第110話 二人目の契約
シオン達は王都アルマブルクの王城でアルバルトに報告をした後、シオン達を追いかける町の人々を避け、カイの案内で路地を抜けて無事に屋敷にたどり着くことが出来た。
屋敷の前にも数人の人達が構えていたが、暗くなってきたこともあり数は昼間より少なくなっていた。
それでも一応念のために、シオン達は裏口から屋敷へと入る。
カイとフィルジアとルシルはいつも取っている宿があるそうで、そちらへと帰って行った。
なので、シオン達はエストとエリーの他にシオンの義妹リシアとアカネ、そして予言者ラケルの三人を新たに引き連れて屋敷へと帰った。
メイドのセレンさんは最初こそ驚いていたものの、夕飯に部屋の用意等を滞りなく作業してくれた。
そしてシオンは夕飯の後、アカネに呼ばれて中庭に来ていた。
「ごめんね、シオン君」
「いや、大丈夫だよ」
この場にはリィナやレィナはいない。
精霊のサラマンダーがアカネの傍にいるくらいだ。
「話って契約のことじゃないかな?」
「・・・うん、まぁそうなんだけど」
アカネは少し頬が赤く染めていた。
「僕からは強要はしない。それは最初に言っておくよ」
「うん、シオン君を見てればそれは何となくわかってたよ」
分かっていながらアカネはシオンを呼び出した。
「ってことはアカネさんが僕と契約したいと考えているとか?」
「さんは付けなくていいよ。リシアもアカネって呼んでいるしね。それと契約のことだけど・・・あたしはシオン君のこと、好きか嫌いかで言えば好きだよ。だから契約したいと考えている」
アカネはシオンの目を見る。
「カイさんやフィルジアさん、ルシルさんにリシア。あたしは皆に助けられてここにいるの。魔人との戦いのときはシオン君達にも助けられた」
アカネは一歩シオンに近付いた。
「あたしは皆の役に立ててない。たぶんどっちについて行ってもそれは同じだと思う」
アカネはどっちについて行くかで迷っている。
それはシオンから見ても一目瞭然だった。
「あたしに出来ることはシオン君と契約して、魔人や瘴魔との戦いでお礼をするしかないと考えているんだ」
「・・・アカネは勘違いしているんじゃないかな?」
「勘違い?」
「うん。僕もそうだけど、皆はアカネが役に立っていないとかそんなこと考えていないよ、きっと」
「・・・そうかな」
「それに今の僕と契約しても精霊の力は使えないよ」
「そっか・・・。そうだったね」
シオンの中にいる精霊はまだ眠っている。
「だからもう少し考えてからでも大丈夫だよ」
シオンは最初からアカネに考える時間を上げるつもりだった。
アカネとシオンはまだ出会ってから時間も経っていないし、今のこの時間が初めての二人だけの時間なのだ。
「サラマンダー、貴方に聞きたいことがあるの」
アカネは傍らにいるサラマンダーに話し掛けた。
(なんだい?)
「あたしがシオン君と契約したら、カイさんが持っている大剣にも影響はする?」
(うん、もしシオンの精霊が起きたら、例えどれだけ離れても精霊の力は影響するはずだよ)
この話が本当ならエストの剣もエリーを介して影響するのだろう。
「そっか・・・。シオン君、やっぱりあたしと契約してください」
アカネはカイの助けになると思い決心する。
「・・・わかった」
シオンはアカネの決心に横やりを入れることをやめた。
アカネがシオンの顔に自らの顔を近付ける。
「あ、あははは・・・いざとなると恥ずかしいね」
アカネの方がシオンより二つ年上だが、背の高さはシオンの方が少しだけ高い。
だから、アカネは至近距離でシオンを少しだけ見上げる形になる。
「さすがに僕も恥ずかしいよ。エリーの時は事故だったし」
二人の顔は真っ赤になっていた。
「それじゃ、失礼します」
アカネはシオンの唇に自らの唇を押し当てる。
その時、何かが二人の間で繋がったような感覚に襲われる。
エリーの時もあったのだろうが、あの時はそれどころではなかったので気が付かなかったのだろう。
数秒後、二人はそっと離れた。
「うううぅぅ・・・やっぱり恥ずかしい!!」
アカネは耐えられなくなったか大きな声を出した。
「あははは、アカネの唇柔らかかったよ」
「もう!変なこと言わないで!!それだったらシオン君のだって柔らかかったよ!!」
アカネが暴走してくれる分、シオンは逆に落ち着いていた。
(これで契約完了だね。シオン、これからもよろしくね)
「ああ、サラマンダー。これからもよろしく」
こうしてシオンとアカネは契約をした。
これで、契約したのはエリーとアカネ、ノームとサラマンダーの二人だ。
残りの四大精霊は風と水。
場所は何処かはまだ分からないが、その内にまた誰かと契約するのだろうかと、シオンは考えていた。
