第104話 親子の死闘
エストはエスカーンに向かい駆け出す。
エスカーンもエリーの精霊魔法による土砂の波を跳躍で回避して、エストの方を向いていた。
エストは今まで両手で剣を持っていたが、それを右手のみで持ち直す。
走りながらエストは右手を身体の左側に捻るようにして構えた。
エスカーンは攻撃が来るの迎撃しようと剣をエストに向けて構える。
「行くぞ!」
エストはノームの力を借り、地面を更に強く蹴り、速度を一気に上げた。
エスカーンに向かい、速度と身体を捻った反動を利用し、高速の剣を走らせる。
エスカーンはそれを身を僅かに引いて回避する。
エストの剣は虚しくもエスカーンの服を切り裂いて終わった。
そして、剣が通り過ぎると同時にエスカーンはエストに剣を振り下ろした。
キン!!
エストを斬り裂こうとした剣はエスカーンの後方に飛ばされた。
エストは避けられること前提で剣を全力で振り、エリーから預かった短剣を左手でエスカーンの剣の柄を狙い突き出したのだ。
捻る様に剣を構えたのは全力で振ると見せるため、そして、短剣をエスカーンの目から身体で隠していたのだ。
エストは振り切った右手の剣を斬り返し、エスカーンの右肩から左腰あたりまで一気に斬り裂く。
エスカーンは咄嗟に身を引いて完全に斬り裂かれるのを免れたが、黒い液体を体内からこれでもかって程垂れ流していた。
エスカーンは後ろに飛ばされた剣に手を向けるとエスカーンの元へと剣が飛んで行った。
「どんな魔法だ?それは」
エスカーンの持っている剣にエストは見覚えがない。
恐らく魔人から授けられた剣だろう。
エスカーンは傷も治りきらないままエストに斬りかかる。
だが、傷の影響なのか先程より鋭さは落ちていた。
「ふっ!」
エストはエスカーンの剣の側面を撫でるようにして逸らし、そのまま胴体を斬り裂く。
霞、エストがエスカーンに教わった技の一つでシオンも真似事で使った技だ。
エスカーンはそれでもまだ剣をエストに向かって振って来る。
通常の人間ならすでに立てなくなっているはずだ。
「いい加減にしろ!」
エストは剣を紙一重で避けて左手の短剣で右足を斬り裂こうとする。
しかし、エスカーンは脅威の身体能力で剣を振るい、短剣の攻撃を僅かにずらした。
結果、右足の太腿辺りを浅く斬るだけに終わった。
だが、エストは右手も同時に剣を走らせ、エスカーンの右腕を斬り飛ばしていた。
エスカーンは左手だけで剣をエストに向かって振り下ろす。
エストは回避が間に合わずにそれを剣で受けてしまい、弾き飛ばされてしまった。
「兄様!」
エリーの声がしたと思った時はエスカーンの周りに巨大な岩が蛇のように生えていた。
「ごめんなさい・・・父様」
エリーがそう呟くと岩の蛇が動きを鈍くしたエスカーンに向かい四方から押し寄せて潰してしまう。
岩の隙間からは次々と黒い血が流れ出て来ていた。
「うっ・・・ぐす」
エリーは泣いていた。
それを見たエストも胸に込み上げる気持ちに目頭が熱くなってきた。
「父上・・・」
ドガァン!!
エストが呟いた瞬間、エスカーンを押し潰した岩が弾け飛び、中からエスカーンが剣を構え、エリーに突っ込んでいった。
「しまった!エリー!!」
エストは急ぎ追いかけようとするが到底間に合わない。
「え?」
エリーの眼には涙が溜まっていて判断が遅れてしまった。
すでにエスカーンはエリーの目の前に迫っていた。
「っ!!」
エリーは死を覚悟して眼を瞑った。
その時に頭の中に過ったのは優しかった父との記憶、今はもう無き光景だった。
兄であるエストと父親のエスカーンでの模擬戦している光景。
エストはエスカーンに遊ばれているように全然太刀打ち出来ていなかった。
エストはそれでもエスカーンに立ち向かい、何度もやられては立ち上がり、それを何回も繰り返していた。
エリーはそんな光景を嫌っていうほど見続けていた。
だから兄であるエストの強さは知っている。
そういえば、エスカーンはそんなエストに毎回かけている言葉があったのを思い出した。
「強さを求めるのに力を付けるのは悪くない。だが、それだけでは本当の強さを手に入れることは出来ない。お前はそれをわかっているはずだ。だが、大事だからこそ敢えて言い続ける。本当の強さを手に入れるには」
エリーを襲うはずの痛みはいつまでたっても来なかった。
薄っすらとエリーは目を開ける。
そこにはエリーの胸の手前でカタカタと震える剣の切っ先と、涙で顔を濡らしたエスカーンの顔があった。
「え?」
エリーは訳が分からなかった。
現にこちらに走って来ようとしていたエストも目を丸くして驚いていた。
「エリー・・・無事・・・か?」
「っ!!」
信じられないことにエスカーンがエリーの心配をしてきたのだ。
「とう・・・さま?」
エリーは更に涙が溢れてくる。
「・・・無事ならいい。早く逃げろ。いつまでも止めてられん」
エスカーンは今、気力だけで己の身体を止めている状況だ。
グールは死体を操るだけでなく、その魂もそこに結び付けて侵して操るのだ。
エスカーン程の強い意志の持ち主だからこそ出来た芸当だった。
「くそ!面白くねぇ。まさか支配を抜けるとは・・・。それなら」
その光景を見ていたイマーゴは舌打ちをして、何かをやり出そうとしていた。
「父様・・・」
エリーは固まっているエスカーンから少し離れた。
「はぁ・・・はぁ・・・それで、いい。・・・エストはいるか?」
エスカーンは苦しそうにして呟く。
「・・・ここに」
エストは近くで剣を構えながら返事をした。
「エストよ・・・。覚えて・・いるか?私の・・・言葉を・・・」
「・・・はい」
「なら・・・私を斬れ」
エスカーンは自分を斬れと懇願してきた。
エストは無言で剣をエスカーンの首を狙うように構え直す。
「っ!」
エリーはその光景を見て何かが込み上げてきて声が出なくなった。
「・・・自分の信じた道を貫く。それがどんな結果であろうとも・・・。私はエリーを守ると誓った。それを邪魔する者は斬り伏せる。例え・・・父であっても」
エストは自分に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「それで・・・いい。二人共・・・ぐっ!!」
エスカーンは途中いきなり苦しみだした。
「父上!?」「父様!?」
エストとエリーは驚き声を上げる。
「まったく、手間が掛かりやがるぜ」
そう言いながら降りてきたのはイマーゴだった。
「こいつはなぁ、俺の最高傑作なんだよ。それを壊す?こんなところで壊されてたまるかっての!おら!本気を出しやがれ!」
ドクン!
