第102話 魔人討伐へ
ベッフェルは元々戦いとは無縁の魔人だった。
かつて、魔人が住んでいた魔界にはいろんな種類の魔人がいた。
魔界とはこの世界アル・アニムスの何処かの地下にある場所だ。
そこは人間族やエルフ族、獣人族、妖精族といった種族が住む地上と違う所がある。
地上がマナで構成される場所というのなら、魔界は瘴気で構成された場所と言える。
魔人族は唯一、瘴気に耐性がある種族だったため魔界で暮らすようになったと言われていた。
もちろんその中には笑いが在り、悲しみが在り、幸せが在り、苦しみも在った。
そして、ベッフェルは研究が好きな住人の一人であった。
ある日、魔界の王である魔人王にベッフェルは呼ばれた。
「人間達は天使を消し去るつもりだ。そうとしか考えられん。それは絶対に防がなければならない。そのために人間族を滅ぼそうと考えている。そこでお主の研究が必要になるかもしれん。どうか手伝ってはくれぬか?」
魔人王にベッフェルはそう言われたのだ。
「申し訳ありませんが、私には人間は滅ぼす対象に見れません」
ベッフェルは人間族が嫌いではなかった、知り合いもいるしどちらかと好きな方だったので断った。
「・・・手伝ってくれるならお主が研究している瘴玉。その研究を手伝ってもいいのだぞ?」
「・・・・・・・」
この時、ベッフェルが研究していたのは瘴玉。瘴気を球に維持し続け、エネルギー源にしようとする研究。
魔人の生活は瘴気ありきで動いていた。歳を取ると瘴気の制御力も衰えていくので、その対策として研究しているものだ。
そして今、その研究が滞ってきているのだ。主に費用が掛かってしまう故に。
「・・・わかりました。貴方様に従いましょう」
その魔人王の言葉が最後の押しとなり、ベッフェルは従うことになった。
「・・・・・・」
ベッフェルは突然、自分がしようとしているかということに疑問を持ち、その歩みを止めた。
「・・・・・・おい!ベッフェル!どうかしたか?」
いきなり立ち止まったベッフェルにイマーゴが話しかける。
「いえ、なんで私は人間を滅ぼそうと考えるようになったかに疑問を持ちましてね」
「そんなの俺らを封印した人間が憎いからだろ?」
「そう・・・ですよね。いえ、そうです。さぁ、その子供をこいつの前で痛めつけるとしましょう」
ベッフェルの目に一瞬宿った純粋な目は直ぐに狂気が満ちた眼に変化するのだった。
「そういえばお前が創った実験体の二人はどうした?」
「ああ、あれはもう用済みとなったので適当に見回りに行かせてますよ。邪魔がいたら処分するようにも言ってあります」
「ふーん・・・ってことはあれは出来たんだな?」
「なぜそれを知っているのですか?」
「お前封印される前に俺と少し話したじゃん」
「ああ、そういえばそうでしたね」
「で、そいつがそうなのか?」
「ええ、これがあれば」
「・・・そうか」
ベッフェルの手には瘴玉とは少し違う色をした玉が握られているのだった。
そして、イマーゴはそれを見て、口がにやけるのであった。
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「そういえば、シオン達の方は魔物と戦ったのか?お前達の所に行く途中、魔物がいないわけではなかったが、少ない思ってな」
城へ向かっている途中にフィルジアが話しかけてきた。
「いや、思っていたよりは少なかったですよ」
「やはり、魔人達が排除したということか」
今は町の中を歩いているが、町には魔物の死骸があちこちに見られた。
「どういうことですか?」
「確か『死の揺り籠』でしたっけ?中にいるものを死に至らせるっていう」
リシアが預言者ラケルの言葉を思い出しながら言った。
「あ、そういうことか」
「シオン君、なにがそういうことなの?」
「いや、恐らく『死の揺り籠』は中にいる生命力を糧にして持続してたんじゃないかなって」
「シオンもやはりそう考えるか」
どうやらフィルジアも同じように考えていたようだ。
「なるほど。だから、魔人達は魔物を殺して、結界の維持する力を無くそうととした。と考えられるわけですか」
レィナもそのことに気付いたようだ。
「そういうこと」
シオン達はそんな話をしながら慎重に歩き続けた。
「シオン!何かいる!」
暫く歩いていると、いきなりフィーが叫んだ。
『え!?』
しかし、シオン達も探知の魔法は使っているが、反応がなかった。
シオン達は周りを見渡すがやはり何もない。
「っ!?エリー!!」
突然エストがエリーに向かって剣を振るった。
「きゃ!?」
エリーは突然斬りかかって来られて目を瞑ってしまう。
エストの剣はエリーの脇をぎりぎりで通過していった。
「っち!」
エリーの後ろの空間が揺らぎ、中から女の人の声がした。
そしてその揺らぎはまた消えてなくなってしまう。
「幻術!?」
シオンはその可能性が高いと考えた。
「兄様?」
「驚かせてすまん、エリー」
「いえ、ありがとうございました」
エストはエリーに突然斬りかかったことを謝っていた。
「シオン君、幻術ってこんなに分かりづらいものなの?」
「僕自身も幻術は得意ではないからなんとも言えないけど、これは」
皆は周りを警戒しているが、相手がどこに消えたか分からない状態だった。
「シオン!そっち!!」
シオンはフィーが指を差した方へ風の砲弾を放つ。
「うっ!!」
ドン!ガラガラ!!