二人で中庭から戻るとリィナとレィナが待っていた。
「話は終わったの?」
「まぁ、何を話していたかは予想はできますが」
二人は話の内容についてはあらかた予想がついているのだろう。
「うん、話は終わった。それと」
シオンがアカネと契約したことを報告しようとすると、アカネがシオンの前に出て静止した。
「シオン君、あたしが言うから」
「・・・わかった」
これはアカネのけじめなのだろう。
シオンはアカネに任せることにする。
「まずはリィナさん、レィナさん、ごめんなさい」
アカネは深々と頭を下げて二人に謝った。
「あたしはシオン君と契約をしました」
「「・・・・・・」」
リィナとレィナは何も言わずにアカネの言葉を聞いている。
「婚約者であるお二人に言わずに契約したことは謝ります。今回だけですのでどうかお許しください」
アカネは誠意を持って謝った。
「アカネ、私は別に怒ったりはしないよ。でもやっぱりシオン君とキスするのはちょっと羨ましいかな」
「私も怒ったりはしません。アカネさんも悩んで決めたことですから。シオン君には後で私達と約束をして頂きますので」
「・・・え?シオン君にあたしがお願いして契約したんだけど・・・」
「・・・・・・」
シオンは雲行きがおかしくなってきたことを感じ始めた。
「アカネさんは悪くありません」
「ただシオン君に私達から提案というかお願いがあるだけだよ」
「はぁ・・・」
アカネはいまいち理解が出来ずにいた。
「・・・・・・・」
シオンは嫌な予感がしてこっそりその場から逃げようとする。
「「シオン君?」」
「は、はい」
そんなシオンに二人が呼んできた。
「「どこへ行くのかな(ですか)?」」
「いや・・・部屋に戻ろうかと・・・」
シオンは嫌な予感しかしない。
そのまま部屋へ歩こうとすると、リィナとレィナに両腕を拘束されてしまう。
「アカネ、お風呂は今女性の時間にしてあるから」
「先に入っててください。私達もすぐに向かいますので」
「は、はぁ」
アカネを残し、シオンを拘束したまま二人は移動を始める。
「ねぇ!自分で歩くから離して!!」
シオンはそのままレィナの部屋まで連行されていった。
「「シオン君」」
レィナの部屋に連行されたシオンはリィナとレィナの二人に壁際に詰め寄られて逃げ出せずにいた。
「な、なにかな?」
「私達とも」
「キスをしてください」
「・・・・え?」
シオンは訳が分からなかった。
「シオン君、私達はシオン君との一日一回の口同士でのキスを所望します」
「エリーちゃんとも婚約者になったんだからこれぐらいしてほしいの」
二人の目は本気だった。
どうやらエリーとも婚約者になり、今さっきもアカネと契約の際にキスをした。
二人はシオンから特別扱いをしてほしかったのだ。
「・・・わかった。僕も二人一緒に一番っていうのも変かもしれないけど、一番大事に思っているから」
シオンはそう言ってリィナとレィナの二人の唇に軽く触れるキスをしてあげる。
「「っ!!」」
二人はびくっとなった。
「シオン君、いきなりはちょっと」
「その・・・恥ずかしいです」
シオンからの不意打ちに二人は顔を真っ赤にして照れていた。
シオンもそんな二人の仕草が可愛いと思ってしまい、顔を赤くした。
「でも、シオン君からしてくれるのは嬉しかったよ」
「ですね。いつもは私達からでしたから」
確かに戦いの時の頬へのキスはいつも二人からだった。
「これからは僕の方からもしてもいいならするよ?」
シオンは恥ずかしくはあるが、二人が望むのであればする覚悟はあった。
「「お、お願いします」」
二人は顔を赤くし俯きながら、声を揃えて答えるのだった。
二人は恥ずかしかったのかシオンから逃げるように、お風呂へと向かって行った。
「ふぅ・・・」
シオンはレィナの部屋から出て、自分の部屋へ向かおうとすると
「シオンは相変わらず大変そうだな」
「え!エスト!?」
シオンの部屋の前でエストが待ち構えていた。
「女性陣がお風呂へ行っている間、シオンと話でもしようかと来たのだが」
エストはシオンの肩に手を回してきた。
「まさかあんな話をしているとはな」
にやにやと笑いながら話し掛けて来た。
「・・・どこから聞いてた?」
「シオンが二人に連行されているのを後ろから見ていたが?」
「全部じゃん!」
「ま、誰にも言わないから安心してくれ」
シオンはエストが約束を破らないとわかっているが、精神的にどっと疲れてしまうのだった。
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「二人共遅かったね」