エスカーンから瘴気が溢れ出てくる。
「こいつは特別製でな。ただのグールじゃないんだわ」
エスカーンはそのまま瘴気に飲まれ変質していった。
瘴気が晴れ姿を現したのは、全身を黒い鎧で覆った騎士のような姿のエスカーンだった。
「さて、こいつの性能を確かめようか・・・。いや、今のこいつらではつまらないか」
イマーゴは傷だらけのエストとエリーを見て言った。
「そうだな・・・。お前達には更に絶望に合わせるのも面白いか」
イマーゴは一人でぶつぶつと何かを言っている。
「よし!今日は退散してやる。お前らの父親は俺が預かっておいてやるよ!」
「なんだと!」
エストは怒りのこもった眼でイマーゴを見る。
エリーも泣きそうな顔でイマーゴを睨んだ。
「もしかしたら次も父親と会話できるかもな」
そう言ってイマーゴは空中へと飛んだ。
エスカーンもそれについて行くように空を飛ぶ。
「父上!!」
「無駄だ。今は完全に俺の制御下だ。声なんて届かねぇよ」
イマーゴは嘲笑うように離れていった。
「そうだ。あれも回収しないとだな」
そう言って黒龍にも命令を下す。
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「くっ!カイ!大丈夫か!?」
フィルジアは障壁を張って、黒龍が出した黒い液体の砲弾の嵐を防御した。
「なんとかなぁ!!」
カイは障壁を張ることは出来ないので、当たりそうなのを全て大剣で迎撃していた。
そして、黒龍の前足を切り裂く。
だが、黒龍は平然としカイの方を向き、口を大きく開けてきた。
「カイ!ブレスだ!」
フィルジアはカイに向かって叫んだ。
「っち!」
カイは急いでその場を離れる。
ブレスを避けるための距離を稼ぐためだ。
黒龍がブレスを吐こうとした時、いきなり動きが止まった。
「な、なんだ」
「・・・・・・」
カイとフィルジアは黒龍の様子を見続けた。
黒龍はそのまま空を飛び、イマーゴの元へと向かった。
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「それじゃあ俺の用事は済んだ事だし、帰らせてもらうわ」
イマーゴはエストとエリーに向かって言った。
二人はイマーゴの近くに黒龍も来たため、何も言えずに見ることしか出来なかった。
イマーゴの手にはベッフェルが持っていた瘴玉の完成した物が握られていた。
「そうだ、一つ教えてやる。ベッフェルの奴、恐らくもうあれ壊れてるぜ」
「・・・どういうことだ」
エストは意味が解らず聞き返す。
「あいつは元々人間が好きだったんだよ。封印が解けてからの奴はまるで別人だ。俺はなんとなく原因に予想が付いているがな」
イマーゴは話し続ける。
「ま、今となっちゃ遅いけどな。壊れている奴の相手には注意をしろってことだ。じゃあな」
「・・・・・・・」
イマーゴはエスカーンと黒龍を連れて、飛んで行ってしまった。
「魔人が人間を好きだった?・・・どういうことだ」
エストはイマーゴの言葉の意味が解らず、呟くのであった。
「エストー!エリー!無事かー?」
遠くからカイとフィルジアが二人を呼びながらこちらに歩いてきた。
「・・・兄様、向こうにいきましょう?」
「・・・そうだな」
二人はお互いに肩を貸しあって歩いていった。
ドガガガガガガガ!!!
「な!なんだ!?」
カイ達の方へ歩いている途中、凄く大きな音が聞こえてきた。
音がした方を見ると、煙のような物が立ち上っていた。
「あっちって・・・シオン様!」
エリーは身体に鞭を打ち、音がした方向へと走り出した。
「エリー!っち!私も向かうか」
エリーはエストの声が聞こえていないようだったので、エストも追いかけることにした。
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「今のは・・・」
「なんか嫌な予感がするな」
カイとフィルジアも音の鳴った方を見ていた。
「あいつら、行っちまったぞ」
「仕方がない。こっちもリシア達に知らせてから向かうかどうか決めよう」
「じゃ、とっとと戻ろうぜ」
カイとフィルジアはアカネを介抱しているリシア達の場所へ戻っていった。




