第108話 王都へ帰還
この話から第五章となります。
「儂も付いてきてよかったのか?」
「何を言っているのです。ラケル殿には私達、王族が不甲斐ないばかりに追放されてしまった。助けるのは当たり前でしょう」
「私もラケルお爺ちゃんのこと心配していたんだよ」
「・・・エルネスト様、エスカリーテ様、このようなご老体の心配をして頂けるとは、儂は幸せでございます」
シオン達はホロスの町に向かう前に遺跡にいた予言者ラケルと合流した。
そして今、バレスと王都アルマブルクの境の町ホロスの町から馬車二台で王都アルマブルクへと走らせている最中だ。
御者にお金を払おうとしたのだが、リィナとレィナがアルマブルクの双子王女と知っている者と、エストとエリーがバレスの王族と知っている者が御者の中におり、無料でアルマブルクまで送ってくれることになった。
馬車の内訳は一台目の馬車にシオン、リィナ、レィナ、エスト、エリー、ラケルが乗り、二台目の馬車にリシア、カイ、フィルジア、ルシル、アカネが乗っている。
リシアはシオンと一緒に乗りたいと駄々をこねたが、エストとエリーがラケルと話がしたいとお願いをして、仕方がなく別の馬車に乗ることを了承した。
「シオン殿、リィナ殿、レィナ殿、エルネスト様とエスカリーテ様をお救い頂きありがとうございます」
ラケルはバレスからエストとエリーが逃げて危ないところを助けてくれたことに感謝をしていた。
「いえ、当たり前のことをしただけですから」
「うん、目の前で困っていたら助けるのは当たり前だもん」
「それに、二人にも私達は助けられましたので」
魔人との戦いでは二人がいなかったら確実に死んでいただろう。
それに、シオン達にとっても、エスト達にとってもお互いに大事な友人になっている。
皆にとって、この出会いは運命のように感じていた。
「本当にありがとう」
ラケルは涙を流しながらもう一度感謝の言葉を言うのであった。
「エスト、気になってたんだけど、ホロスに残らなくてよかったのか?あそこからならバレス復興の支援とかやりやすいと思ったけど」
シオンはバレスを取り戻した後、復興に力を入れると考えていたのだ。
「ん、なんだ。シオンは私に向こうに残ってほしかったのか?」
「いや、一緒にいてくれた方がいろいろと助かるけど」
「いろいろとねぇ・・・」
エストは周りの女性陣を見た。
その行動でシオンの思惑が見抜かれていることを確信する。
「・・・言うなよ」
「わかっている」
シオンとエストのやり取りにリィナとレィナ、エリーは首を傾げていた。
ラケルはエストの行動で察しは付いたようだ。
「シオン殿は大変なんじゃな」
「どういうこと?」
「・・・わかりません」
「・・・シオン君、まさか」
リィナとエリーは分かっていないままだったが、レィナはラケルの言葉で何かに感付いたようだ。
「ラケルさん、あまり余計なことは」
「わかっておる」
ラケルは笑いながらシオンに言った。
「それより、なぜ残らなかったかだったな。まずは人材だ」
「・・・あ、そういうことか」
「そうだ。バレスの人々はホロスの町に逃げ込めた人も数人いたようだが、国をまとめていた人材は全て死んでしまった。王族の私達がいたとしてもすぐに復興など出来ない」
「人材も足りなければ、町の修繕も出来ないってことか」
「でもそうなるとバレスの復興なんて出来ないんじゃないですか?」
シオンとレィナはエストの言葉の真意が分からなかった。
「私も最初はバレスを取り戻したら復興したいと考えていた。だが、バレスにいた魔人の一部は倒したが、逃げた奴もいる。瘴魔も出るのに復興のためだからといって、無駄な犠牲は払うわけにはいかない。それなら今は諦めるしかないだろう」
「エルネスト様・・・」
ラケルはエストの顔を見て少し悔しそうな顔をした。
「安心してほしい、ラケル殿。完全に諦めたわけではない。今は魔人という脅威を払うのが先決というだけだからな。魔人と戦うのならシオン達に協力するのが一番だ」
