしょうか?」
ベッフェルの近くにいたアミラが聞いてきた。
「恐らく全てを自分の物にしたいという彼の欲望が形を成したのでしょうね。今は魔物にしか効果がないようですが・・・」
そう、これが人間相手に使えるようになったら面白いことになる。ベッフェルはそう考えずにはいられなかった。
「では、彼を説得しに行きましょうかね」
ベッフェルは空中で佇んでいるギリアムに向かうのであった。




