第103話 魔人の脅威
「シオン、私は父上と戦わせてもらうぞ」
エストはかつてないほど怒りに燃えていた。
死んだ父親を魔人に操られているのだ。当たり前だろう。
「・・・わかった」
シオンが頷くと
「私も戦います!」
エリーが目に涙を溜めて言ってきた。
「私の父様はあんな顔をしないもん。楽にしてあげたい!」
エリーも父親の死を受け入れていた。なのに今、魔人によって目の前に立たれているのが許せないのだろう。
「わかった。だけどグールとなっているなら注意して」
「もちろんだ」
シオン達が話しているといきなり周辺に巨大な影が落ちる。
ズドン!!!
地響きをたてて来たのは例の黒龍だった。
「こいつも俺の作品の一つだ。ぜひ遊んでやってくれ」
イマーゴがそう言うと黒龍がシオン達の方へ歩き出す。
「シオン!あいつは俺達に任せろ!」
「お前達は魔人を頼む!」
カイ、フィルジア、リシア、ルシル、アカネの五人が黒龍に向き合う。
「私達は魔人二人だね」
「リィナ、油断はしないように」
そう言いながら二人はシオンの頬にそれぞれキスをしながら言った。
「僕もできる限りフォローはするよ」
シオンの攻撃は魔人に届くか分からないので基本的にリィナとレィナの二人に任せることになってしまう。
シオンとしては心苦しいがそうするしか方法がなかった。
ベッフェルは徐々に近づいて来ているがイマーゴの方はエスカーンの方を見ているだけで、動こうとはしなかった。
「・・・イマーゴ?」
「わりぃが最初は向こうの観戦させてもらうぜ」
「・・・好きにしてください。私一人で十分ですから」
ベッフェルは一気に加速してシオン達に肉薄していった。
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「まさかこんな形で父上と戦うことになるとはな」
エストはゆっくり歩いて来るエスカーンを見て言った。
「兄様・・・私もこんな形で戦いたくはないです。でも」
「わかっている。早く楽にしてあげよう」
「はい」
エストは剣を構える。
エリーも普段は使っていなかった短剣を抜き構えるのだった。
エスカーンはある程度近付くと急激に加速してエストに肉薄しようとする。
しかし、エストもそれを見越してすでに踏み込んでいた。
二人の剣は激しくぶつかり合い甲高い音を辺りに撒き散らした。
「くっ!」
最初は互角だと思ったエストだったが徐々に押され始める。
「兄様!」
エストはエリーの声を聞き、一瞬の隙をわざと作る。
エスカーンはそこへ剣を振ろうとするが
ガン!!
地面から石の槍が生えてきたので、バックステップで回避をした。
「兄様、大丈夫ですか?」
「すまない、エリー。助かった」
エストはあのまま戦っていたらすでに負けていただろう。
エリーもそれを察し攻撃を入れたのだ。
「やはり父上は強いな」
エストの剣技はエスカーンから教わったものだ。
例えグールになってもその剣技に衰えは見えなかった。
エスカーンはもうこちらへと駆けだそうとしていた。
「正面からが無理なら」
エストはまた飛び出す。
先程は正面からの攻撃していたので、エスカーンの攻撃を紙一重で躱し、背後に回り込むようにして剣を振るう。
「回天」
これもエスカーンから教わった技の一つだ。
相手の攻撃を避けた勢いを乗せた一撃を放つ技。
しかし、エスカーンは前に体を倒してエストの剣を回避する。
「・・・」
エスカーンは剣を地面に叩きつける勢いでエストのいる後ろへ身体を反転しながら振る。
剣先は一瞬地面に引っかかり止まるが、次の瞬間、跳ね上がるように一気に加速してエストを襲う。
「っ!」
エストは間一髪でその攻撃を回避する。
跳撃、地面に敢えて接触させタイミングをずらし、加速させる技。
エスカーンはグールになっても技は覚えているようだ。
エストは次の攻撃が来る前に地面に足を強く叩きつける。
すると地面が隆起しエスカーンの前に壁ができる。
「はっ!」
その壁を剣で突き、瓦礫をエスカーに飛ばす。
至近距離でその攻撃は避けれないはずなのだが、エスカーンは高速に剣を振り、すべてを斬り落とした。
そして、その勢いのままエストに斬りにかかる。
「くっ!!」
エストは剣で防御するが押し切られそうになり自ら後ろへ跳んで衝撃を逃がす。
エスカーンはそんなエストに止めを刺さんとばかりに追撃をしようとする。
「させない!」
エリーが創り出した土砂の波にエスカーンは飲まれそうになるが、高く跳躍して躱した。
「兄様!」
エリーがエストの近くに駆け寄った。
「はぁ・・・はぁ・・・大丈夫だ」
エストは先ほどの攻撃で手が痺れていた。
「兄様、これを」
「しかしこれは」
「大丈夫です、その・・・持っていなくても大丈夫だそうなんで」
エリーの傍らではノームが頷いている。
エストにその姿は見えないが、エリーから受け取った物を伝い、声が聞こえたような気がした。
「わかった。ありがとう」
そう言ってエストは再びエスカーンと対峙した。
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「はぁあ!!」
カイが大剣を大きく振るとそこから青白い炎が伸びて黒龍を包み込んだ。
本来ならそれで大ダメージが与えられるはずだが、グールとなった黒龍にはほとんど効いていなかった。
ひゅんひゅん!