どうやらエストは今後もシオン達に協力してくれるようだ。
「わ、私も頑張ります」
隣でエリーもやる気を出していた。
「シオン君、気になっていたんだけど、二人は魔人というか瘴魔と戦えるの?精霊は眠ったままなんでしょ?」
「・・・今はあの時の感覚はないから難しいと思う」
シオンはマナを確認するが以前と変わった気がしなかった。
(たぶん、精霊が起きないと難しいよ)
「あ、やっぱりそうなんだ」
ノームが教えてくれた。
(僕達みたいに活動できるのには少し時間がかかるかもしれないね)
「それってどういうこと?」
リィナがノームに聞く。
(精霊にも子供や赤ちゃんっているんだ。下位精霊っていうんだけど、本来は意識があるかないか分からない状態なんだ。そこから時間をかけて徐々に自我が濃くなって僕達みたいになるんだけど、シオンの中にいる精霊は力は高位精霊と変わらないだろうけど、精神的には子供って感じかな)
「それって子供みたいなお世話をするかもしれないってことですか?」
レィナがノームに質問をする。
(かもしれないね)
ノームは平然と肯定した。
「その・・・なんだ、シオン、頑張れよ」
「わ、私もお手伝いしますから」
「それなら私達だってするよ!ね、レィナ!」
「そうですね。シオン君と子育てしてみたいですし」
エスト以外の人は色々手伝ってくれそうで一安心するシオンであった。
その後、途中の宿場町で何度か宿を取り、休憩しながら一行はアルマブルクを目指した。
最初の宿場町まではエストとエリーのお願いで遠慮をしていたリシアだったが、二日目からラケルが譲ってくれて、シオンと同じ馬車に乗れることになった。
シオンとしては色々と大変だったが、久々に密な話をリシアとすることができ嬉しく思った。
この時のリィナとレィナ、エリーの無理やり会話に入って来ようとしたりして、ごたごたになった時もあったが、そこはなんとエストが助け船を出してくれていた。
シオンは同性の友人がいることに、この時が一番嬉しく思う瞬間だった。
そんなこんなしている内に馬車は王都アルマブルクへ到着しようとしていた。
「皆さん、着きましたよ」
御者の人が王都アルマブルクに到着したことを知らせてくれた。
「御者さん、ありがとうございました」
シオン達は馬車を降りながら、御者にお礼を言った。
「いえ、こちらとしても皆様とお会い出来、嬉しく思っております。道中の魔物にも対応して頂き、ありがとうございました」
馬車で走っている最中に何回か魔物の襲撃にあったが、面子が面子なので、たいした苦労はしていない。
だが、感謝されることは純粋に嬉しく感じた。
「ここが王都・・・」
「大きいね」
後ろの馬車から降りたアカネとリシアは初めて見る王都に圧倒されていた。
「そういえばリシアは初めてだったか」
「以前は寄らずに通り過ぎたからね」
フィルジアとルシルが二人の様子を見て話している。
「えっと、この後どうする?」
シオンは周りの皆に尋ねた。
「このまま父上に報告した方がよくないかな?」
「まだ時間もありますし、その方がいいかもしれませんね」
リィナとレィナが答える。
「俺達はシオン達に合わせるぞ」
「私達もそれで構わない」
フィルジアやエスト達はシオンの意見に合わせるそうだ。
「それなら城へ行こうか」
シオン達はそのまま城へ徒歩で向かうことにする。
だが、この行動が凄い騒ぎになるのだった。
『わぁーーーーーー!!!』
「お帰りなさーい」
「よくやってくれた!」
「帰って来たということはそういうことだろう?」
「だよな!!」
「これでもう安心ね!」
『わぁーーーーーー!!!』
少し町中を歩くと周りの人々がシオン達に気付き、騒ぎながら押し寄せてきた。
「な!なにが!?」
「ちょっと!押さないで!」
「私じゃありません!」
シオンとリィナ、レィナは周りの人々から押され、もみくちゃされていた。
「おい!シオン!何なんだこれは!」
「変なところ触らないで下さい!」
「うぅ・・・兄様」
「大丈夫だからエリーはここにいろ」