風の砲弾はリィナの脇を駆け抜けていき、攻撃しようとした何かに当たり、壊れた家屋へと吹き飛ばした。
「・・・へ?」
リィナのスカートが風の砲弾の影響で捲り上がった。
可愛らしいピンク色のパンツが露わになる。
シオンやカイ、フィルジアといった男性陣の目は一瞬だがそこに吸い込まれる。
そして、何もなかったようにスカートは重力に従い戻っていった。
「もう!シオン君のエッチ!!」
リィナはシオンに詰め寄る。
「それよりあっちだよ!」
「あ!そうだった!」
シオンが吹き飛ばした何かが姿を現した。
「そこの小さいやつ・・・・捕まえていないで殺してればよかったのに」
壊れた家屋から魔人アミラが出てきた。
「あ!あなたは!?」
フィーがすごく驚いていた。
「お久しぶりね。私はアミラよ。あんたが逃げたおかげでいろいろ大変だったんだからね」
魔人アミラはアルマポールトでフィーを捕え、監視していたことがあったのだ。
「それがあんたのやり方か?」
カイは大剣を片手でアミラの方へと向ける。
「私は正々堂々とやるのは性に合わないの」
そう言うとアミラはまた姿を消してしまう。
「くそ!またか!」
「フィー、位置はわかる?」
「・・・なんとなく」
唯一フィーだけはは場所がわかるようだ。
恐らく、フィーは感情を感じることが出来るからだろうとシオンは考えている。
フィーの顔をゆっくりと何も無い方を見て追っている。
シオンはリィナとレィナの方を見る。
すると、二人もシオンの方を見て何かを察して頷いた。
「そこ!」
リィナはフィーの視線の場所とずれた場所に短剣で斬りかかる。
「バカね。ハズレよ」
アミラはリィナの後ろに姿を現し、右手に瘴気を収束させて構えた。
「させません!」
そこにレィナが氷の槍を投げ放つ。
氷の槍はアミラの身体をすり抜けて、通り過ぎていく。
「え!?」
レィナはその現象に驚く。
「きゃ!」
そしてリィナはアミラの右手から放たれた瘴気の攻撃を受けてしまった。
「リィナ!」
レィナはリィナが吹き飛ばされるのを見て叫ぶ。
「どこを見ているのかしら?」
アミラはフィーが見ている方向とは別の場所に姿を表す。
そこはフィルジアとリシアの間。
「ぐっ!」「っ!?」
二人はすぐにアミラに向かい攻撃を仕掛ける。
しかし、その攻撃も虚空を斬ってしまう。
「残念♪」
その言葉と共にアミラを中心に爆発が起き、フィルジアとリシアの近くにいたアカネまで攻撃に巻き込まれてしまう。
「リシア!」
シオンは思わず叫ぶ。
「くっ・・・まだです」
リシア達はリシアが張った障壁が間に合い無事のようだ。
「へぇ、しぶといのね」
その声が聞こえた方を見ると、また別の少し離れた場所にアミラは立っていた。
「えーい!」
アカネがアミラに向かって青白い炎を投げ付ける。
アミラのいる場所に着弾して地面をマグマのように溶かす。
「面白い炎ね」
そして、また違う場所にアミラは姿を現す。
「フィー、何かわかるか?」
「なんかね、最初は一つだったのに今は何個もあるっていうか」
「何個も?」
フィーはあちらこちらと視線を泳がせている。
シオンはアミラが自分達の位置をあまりにも正確に捉えているような気がした。
先程から姿を現しているのは視線の死角、攻撃が届き辛い位置、幻術でここまで正確に惑わすには全部が見えていないと難しいのではと考えた。
「フィー、一つ頼みたいんだけど」
「あなた達がベッフェル様に敵うとは思えないわね」
アミラの声がまた別の場所から聞こえてくる。
「この私にもこの有り様ではねぇ」
そして、また別の場所。
「だから、そろそろ終わりにしましょうか」
またまた別の場所。
今アミラは合計四人に増えていた。
そして、それぞれの両手には瘴気が収束していくのがわかる。
『――――――――――――』
そして、詠唱がそれぞれの方向から聞こえてくる。
「リィナ、レィナ、頼む!」
「「はい!」」
二人は協力して皆がいる頭上に水蒸気を爆発的に生み出す。
そして、皆を包み込み姿を隠す。
『無駄なことを!例え見えなくても、この私の目からは逃げれないわ』
アミラ四人の声が重なる。
そして、水蒸気はアミラ達も包み込む。