アカネが湯船に浸かりながら、リィナとレィナを出迎えた。
「・・・うん」
「少し刺激が・・・」
二人の顔はまだ真っ赤だった。
リィナとレィナは服を脱いで浴場に入ってきたのだが、頭が働かずに立ち尽くしていた。
「リィナさん、レィナさん・・・何かあったのですか?」
そこにエリーが身体を洗い終えてやってきた。
「ちょっとシオン君と・・・ね」
「まぁ・・・約束といいますか」
リィナとレィナはシオンとの約束の内容を言えず、黙ってしまう。
「それより二人共、身体を洗うか湯船に浸かるかした方がいいんじゃない?」
「・・・風邪引いてしまいます。それに・・・堂々とし過ぎなのでは?」
アカネとエリーに言われて二人は自分達が身体を一切隠すことをせずに立っていることに気が付いた。
「そ、そうだね」
「リィナ、先に身体洗いましょう」
「うん」
二人はそそくさと洗い場へと向かった。
「あ、皆さん先に入っていたんですね」
そこへリシアがやってきた。
「あ、リシア。先に入ってるよ」
アカネはリシアに向かって手を振った。
リシアはそのまま洗い場の方へ歩いて行く。
「・・・リシアさんも身体綺麗ですよね」
リシアは胸は大きくないものの、すらっとしていて身体のバランスがいいのだ。
「そうだね。エリーちゃんも可愛いと思うけど」
「私はまだ・・・」
エリーは自分の胸に手を持っていき俯いてしまう。
「こんなの大きくても邪魔だけだよ?」
アカネはそう言って自らの胸をポヨンっと叩く。
胸は今いる五人の女性の中でアカネが一番大きい。
「でも羨ましいです・・・」
「エリーちゃんって13歳でしょ?これからだって」
「うぅ・・・」
アカネは頑張ってエリーを励ましていた。
「あのさ、エリーちゃん」
「・・・何です?」
まだ元気がないエリーが返事をする。
「さっき言ってたけど。あの二人、シオン君と何か約束したらしいけど何だと思う?」
「えと・・・わからないです」
「んー・・・二人の恥ずかしがり方が気になるけど」
アカネは身体を洗っているリィナとレィナを見る。
「シオン君になにかされたとか?」
アカネは二人から積極的に何かをする場合はあそこまで恥ずかしがらない。
逆にシオンから何かしたらああなるのではと考えたのだ。
「シオン様はそんなことするとは思えません」
エリーはシオンが何もしていないと断言する。
「・・・根拠は?」
「シオン様だからです」
「・・・・・・」
エリーはシオンのことを心から信じているようだ。
それがわかった瞬間だった。
「私もそれぐらい信じることが出来れば、人を好きになれるのかな・・・」
アカネはシオンのことは好きだが、信じ切ることがまだ出来ないでいた。
「ふぅー・・・」
「お風呂はやっぱりいいですね」
リィナとレィナは身体を洗い終わり、湯船に浸かり始めた。
「こっち失礼しますね」
リシアはアカネの隣に入ってきた。
「でもこう見ると二人って本当にそっくりだね」
アカネがリィナとレィナを改めて見て言う。
普段は違う色の服を着るようにしているのでどっちか分かるのだが、そう言ったものがないと判別が難しいのだ。
「まぁ、双子だからね」
「父上も間違えることありますから」
どちらかというと、アルバルトは間違えることが多い。
だから普段は二人に同時に話しかけるようにしていたりする。
「・・・シオン様は?」
「「え?」」
「シオン様はその・・・間違えないのかなって」
エリーはなんとなくそこが気になった。
「・・・シオン君は今のところ間違えていないかな」
「そうですね・・・今のところは」
シオンは個別に呼んだりするが間違えていない。
「兄さんはちゃんと二人を見ていると思いますけど。ほら、瞳の色は違いますし」
リシアはシオンはちゃんと二人を見て区別していると考えている。
瞳もリィナは橙色、レィナ淡い青色をしている。
「でも、こうも似ているとわからないと思うんだけど。明るい場所ならともかく、暗い場所だと瞳の色なんて見えないし」
アカネは二人の瞳を見ながら言った。
「シオン君なりの見分け方があるのかな?」
「どうだろう・・・。あ、そうだ!ねぇレィナ!」
リィナが目を輝かせながらレィナに話し掛けた。
「試そうっていうのですか?」
「そう!」
目を見た瞬間にそうだろうとレィナは思っていた。
「騙している気がして気が進まないのですが」
「でも、シオン君が普段私達をどれくらい見てくれているか分かる気がしない?」
「それは・・・そうかもしれませんね」
レィナもだんだんやる気になってくるのだった。
それからどうやってシオンに間違えさせるかを相談する話に発展していく。
「普段の服を入れ替えて着るとかしてみる?」