黒龍の心臓があるだろう場所をめがけてフィルジアが放った二本の矢が不規則な円を描き飛んでいく。
そして、心臓がある辺りに当たるとその場所だけに暴風が起こり削り取った。
黒龍の胸は抉れ、黒い体液がどばどばと溢れ出てくるが、動きが止まることはなかった。
「心臓を破壊してもダメか!」
そう言っている間にも黒龍の身体は再生をしていく。
「それなら再生が追い付かなくなるまで吹き飛ばせば!!」
「私も手伝います!」
「わ、私も!!」
ルシルが爆発の魔法、リシアが高水圧の鉄砲水、そしてアカネは青白い炎の球で黒龍の身体を次々と抉り取っていく。
「それならこいつも食らいやがれ!!」
カイが魔法が吹き荒れる中に飛び込み、高く跳躍した。
「サラマンダー!!俺に力を貸しやがれ!!!」
カイは黒龍の頭上から頭に目掛けて大剣を振り下ろした。
大剣が黒龍の頭に衝突した瞬間に黒龍の上半身が跡形もなく吹き飛んだ。
「どうだ!!」
カイが着地して、ルシルとリシア、アカネの魔法の嵐も止んだ。
黒龍の下半身も原型を留めていなかった。
しかし、そこからはボコボコと黒い液体が溢れ出ていた。
「っ!まずい!!避けろ!!!」
フィルジアが皆に指示すると同時に、黒い液体が砲弾のように襲ってきた。
「死んでねぇのかよ!」
カイは舌打ちしながら攻撃を避ける。
「きゃあ!!」
「アカネ!」
アカネが黒い液体の砲弾に直撃してしまう。
アカネの腹部に黒い液体が侵食するように黒ずんでいく。
「アカネ!しっかりして!!」
「カイ!俺達はあいつを食い止めるぞ!!」
「ああ!!」
リシアがアカネの治療に移り、カイとフィルジアは黒龍に向かって飛び込んでいく。
「私が障壁を張っておくわ」
「お願いします!」
ルシルがアカネ、リシアと自分を包むように障壁を張った。
「ううぅ」
「月のマナで治療すれば大丈夫なはずだけど・・・」
リシアは指輪を使い、月のマナで浄化するようにしながら治療をしていく。
「リシアちゃん、大丈夫そう?」
「はい、命には別状ないかと思います」
アカネのお腹にあった黒い液体の侵食は無くなっており、肌色が戻っていた。
「リシ・・ア、ありがとね」
「今は少し休んでいてください。まだ悪影響を起こすかもしれませんから」
「・・・うん」
リシアは内側に侵食が無いかを確かめながら治療を続けた。
「服買ってあげないとね」
「そうですね」
アカネの服はこれ一着だ。
今の攻撃でお腹の部分が完全に破れ、浴衣が上半身と下半身で別れてしまっていた。
「さすがにこれは私でも直せませんね」
リシアは服の状態を見て呟くのだった。
「カイ!あまり突っ込むなよ!」
「わかってるって!お前こそ動きを止めるなよ!」
黒龍はすでに上半身の再生を終え、何もなかったようにカイとフィルジアを攻撃していた。
「これじゃあ消耗するだけだぞ!!」
「レィナがやったように何かで動きを止めるしかないのか」
二人は応戦してはいるが回避に専念しているので、何とか耐えている状態だ。
いつまで持つか分からない状態だった。
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「そろそろこちらも始めましょうか?」
「「はぁ・・・はぁ・・・」」
ベッフェルは悠然と立っているが、リィナとレィナはベッフェルの初撃で一気に押されてしまったのだ。