皆も皆で巻き込まれているようだ。
「えとえと、えい!」
頭上の方でフィーの声が響いた。
すると人々は騒ぎながら他の方へと向かっていく。
フィーが幻術を使ったのだ。
「シオン!今のうちに!」
「あ、ああ、ありがとう。皆!こっちに!」
シオン達は人々走って行ったのと反対の路地の方へ飛び込んだ。
「はぁ・・・今のはなんだったんだ?」
カイはシオンに問いかけた。
「はぁ・・はぁ・・たぶん僕達がいたからだろうけど」
シオンも大体の予想は出来ている皆はそれぞれで肩で息をしていた。
「た、たぶん父上が何かやったのかも」
「それしか・・はぁ・・考えられませんね」
「・・・どういうことだ?」
リィナとレィナもシオンと同じ考えのようだ。
「それより何処かに隠れた方がよくないですか?」
リシアが周りを警戒しながら言った。
「隠れるって言ったって・・・この辺りは知らない場所だし」
「私も路地になんて入らないから」
「それは私もです」
シオン達三人は王都の大通りしか基本的に行かないので、裏道なんてものは知らないのだった。
「ん~・・・城に行きたいんだろ?」
「まぁ、そうですけど」
「ならこっちだな」
カイはそう言って歩き出した。
「え?カイさん知っているの?」
「あぁ・・・そういえばお前はこういう道はほとんど知ってるって自慢してたな」
「そうね。しかも理由が小さい頃にいたずらをして逃げるうちに覚えたって言っていたわよね」
「まぁな!」
カイは自慢気に胸を張って言った。
「え?それって自慢することなの?」
「違うと思うぞ」
「兄様と・・・同意見です」
アカネやエスト達を始め、カイ以外の皆が呆れていた。
「でも知っているなら案内お願いします」
シオンは今は早いところ城へ向かった方がいいと考える。。
「そうですね。城へ入れさえすれば、追い回されずに済みそうです」
そこへ
「おお!お前さん達!ここにおったか」
そう言いながらラケルが姿を現した。
「あれ?ラケルさん?」
「そういえばラケル殿は囲まれていなかったな」
「なんとかそれは避けたが、危うく人の波で迷う所じゃったわい」
ラケルは人の波に呑まれ、シオン達が入った方と違う方角へ行ってしまっていたようだ。
とにかくラケルも無事に合流し、カイが城まで路地の道程を案内をすることになった。
だが、シオン達の考えは甘かったことに後に気付いた。
「うわぁー」
「城門の所、人がいっぱいだね」
リシアとアカネが陰から覗き込み呟いた。
「ごめんなさい、遠く離れちゃうと幻術が解けちゃうの」
フィーは謝ってきた。
「いや、フィーは悪くないよ。フィーがいなかったらもっとだが大変だったし」
「それに最初の人だけじゃないな。あの数は」
確かに最初に囲まれていた時より数が多いような気がした。
「この様子だと私達の屋敷にも人が集まっていそうですね」
「それはやだなぁ」
レィナの言うとおりその可能性は高かった。
「それなら屋敷より城へ入った方がいいんじゃね?忍び込めるし」
『・・・え!?』
カイの言葉に皆は目を丸くする。
「カイ、今のはどういう意味だ?」
「は?そのままの意味だ」
「どうやって忍び込むのよ。城壁で周りは囲まれているし、門には町の人がいるのよ?」
フィルジアとルシルに問い詰められるカイ。
「ま、付いてこいよ」
そう言ってカイは門とは正反対の方へ歩きだした。
「確かあの辺に・・・」
カイは城壁の隅まで来ていた。
そして、到着するやいなや、上の方を見上げ、何かを探し始めた。
「ねぇ、リィナ、レィナ」
「なに?」「何ですか?」
「この向こうって何があるの?」
「えっと・・・何があったっけ?」
「この向こうは倉庫だったはずです」
シオンの質問にレィナが答えてくれる。
「お!あった!」
カイは何かを見つけて跳躍して3m程の高さにある窪みに手を引っかけた。
「よっと!」
その窪みの近くにある壁に手を押し込むと、壁が奥に向かってずれていった。
「「へ?」」
リィナとレィナは有り得ないものを見たという顔だ。