「でも、それだとありきたりのような気が」
「その口調も変えた方がいいんじゃない?」
リィナとレィナが相談していると、アカネも意見を言ってくる。
「確かに口調を変えないとすぐにばれそうですね」
レィナはアカネの意見を取り入れる。
「その・・・位置取り・・とかは?」
エリーが自信無さげに会話に入って来る。
「位置取り?」
「その・・・いつもリィナさんはシオン様の右腕、レィナさんは左腕に抱き付いてます」
「あ、確かに」
「最初の時からそうだったので、自然とそっちに行くようになっていましたね」
こうしてシオンを騙そうの会は湯船の中で繰り広げられていた。
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「シオン、そういえばお前、剣はどうすんだ?」
「それをどうしようか悩んでいる所だよ」
シオンとエストはシオンの部屋で話していた。
「あの剣って精霊にもらったものだったんだろう?」
「うん、精霊の里のアレティア様から貰ったものだから、代えが無いんだ」
シオンの剣は魔人ベッフェルとの戦いで半ばで折れてしまい、中にあった精霊石も砕けてしまっていたのだ。
「この町の武器屋では良いのはないのか?」
「魔法剣がおいてある武器屋はあるけど、精霊魔法の剣は無いんだ」
「それもそうか」
そう、シオンが使っている武器は精霊魔法の効力を上げる効果がある魔法剣なのだ。
精霊魔法が使えない人間社会にそんな武器は置いてあるわけがなかった。
「シオン、それなら作ることは出来ないの?」
フィーがシオンの目の前に跳んできながら話し掛けてくる。
「いい材料が在れば出来なくはないけどすぐには」
「そっかぁ・・・」
(シオン!助けて!)
三人で話しているとシオンの目の前にノームとサラマンダーがいきなり姿を現した。
「どうしたの?」
「ん?どうした?」
エストはシオンがいきなり虚空へ話し掛けたので疑問に思った。
(エリーが!皆が!!)
「何だって!?」
ノームの慌てる声にシオンは立ち上がった。
そしてすぐにエストにセレンさんを探しに行ってもらい、シオンはノームとサラマンダーの案内で皆を助けに向かった。
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シオンは急いでノームとサラマンダーの後を追っていく。
そしてたどり着いた場所が
「・・・え?ここ?」
(シオン!早く!!)
「わ、わかった」
シオンは仕方がなくたどり着いた場所、風呂場の脱衣所へ入っていった。
しかし、脱衣所には誰もおらず、皆が着ていただろう服や下着が置いてあった。
(シオン!こっち!!)
案の定、ノームとサラマンダーは浴場の方へと向かって行く。
「皆!開けるよ!」
緊急事態ならまずいと考え、シオンは声を一応かけてから浴場の扉を開けた。
「み、みんな!?」
皆は湯船の中で崩れるようにして倒れていた。
幸いにも顔は皆湯船から出ている。
「エリー、ごめんね」
シオンは一番年少のエリーから助けることにする。
もちろんエリーは服を着ておらず、産まれたままの姿だ。
できる限り見ないようにして、シオンは服が濡れるのも構わず湯船に入り、エリーを抱えて脱衣所の方へ移動させる。
そして、エリーを寝かし、タオルで身体を隠してあげる。
「よし、次!」
シオンはこうしてリシア、リィナ、レィナ、アカネの順で、皆の産まれたままの姿をできる限り見ないようにしながら助けた。
この時、胸はやはりアカネが一番大きかったのをシオンは確認してしまっていた。
「みんな・・・ごめん」
シオンは気絶している皆に謝った。
その後、すぐにセレンが駆け付けてくれた。
どうやらエストがシオンが浴場の方へ走って行くのを確認していたので、大体の場所はわかっていたとのことだった。
皆はただのぼせてしまったみたいで、命に別状はないとのことだった。
因みに助けたのはシオンではなく、セレンだということにしてある。
こうしないと色々と後が面倒なことになりそうだったからだ。
「セレンさん、ありがとうございます」
「いえ、シオン様が気にすることではありません。それにリィナ様とレィナ様のお身体は何回か見たことあるのでしょう?一回二回増えても大差はないかと」
「・・・・・・」
セレンは結構きついことも言うのだなと思ったシオンだった。
「それと申し訳ないのですが、皆さんを運ぶの手伝って頂いてもいいですか?」
「それぐらいでしたら」
「私も手伝いましょう」
「ありがとうございます」
シオンとエストはセレンが服を着させた皆をそれぞれの部屋のベッドに寝かせるのだった。