「何なのよ、こいつ」
「前の時と全然力が違います」
二人は立ってはいるが息切れをしていた。
「・・・何か方法は」
シオンは二人に守られて無事だったが、何か手がないか思考を巡らせていた。
ベッフェルの初撃はただ瘴気を身体全体に纏い、シオンを目掛けて突進してきただけだ。
シオンは避けようとしたが、その時後ろには他の戦っている仲間がいたため、防御することにしたのだ。
だが、障壁は容易く突破され、シオンが攻撃を受ける寸前でリィナとレィナが間に入り、二人は障壁で突進を受け止めたのだ。
力は拮抗していたが、ベッフェルは瘴気を圧縮して爆発を起こした。
ベッフェルは爆風に乗り離れたが、リィナとレィナは障壁でその爆発を直で受けてしまった。
障壁は破壊され、シオンも共に多少のダメージを受けてしまったのだ。
「こういうのはどうです?」
ベッフェルがそう言うとベッフェルの周りに瘴気で出来た50㎝ほどの球体が何個も現れた。
ベッフェルが片手にそれを持ち、こちらに向かって飛ばしてきた。
「っ!」
シオンは嫌な予感を覚え、剣に二人のマナに染まったマナを圧縮して、それを弾き飛ばした。
ドッガアァアァァン!!
それは誰にもいない方へ飛ばされて大きな爆発を起こした。
「噓でしょ」
「あれがあんなにたくさん」
後ろで見ていたリィナとレィナはその威力に驚きを隠せなかった。
「ふむ、弾くとはなかなかやりますね」
「そっちこそそのまま維持しているだけでいいのか?」
シオンはそう言って剣に宿したままにしていたマナを使い、ベッフェルの近くにあった瘴気の球体に風の弾丸を飛ばす。
二人のマナに染まっているマナを使用したので、瘴気に消されることなく風の弾丸は球体を破壊する。
ドッガガガガガアァァン!!
ベッフェルの近くにあった球体も爆発に巻き込まれて連鎖爆発を起こす。
「リィナ!レィナ!頼む!!」
「「っは。はい!!」」
二人はシオンがいうことを理解して再びキスをして、マナを補充する。
マナが補充したのを確認するとシオンはすぐさまベッフェルがいた場所に駆け出す。
「小癪な!!」
爆発で舞い上がった砂埃が晴れると、ベッフェルはシオンに気付いていたらしく瘴気で出来た鎌で迎撃しようとする。
シオンもそれを見通していたかのように、マナが宿った剣で鎌の横に触れて受け流す。そしてその勢いのままベッフェルの脇腹を切り裂く。
「ぐはっ!!」
ベッフェルはシオン目掛けて鎌を振るがシオンはすでに離れていた。
「シオン君すごい!」
「あんな剣技も使えるんですね」
リィナとレィナは称賛していたが、シオンは心の中でエストにお礼を言っていた。
なぜなら今のはシオンもエストにやられた技をベッフェルに使ったのだから。
「っつ」
だが、エストの様に完全に受け流すことが出来なかったらしく、シオンも腕に攻撃が入っていた。
「なかなかやりますね。今のは危なかったかもしれません」
ベッフェルは脇腹を抑えながら見下ろしてきた。
「少し本気を見せましょうか」
ベッフェルがそう言うとシオンの周りに突然黒い槍が降って来る。
「これは!!」
シオンは障壁を全マナを使うつもりで張る。
「塵となりなさい」
「「シオン君!!」」
ジジっ!・・・ドガガガガガガガ!!!
降ってきた槍は五本、槍はそれぞれがものすごい量の瘴気を纏い黒い雷を放ち始め、中心にいるシオン目掛けて全方位から襲い掛かった。