アミラの位置からはシオン達がバラバラに移動しようとしているのが、水蒸気の中の影が見えていたのでわかっていた。
『そこね!』
アミラ達はバラけたシオン達の方向へ向かって、それぞれに巨大な炎の蛇のようなものが襲いかかる。
そして、炎はそれぞれシオン達を囲い、飲み込むのをアミラは視界が悪い中、確認した。
水蒸気が晴れた後にはアミラが放った炎で黒く焦げた地面と人の形をしたものが転がっていた。
「あっけないわね。この程度で死んじゃうなんて」
四人いたアミラは姿を消し、もう一人のアミラが空から降りて来た。
「この程度だなんてっ!?」
アミラが黒く焦げた人型の何かに近付いた時に気付いてしまった。
「これは土!?でも動いてっ!!」
アミラの首から下が突然凍ってしまい動けなくなった。
「これで終わりですね」
アミラの背後に急にレィナが現れた。
「残念だけどこっちに幻術使える子がいるんだよね」
リィナも姿を現す。
「えへへ」
そして、フィーが照れたように笑っていた。
シオン達は元いた場所から一切動いていなかったのだ。
フィーの幻術で姿を隠し、エリーとノームの協力で土人形をばらけさせて動かした。
土人形に対して攻撃すれば、皆がいる場所に攻撃が来ない様にしたのだ。
そして、シオンはアミラが全体を常に見て動いているように見えたのだ。
そう考えると地上にいるより上から見た方が把握できているんじゃないかと考えた。
幻術を使えるのであれば、地上に常に幻の自分を置いておけば、自然とそれが本物と見るようになる。
シオンはそれを逆手に取った形の作戦を立てたのだ。
「まさかそいつが!?」
「そういうことです」
レィナは肯定した。
「だけどこんな氷なんて私の瘴気にはっ!!・・・壊せない!?」
「それはそうですよ。その氷は月のマナで出来ているのですから」
「お前たちが巫女だとでもいうの!?」
「あら?そのことは知っているのですね」
「っく」
アミラは失言をしないように口を堅く閉ざした。
「シオン君、どうする?」
「まぁ、ベッフェルの居場所を教えてもらえばいいんだけど」
「・・・・・・っ!?」
次の瞬間、アミラの腹部を瘴気の槍が貫く。
「ベ・・・フェル・さま・・・」
アミラはそう言い残し、瘴気となり消えていった。
「ベッフェル!仲間をなぜ殺した!!」
シオンは槍が飛んできたほうを見るとベッフェルともう二人後ろが傍に立っていた。
「そんなの何かを話されたら困るからに決まっているじゃないですか。といっても彼女も頑張ってくれました。お礼として苦しませずに殺してあげたのですよ」
「・・・お前、以前と変わったか?」
「・・・・・・何をいっているのですか?」」
シオンとリィナ、レィナ、フィーはベッフェルとアルマポールトの付近で一度対峙している。
今、目の前にいるベッフェルがあの時と纏う雰囲気が違うように思えた。
「兄様・・・あれって」
「っ!ベッフェルといったな。なぜ父上がお前の傍にいるんだ!」
エストはベッフェルの後ろにいる人物を指差して叫んだ。
「ん?ああ、貴方達がこれの子供ですか。これは」
「こいつは俺の作品だ。拾い物で創った割にはいい感じだろ?」
途中からもう一人の男が口を挟んできた。
「あんたはあの時橋で会った!?」
「イマーゴだ。以後よろしくな」
リィナが叫ぶとイマーゴは自己紹介してきた。
「さて、そこの子供二人が持っている剣を渡して頂きましょうか?」
ベッフェルはそう言ってエストとエリーを指差す。
「・・・渡さない」
エストが答えるとベッフェルは狂気の笑みを浮かべた。
「そうですか。イマーゴ、少しこれで遊んであげてもらっても?」
「今回は従ってやるよ。こいつのテストだ」
イマーゴがそう言うとエストとエリーの父親であるエスカーン王が剣を構えながら、シオン達の方へ歩いて来るのだった。
「私の実験も終わりました。貴方達には感謝しますよ。私が創った物を尽く壊してくれましたからね。おかげでいい実験データも取れ、完成することが出来ました。もう実験の必要はない。貴方達は今後、主の邪魔になるでしょうから、私が殺してあげますよ」
ベッフェルもシオン達を見据えてそう言ったのであった。