他の皆も唖然としている。
「こっから中に入れるぞ」
上からカイが呼んできた。
「えっと・・・入っていいのですか?」
リシアはリィナとレィナを見て尋ねた。
一応、王女である二人の許可がほしいのだろう。
「・・・今回はいいんじゃない?」
「ですね。緊急事態ということで」
二人も今はそれで納得することにした。
「取り敢えずあそこまで身体強化して跳ぶけど、出来ない人は・・・ラケルさんぐらいですか?」
「そうじゃな。この老体にはちときつい」
「ならラケル殿は私が運ぼう」
エストが志願してきた。
「あの・・・私もちょっと自信が・・・」
身体能力が低いエリーも小さな声で手を上げて言ってきた。
「ならエリーはシオンに運んでもらえ」
「え!?・・・その・・はい」
エリーはエストの言葉に驚きつつも頷いた。
「嫌だったら別の人でもいいんだよ?例えばリィナとか」
「なんで私?」
「同性だし、レィナと比べたら前衛で戦っているから、跳躍とか慣れているかなと」
「まぁ、そうだけど」
「し、シオン様でお願いします!」
エリーは勢いよく頭を下げてお願いをしてきた。
「うん、わかった。じゃあちょっと失礼するよ」
シオンはそう言ってエリーをお姫様抱っこした。
その瞬間、エリーの顔が真っ赤に染まった。
「シオン君、後で私達にも」
「是非お願いします」
リィナとレィナはエリーに対抗心を燃やして言ってきた。
「後でね」
シオンは今は適当に流すことにした。
服装的な関係状、最初にフィルジア、エストとラケルが入り、次にシオンがエリーを抱えて入った。
そのままアカネ、リィナ、レィナ、リシア、最後に女性の年長者のルシルが入っていった。
「確かに倉庫だね」
周りには武器や鎧、何かに使うであろう物が沢山積まれていた。
「なんでカイはこんな道を知っているのよ」
ルシルがカイに問い詰める。
「忍び込んだことがあるからに決まっているだろ?逃げる時に使ったんだ」
『・・・・・・』
またもや皆は絶句した。
「あ!カイさん!その忍び込んだのっていつぐらいですか?」
レィナは何かを思い出したかのようにカイに尋ねた。
「どれぐらい前だっけなぁ。確か10年ぐらい前だった気がする」
「そうなると・・・やはりあの騒ぎの犯人はカイさんということでしょうか」
レィナは確信したように言った。
「カイさん、その時、何も盗っていないのですよね?」
「ああ、中がどうなっているか見たかっただけだからな」
10年前というとレィナはまだ5歳か6歳あたりだろう。
「リィナは覚えていませんか?賊が入ったって騒ぎになったことを。幼かった私達を兄上の部屋に匿われたこと」
「あ、あぁ!あったね、そんなこと」
レィナの説明でリィナも合点したようだ。
「でもよく逃げ出せましたね。結構な兵士や騎士が動いたと聞いていましたが」
「ん?いやなんかごっついおっさんに助けられてな」
「「ごっついおっさん?」」
リィナとレィナは意味が解らず聞き返してしまった。
「あぁ、そのおっさんも逃げている最中だったから、一緒に逃げさせてくれたんだ。やたら城の中について詳しくてな。そのときにこの秘密の通路を教えてもらったんだ。助かったぜ」
カイの言葉にシオン、リィナ、レィナは固まった。
他の人はそのおっさんが騒ぎの本当の犯人と思っているかもしれない。
「・・・レィナ、もしかして」
「ですね。あの頃も放浪癖がありましたし」
「やっぱり」
レィナの言葉でシオンは確信した。
「でもあのおっさん、あれから会わないからお礼言えてねぇんだよな」
カイはそこが不服だそうだ。
「この後言えると思うよ」
「ん?どういうことだ?」
シオン達はそのまま堂々と国王アルバルトがいるであろう謁見の間へと歩いていった。
途中、メイドとか城の者に見つかったが、特に囲むことなく挨拶をしてくれるだけだった。
騎士や兵士が少ないのは、町の人々の対応で城門の方へと出向いているからだろうか。
とにかく、城壁の内側へ入れたシオン達は謁見の間の扉を開けるのだった。




